2024.04.26
「名前のない病気」宮川サトシ 大賞受賞記念インタビュー
「今もう、これを描かずには人生終われないという感じです。」
――大賞おめでとうございます! 受賞の知らせはどこで受けましたか?
連載中の作品の最終回の原稿を描いている最中に、編集部から電話があって。大賞だと聞いた時は驚きと喜びが襲ってきたのですが、〆切がヤバかったので(笑)、「また後で…」といったん電話を切らせてもらいました。応募作は、自分の人生が深く関わっている話だったので、それが認められたことは本当に嬉しかったです。
――宮川さんは今回の賞になぜ応募しようと思われたのでしょうか?
編集部の方と別のエッセイ漫画の企画を練っていたんですが、打ち合わせの時に賞のことを教えてもらったんです。僕はもともとドキュメンタリーが好きで、それこそテレビ番組の「情熱大陸」に出たいという気持ちだけで『情熱大陸への執拗な情熱』という漫画を描いたこともあります(笑)。
これまで母のことや子育てのことを描いてきましたが、ずっと表に出せず自分の奥底に沈めてきたことがあったので、いよいよそれを出す時が来たのかと感じて、応募してみようと思いました。
――触れずにいた過去を描くのは、相当の覚悟が必要だったのでは?
そうですね…。これまで意識的に避けてきて、なんなら隠すように漫画を描いてきたことを応募作の中に詰め込んでいるわけなので…。
幼い頃からずっと友達や先生にも隠しながら生きてきて、漫画家になってからも、ずっとお腹の中に鉛玉がつっかえているような感覚があったので、いつの日か描かなければという思いを抱えていました。ただ、所帯を構えて子どももいるので、この話を漫画としてどこまで表現していいのかを悩んでいるところも正直あります。
――応募作は、これまでのエッセイ漫画よりも絵柄がリアルに感じます。
作中にエッセイ漫画を描いている描写があるので、絵柄を変えることでデフォルメされたエッセイ漫画との対比が生まれると思ったんです。自分のことを可愛いキャラクターとして描いている男が、じつは腹の中に真っ黒な鉛玉を抱えているというギャップを表現したいという狙いはありますね。
僕以外の人に作画をしてもらったほうが良いのではと考えたこともありましたが、これは自分で全部背負う覚悟がなければ作ってはいけない作品だと思うので、今は下手でもいいから自分ですべて描くべきなんだと思っています。
――この作品をこれからどんなふうに描きたいと思っていますか?
大賞の知らせを受けて、実家近くに住む親族に電話をしたんです。この話を描くつもりだと伝えたら、「じつはお前の知らなかった話が一杯あるんだよ」と言われて。大賞にならなければ知らずに終わっていた話がたくさん出てきたんですよね…。だからもう、これを描かずには人生終われないという感じになっていて。この漫画を描き始めたことで自分自身が変わっていく様を現在進行形で描いていくことになるのかもしれませんね。
――そこまで自分の過去を晒す話を描きたいと思ったのはなぜでしょう。
究極的には自分のエゴなんだと思います。どんな辛い出来事でも、僕は自分が見てきたものを面白いと思っているので、それを描いたらどんな漫画になるんだろうという好奇心が強いんです。
漫画家としては描きたいシーンが先にあって物語を描き始めるタイプなので、「あの思い出の場面を絵にしたい」とか、「あの時の気持ちを言葉にしたい」と思ったら、それを描かずに墓場まで持っていくのがもったいないと感じてしまうんです。
――読者には、これから始まる連載をどう読んでもらいたいですか?
僕のこと、嫌いにならないで欲しいなって(笑)。本音を言うと、ともかく読者には面白がって読んで欲しいんです。その結果、憐れんでくれてもいいけど、生きるってこういうことじゃないの、みたいな感じが伝わればいいなって。誰にでも隠しておきたいことはあるだろうし、こういう暗い部分も含めての人生なので、読み手に何かしら共感してもらえたら本望ですね。
PROFILE 1978年生まれ。2012年漫画家を志して、上京。2013年デビュー。代表作に『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『宇宙戦艦ティラミス』(原作担当)。育児エッセイ漫画や様々な漫画原作も手がけている。
大賞受賞作「名前のない病気」は2024年夏、スペリオール本誌にて連載開始予定! ご期待ください!!