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2014.10.11
劇作家・宮沢章夫さん「岡崎京子や浅野いにおが、その時代の空気を教えてくれた」◆屋根の上のマンガ読み
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第61回 宮沢章夫
《プロフィール》1956年生まれ、劇作家・演出家・小説家。劇団「遊園地再生事業団」主宰。1993年に『ヒネミ』で岸田戯曲賞受賞。多数の舞台作品のほか、エッセイ・小説でも高い評価を得ている。
《プロフィール》1956年生まれ、劇作家・演出家・小説家。劇団「遊園地再生事業団」主宰。1993年に『ヒネミ』で岸田戯曲賞受賞。多数の舞台作品のほか、エッセイ・小説でも高い評価を得ている。
「岡崎京子や浅野いにおが、その時代の空気を教えてくれた」
演劇をつくるときには、俳優がどんなふうにして舞台上に立っているのかを考えてるんです。その時代の空気があるから俳優の体はこうなる、俳優たちの体がこう変化してきたから劇はこういうふうに変化していく、って演劇人としては考える。そこで90年代的な空気を教えてくれたのが岡崎京子さんの[リバーズ・エッジ]です。
たとえば川原のある少し郊外の、団地が並んでるような地域。それは80年代に語られることの多かった原宿・渋谷とは違う、また別の東京の側面であると。それから「死体を見ると落ち着く」っていうことがいったい何を示しているのか。80年代って、ある意味かっこよさというか、表層的な部分での滑らかさとか美しさに価値を置いてたと思うんですけど、その底にはもっとドロドロしたグロテスクなものが流れてたはずなんですよ。悪意とか恨みとか、人間の汚れた部分が隠されているはずで。そのバランスの、どこかが破綻したときに"酒鬼薔薇事件"のようなものが起こるのかもしれない。[リバーズ・エッジ]には、そんな予見みたいなものがあったんじゃないかと感じます。
当時[リバーズ・エッジ]は様々な批評をされたし、文芸の批評家とか学者にも取り上げられてひとつの現象になったんですよね。力を失った文学の代わりに読まれて、ある程度の年齢いった人たちにアピールした。ただ、文学として読まれたことを評価するのではなく、やっぱり死体のグロテスクさと美しさの繊細なバランスを、見事に表現したところを評価しなければいけないんです。
浅野いにおさんの[虹ヶ原 ホログラフ]は俳優の風間俊介くんがすすめてくれたんですよ。どちらかというとグロテスクな話だし、スピリチュアルな部分も持ってる。だけど人の悪意の描き方が、この時代のものだなと思ったんですよね。
連載が始まった2003年は、黒沢清の映画『アカルイミライ』、ガス・ヴァン・サントの映画『エレファント』が公開された年なんです。ここには共通した表現の方法がある。毒や悪意みたいなものを持った人間が、みんな淡々としてるんですよ。淡々と悪意を出すのが非常に怖いんですよね。それから非正規雇用とか現代的な貧困や、シャッター商店街のような地方の衰退の問題を、社会的に告発する調子だった過去の表現とは、まったく違う方法で描いています。
[リバーズ・エッジ] ©岡崎京子/宝島社
変化のきっかけ
いしいひさいちさんが登場したときは、すごく新鮮なものを発見したなと思いましたね。[バイトくん]はすごくくだらなかったですね(笑)。初め、いしいさんのマンガは関西の情報誌でしか読めなかった。それでようやく単行本にまとめられたのが70年代の後半ですね。新しい笑いでしたね、当時はすごく。
しりあがり寿さんはいろんな種類の作品を描いてますけど、[コイソモレ先生]が好きですね。力の抜け具合がすごい。だいたい「コイソモレ」ってどういう意味なんだって言いたくなりますけどね(笑)。
諸星大二郎さんは、マジックリアリズム的というか、私たち近代に生きてる人間とは違うところに存在する霊的なものとか、神秘的なものを描くじゃないですか。そこが好きですね。なかでも[マッドメン]に、演劇をつくるときかなり影響されたと思います。
物事や歴史っていうのは立体的にできてるんです。平面的に流れてるんじゃない。たとえばビートルズがアメリカに上陸した1964年を境に、音楽が変わるんですよ。それまでのポップスが「オールディーズ」と呼ばれるようになってしまった。また、劇画の発展には手塚治虫という天才を超えようという動きがあった。それぞれ、変化するきっかけとなる出来事や社会現象、テクノロジーの変化があったと思うんです。そういういふうに考えていくと、これらの作品には、その時代の空気や背景が含まれているし、やはり読んでよかったなと思えますね。
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『サンクチュアリ』のように、仲間といったん別れ
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かつての実業家が歴史小説を好み、
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<10/25(土)更新予定>
【「屋根の上のマンガ読み」バックナンバーはこちら!】
(取材構成:ビッグコミック編集部、根本和佳 撮影:松原康之)
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ビッグコミック公式
【初出:コミスン 2014.10.11】
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