2014.09.30
【新連載】「ジャケ萌え!」1冊目『SEIKI -土田世紀 43年、18,000枚の生涯-』【後編】
読むだけじゃない、見て触って嬉しい単行本。なんだかカッコイイ! 可愛い、きれい、オシャレ!そんなグッとくる「マンガの装丁」の魅力をお届けする連載企画が「ジャケ萌え!」です。
装丁を見るだけで内容が気になってしまう、そんなたまらない"見た目"をしたおススメ単行本をピックアップし、見どころや舞台裏などを紹介していきます!
→「ジャケ萌え!」1冊目『SEIKI -土田世紀 43年、18,000枚の生涯-』【前編】はこちら
第1回目は『SEIKI -土田世紀 43年、18,000枚の生涯-』。
8月31日まで京都国際マンガミュージアムで開催された「土田世紀全原画展――43年、18,000枚。」の関連書籍として発売された本書。【後編】では、装丁を担当したcozfishの祖父江慎さん&鯉沼恵一さん、そしてIKKI編集長の江上英樹さんに「このデザイン、どう決まったの?」にこたえていただきました!
cozfish 祖父江慎さん&鯉沼恵一さん
――装丁の方向性はどのように決めてたのでしょうか?
祖父江 ツッチー(土田世紀さん)とは昔、何回か会ってる。その作風から、どんなにコブシが利いてるかと思ったら、意外に自然体な人でビックリ! 原稿も、ズッシリ、シットリしているのに、アッサリ風味でもあって、実はつかみ所がない! 今回の本も、限られた時間の中で「いろんなムリを迂回していく」っていうのかな、渾身の力を込めたと思ったら、いきなり脱力したり、そんな感じかな!
――ポイントとなる部分、苦労したところは?
祖父江 最初は図録として単独で作るつもりで「大判で薄くてザツな本」をイメージしてたんだけど、書店売りをするということになって、うーん、「ハイッ!」って、うちの鯉沼恵一(cozfish専属デザイナーで、今回のブックデザインを担当)にバトンタッチ!!
鯉沼 カバーに使う絵柄は展覧会のメインビジュアルと同じく「俺節」の第一話の扉を使うことは決まっていました。ただ、同じ絵を使った『定説 俺節』(太田出版刊)の銀を使ったカバーデザインがある意味完璧だったので、それと差別しなくてはと思いました。その際、昔、祖父江さんが土田さんの絵を使って作った『シンバッド』(竹書房刊)という雑誌の表紙を見せてもらいました。「顔って塗っていいんだ! 肌色じゃなくてもいいんだ!」と驚きで。で、ストイックなカバーとは対極にある「バチバチ色物方向」で行くことに決めたんです。しかも、担当の江上英樹さんから「なんだか、語感が『IKKI』みたいだよね。『SEIKI』って」と言われたこともあり雑誌っぽい感じで、雑多なエキスをギュッと注射したような本にしました。
――書店でもおうちでも、実際に本棚に並んだ時、どんな風になるよう意識しましたか?
祖父江 ズッシリシットリしていて、でも手に取りやすく! ロゴの"はがれた裏に輝くいぶし銀"も、ツッチーっぽいノイズでしょ!!
――この本をまだ読んでない人に一言!
祖父江 あしたのジョーの絵も入ってまーす!!
グレーの箔で輝く背。棚にならべるととてつもない存在感です!
IKKI編集長 江上英樹氏
――装丁について、事前に何かイメージがありましたか?
江上 僕が『俺節』の担当をしている頃に、祖父江さんの仕事場で見た『シンバッド』の表紙デザインの、ツッチーの描いた線画全体に指定で色を敷いていく手法がすごいカッコ良かったので、あんな感じがいいとは思ってました。しかも本人が亡くなってしまい、新たに描かせることができないならなおさら、そういった手法が有効だと思ってましたし。なので、今回のカバーデザインができあがったとき、思った通り(以上)とガッツポーズを取りました!
――cozfishさんの提案を見た時の感想は?
江上 編集とデザインが同時進行だったので、「提案」を見てどうのこうのではなく、お互いの間で、常に行きつ戻りつを繰り返している感じでした。ただ、それもツッチーっぽいと思っていたので、苦になりませんでしたが......。当初のアイデアがムリになって方向転換するときも「まあ、ツッチーならOKだもんね!」という感じで。最終的に本が完成して、一冊目を手にした瞬間、「成功した」と実感しました。重さ、手触り、めくり感、そして裏返して価格に目をやった瞬間の「値頃感」も完璧だと思いました! 自画自賛になりますが......(笑)
――土田世紀さんについて、印象に残っていることを教えてください。
江上 僕は年下の作家の方でも、基本、「~さん」と敬称をつけて呼ぶことにしています。でも、ツッチーだけはツッチーとしか呼びようがありません。そんなヤツでした。
――この本をまだ読んでない人に一言!
江上 手垢と染みにまみれた、そのゴツゴツの原画をぜひ見て欲しい。そこにはワープロ原稿ではなく、明治の文豪の手書き原稿にも通じる「凄み」が刻まれてます!!
収録作品によっては現存する掲載誌をバラしてスキャンしている。
下はスキャン後、元に戻したときにずれた閉じ位置の跡。
単行本データ
『SEIKI -土田世紀 43年、18,000枚の生涯-』 世紀のプロジェクト
[判型]A5判(148×210mm)並製アジロ綴じ 343ページ
[カバー]ヴァンヌーボー 片面4C ニス+箔押し 四六判130g/m2
[編集責任]江上英樹
[デザイナー]祖父江慎一+鯉沼恵一(cozfish)
★ジャケ萌えMEMO★
表紙のSEIKIの文字は岩を叩いたようなほころび。カバー部分を広げると2人とも大きく口をあけ叫んでいるのが印象的です。反対に、背表紙となる部分には静けさ。オビをのぞいて、ここには何のメッセージも書かれていない。大きな口と無音のギャップが響いてきます。
そしてなんといっても、グレーの箔押し!! これが無くてはこの装丁については語れないと思います。ここがもし通常のグレーだったら? もちろんカッコイイ装丁であることには変わりありませんが、箔という、そっと忍び寄るゴージャス感。ここは絶対にギラギラさせてもらいたい!
ついでにいうなら、背もとってもギラギラ。ギラギラは目立つ。目立つは楽しい。楽しければ絶対に忘れない。数ある本の中で記憶から薄れない本は本棚にもずっと残るのです。
(ライター:川俣綾加)
フリーライター、福岡出身。デザイン・グラフィック/マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブ、『マンガナイト』などで活動中。著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』 http://ayamata.jugem.jp/
ジャケ萌え!
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SEIKI-土田世紀 43年、18,000枚の生涯- 編/世紀のプロジェクト
【初出:コミスン 2014.09.30】
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