トップ  >  【連載インタビュー】オリラジ中田敦彦さん/出産・育児に触れて『ママはテンパリスト』の面白さを再認識、『昭和元禄落語心中』には演芸をする側として共感!! ( 2014/01/10 )
週刊スピリッツ

2014.01.10

【連載インタビュー】オリラジ中田敦彦さん/出産・育児に触れて『ママはテンパリスト』の面白さを再認識、『昭和元禄落語心中』には演芸をする側として共感!!

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第43回 中田敦彦
《プロフィール》
1982年生まれ。お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」を藤森慎吾と結成。インテリ芸人としても知られている。妻はタレントの福田萌。初の著書である自伝的青春小説『芸人前夜』が発売中。





「女性作家が描く男の世界というのが、かなり好きなんだと思うんです」


 

 2013年に嫁が出産しまして。やっぱり大変で、イライラしてたんですよ。そんな時に、東村アキコさんの[ママはテンパリスト]がいいって聞いたなって思い出して、買ってきたんです。そしたら嫁が読んで「これは面白い」って、すごい上機嫌になって。以前も少し読んだことあったんですけど、子供産まれてから読んだら全然リアリティが違ったんですよ。何がいいって、赤ん坊を憎たらしく描いてるんですよね。お母さんのストレスってどこにあるのかなと思ったときに、「自分はものすごく大変なのに、まわりからは祝福しかされない」というギャップだろうなと思ったんですよ。「かわいいでしょ、うれしいでしょ、おめでとうね」って言われながら、いやいや寝られないし、疲れてるし、こんなに大変なのに愚痴れない。悔しい。でも赤ちゃんに対してイラっとしたらいけないんじゃないか、自分はひどい親なんじゃないか、って思うんですけど、やっぱり疲れてるときに泣かれたらイラっとするよね、というようなことがちゃんと描かれてて。イラっとしてもいいんだ、普通なんだって思えるし、でも作品は愛にあふれてるので、すごく笑えて。[ママはテンパリスト]は、育児するうえでセラピーになる本だなと思いましたね。


 それから僕は、女性作家が描く男の世界というのが、かなり好きなんだと思うんですよ。雲田はるこさんの[昭和元禄落語心中]は舞台に出てるときの緊張感にリアリティがあって、うまいんです。ネタってすごく人間性が出るんですよ。ボケをきっちり作りたい人とか、絶対にスベりたくない人とスベっても関係ないっていう人とか、いろんな人がいて。人柄がネタに出るということを、この作品はうまく描いてて、演芸やる側としても共感ができるんです。それに、落語家が艶っぽいんですよ。雲田さんが、ネタをやってるときの落語家ってセクシーだな、と思って描いてるんだろうなというのが伝わってきて、それがおしゃれに描かれていますね。


 羽海野チカさんが描いてる[3月のライオン]っていう将棋マンガもいいんです。バトルとしての将棋よりも、棋士が背景にこんなものを背負ってて、こんな憧れがあって、戦って敗れて、こんなふうに傷ついている、という表現のほうが分厚くて。それがすごく面白いなと思います。


   

mamaten_s 東村アキコ[ママはテンパリスト] Ⓒ 東村アキコ/集英社


(愛蔵版コミックス/集英社)



夢の塊みたいな本


 

 押切蓮介さんの[ハイスコアガール]は、うれしかったですね。押切さんは僕と同世代なんですよ、きっと。よく話題になるインベーダーゲームやファミコン初期の話じゃなくて、「スト2」とか「鉄拳」とか、セガサターンの悲劇とか、その時代のあるあるに共感できるんです。それにうまくギャグをまじえつつ、ボーイミーツガールのストーリーになってるんですね。ちゃんと2タイプの女子が出てきて、美少女ふたりがゲームを通じて僕を取り合う。こんなことないですから(笑)。でも、格ゲー(対戦格闘ゲーム)がめちゃめちゃ強い女子と、主人公のことが好きだから格ゲーをやり始めた女子に、板挟みになりながらゲームするって、ほんと鼻血出るぐらいの環境だと思うんですよ。僕ら世代の男子の、夢の塊みたいな本だなーって思います。


 僕のフェチ心をくすぐるのが、望月ミネタロウさんなんですよ。デザインがハンパなく良くて、絵やカット割がアートなんですけど、それだけじゃなくて。ただ女性がしゃべってるカットで、ポンって急にパーツに寄ってったりするんです、カメラが。関係ないのに。そこがなんか刺激されるんですよ。ついつい入りたくなっちゃう店みたいなんですよ、望月ミネタロウさんの作品。今回の[ちいさこべえ]はかなり期待してますね。


 

我王であるべし


 

 [火の鳥]鳳凰編(手塚治虫)を読むと、創作や表現ってなんだろうって考えさせられますね。我王と茜丸というふたりの仏師を通して描かれる話なんですけど、最後に茜丸は綺麗で美しいものを作り、我王はまがまがしい迫力を放つものを作った。やっぱりテクニックに走っちゃうんですよ、ネタ作りでも。こうやったらお客さんはウケるよねーっていう考えで作ったネタは、やっぱりウケるんですよ。ウケるんですけど、どうも記憶に残らない。迫力がない。プロが見ると、技術が透けて見えちゃう。そうじゃなくて、「これを表現したいんだ!」という気持ちで作ったものだけがブレイクスルーできるってことを実感してます。茜丸になってはいけない。我王であるべし。




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《中田敦彦さんのおすすめ作品》
[ママはテンパリスト]東村アキコ
[昭和元禄落語心中]雲田はるこ
[3月のライオン]羽海野チカ
[ハイスコアガール]押切蓮介
[ちいさこべえ]望月ミネタロウ 原作・山本周五郎


 

《こんな作品もおすすめしていました!》


[ヒストリエ]岩明均


[おおきく振りかぶって]ひぐちアサ


[憂国のラスプーチン]佐藤優/長崎尚志/伊藤潤二


[おろち]楳図かずお


 

第44回 辻真先(脚本家)
アニメ界のレジェンドにして推理作家・辻真先さんが
『魍魎の揺りかご』『僕だけがいない街』などの三部けい作品を絶賛!!
マンガならではの演出の妙とは?
<1/25(土)更新予定>


 



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(取材構成:ビッグコミック編集部・根本和佳(DAN)、撮影:松原康之)




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【初出:コミスン 2014.01.10】

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