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週刊スピリッツ

2021.07.12

スピリッツ40周年記念 連載確約漫画賞 審査結果大発表!!!!!!

週刊スピリッツ

『スカライティ』

日々曜 27歳 神奈川県

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浅野いにお氏

作画が素晴らしいです。もしこのクオリティを保てるなら是非とも連載すべきです。設定は別段新しいものではないと思いますが、絵柄との相性が良いので一定のファンは必ず獲得できると思います。全体的なテイストはいい話にしてまとめようという気持ちが先行しているせいか、やや説明過多で押し付けがましい印象があります。絵柄が濃密なので、ストーリーやセリフはもっと皮肉を利かせるか淡白にしたほうがバランスがいいのではないかと感じました。登場人物も基本的にまだまだ表層的な描き方なので、人間の持つ業の深さや二面性はあまり感じられません。今回は二話分なので問題なく読み切れましたが、人間の描き方にバリエーションを持たせないと読者に飽きられる可能性もあります。設定上、毎回必ず人が死ぬことになる単調な展開になるので、もっと振り幅のある設定にしておかないと描き手のアイデアの枯渇も早そうです。絵柄は長時間眺めていられる魅力があるので、ストーリーの部分でも繰り返し読めるような強度があれば、長く読み継がれる作品になり得るのではないでしょうか。

 

大童澄瞳氏

こういった短編の繰り返しで謎と死生観に迫っていくものは定期的に目にしますね。ファンはつくし需要はあると思います。ワシも絵も含めて好きです。一方で現実として「少女終末旅行っぽい」とか「panpanyaっぽい」というざっくり競合他者の存在を感じ、それらの風にさらされるので、連載をする場合どうやっていく気持ちなのかなというのは気になります。もちろんそのままでもよい。作家の自由です。連載に耐えうるものをすべて揃えているのはわかる。絵が上手い。キャラクターも好き。

 

こざき亜衣氏

個性的で可愛らしく、びっしりと描き込まれた絵自体にとても力があるので、難しいSFの世界観に説得力を持たせることができています。そしてロボットが人を殺していく物騒なディストピアものと思いきや、なぜか読後感は優しい気持ちになる不思議な空気感に作者のお人柄を感じます。こういう『言葉にするのが難しい感情』を見せてくれる漫画は個人的にとても好きです。素晴らしい感性をお持ちだと思いました。漫画としてはセリフが多く、ストーリーが基本的に会話劇になっているのがもったいないと思いました。繊細で内省的な内容だからなおのこと動きが欲しい。せっかく素敵な絵を描けるのだから、もっと場面やキャラクターを目一杯動かして読者の目を楽しませることを意識して欲しいなと思いました。

 

ゆうきまさみ氏

これ、主人公の相手方のキャラ設定さえ作れれば、延々と続けられる賢い方法(笑)『銀河鉄道999』方式とてでも申しましょうか。絵本のような絵柄とこの方式はなるほど、現在のスピリッツにはないものなので推したいところではあるのだが、キャラクターの絵柄が既存の某作品に似過ぎているように僕は思いました。絵柄を練り直しての再挑戦を願います。

 

野木亜紀子氏

やや既視感がありはするが、絵もお話も完成度が高く、一話も二話もこのまま掲載できそう。キャラクターも世界観もバッチリ伝わる。全ページの完成原稿を見たい。連載を続けるには引きが弱いかなと思いつつ、こういう作品は下手に口を出さず作者さんの世界を守ったほうがコアなファンがつきそうとも思う。二話、好きだなあ!完成原稿の22・23頁で泣きそうになった。よくできているので特に言うことがないです。文字数が余っているので個人的な話をしますが、現在『心残り』に関わる企画を立ち上げている最中だったので、世界観も物語もまったく違うものの少しかぶっちゃったなぁと思いました。余談でした。

 

又吉直樹氏

人類が絶滅しディストピア化した未来でカルスというロボットの少年が人間の生体反応を探して、人間を殺しにいく。「殺す」という行為がこの世界では人助けになっていて、その価値の反転が興味深い。カルスの優しさ溢れる純粋な言動によって却って哀しくなるのも行為と結果に揺れがあって面白い。人間を殺すたびにカルスの完全な孤独が近づいてくる。「殺す」という行為や、「死」というものが状況によって、違った意味を持つことがよくわかる。カルスも他の登場人物も優しい。いたずらに悪者を登場させて物語を搔きまわす必要はないが、悪意や憎しみを持つ刺激的な人間とカルスが関わった時にどのような反応をするのか読んでみたい。

 

『八欧州の祝祭』

奥村ちひ  愛知県

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浅野いにお氏

非常に完成度が高いと思います。時代考証や職業のディテール等の説得力を持たせるために仕方がないとはいえ、やや説明部分が多く感じましたが、作品自体に安定感があるのでむしろ勉強になったという感想でした。現状では物語にゴールが設定されているわけではないので、物語の縦軸で言えば不明な点も多いのですが、キャラを増やしていけば自ずとドラマが生まれてくるような気がします。各登場人物のバックボーンを丁寧に描けば連載作品として成立すると思いますが、主人公はじめ既出のキャラクターは概して真面目でクセがないので、少し無理してでも物語を引っ掻き回すような(とはいえ魅力がある)キャラクターを立てないと話が弾まないかもしれません。あとは雪山の過酷さをしっかり絵で表現できるかが課題になります。完成ページを見る限りではまだまだ自然の描画に物足りなさを感じるので、山や吹雪をどう表現するか研究してほしいです。

 

大童澄瞳氏

連載が見たい。豊富な知識を背景に登場人物を丁寧にしっかりと描き出し、効果的にストリーを作り上げている。難点は画力。基礎はあるが、内容的に画力(読者的には「絵の綺麗さ」という)がもう少し欲しいので、そこは編集者や可能ならスタッフと共に頑張ってほしい。特に犬は人間と共に生きて来た存在であるため、その描かれ方の不自然さには読者もよく気付く。ネコ同様に難しいものだ。魅力的な絵を描くし、引き込まれる。雪山や山岳等は対象物がなくスケール感を演出しづらい対象であるので、自然物の描き方には注意をはらうと良い。

 

こざき亜衣氏

いやー、ものすごく面白かったです!! 飛び抜けて分厚かったのですが、あっという間に読み終えてしまいました。描きたい、伝えたい、とにかく犬を描きたいという熱量を感じます。早く連載して続きを読ませて欲しいです。私も犬をもっと見たいです。絵に関しては決してものすごく上手いというわけではないのですが、キャラクター達の内面の複雑さが外見にも現れていて、とても美しいと思いました。パースなど基本的なところを学んで、あとはたくさん描けば描くほど上手くなる方だと思います。ひとつだけネームに関して、マイナスではなくこうするともっと良くなるのではという提案として、1900年代というものがどういう時代だったのかという説明をもっと足してみてはいかがでしょうか?その頃の世界情勢、歴史的な出来事、この頃どんな人が山に足を踏み入れ、遭難者がどれほど多かったかなど、この辺りを把握できるだけでさらに読者も作品の世界を具体的にイメージし易くなると思います。続きを楽しみにしています。

 

ゆうきまさみ氏

格調高い!意欲も感じる!それだけに難しい。主人公は真面目で内省的で、身近な人間であればつきあって苦にならないタイプの人間なのだが、漫画のキャラクターとしてはもうひとつ破格なところが欲しい。それとこの作品の場合、現地の風景の美しさとその自然の厳しさをどれほど描けるかが味噌になるので、現状の描写力ではちょっと不安。これと前述の課題が解決できれば、先を読んでみたい題材ではあります。

 

野木亜紀子氏

雪山と救助犬と神父。ありそうでなかったし、引き込まれる一話で泣きそうになった。冒頭、煙突の上ならば高さを見せる構図がほしい。全体的に平坦な画面が多い。一話は主人公と同じ目線で読者が物語を追えるよう丁寧に作られており、共に神の不在を嘆き、共に神を見たいと思えた。一方で二話は、「昨日ここに来たばかり」なのにルドルフのことや用語は知っていたり、そのくせエマの相棒犬のことは知らなかったりとちぐはぐ。いきなりバリーと前線に出るのも疑問。犬との連携や合図はいつ覚えた?訓練しないの?この仕事も雪山も、そんなに甘いものなの?あれこれすっとばして信じる信じないの話をされてもまったくノレなかった。主人公の才能という見せ場よりもまず、バリーとのペアの始まりを見せてほしかった。この設定ならいくらでも話を広げられ、連載向きだと思うので、頑張ってほしいです。でも郷土資料のようなタイトルはどうかと思う。まったくそそられない。

 

又吉直樹氏

「僕は常々神を信じていない」「祈るより行動した貴方は素晴らしい」など、記憶に残るフレーズがあった。ドミニクが「瀕死のライオン」と呼んでいる片足を失った男の「傭兵産業」の話も興味深かった。セントバーナードのことや、山で遭難者をどのように発見するのかという部分に読み応えがあった。ドミニクは貧困者に特別な想いがあり、日々悩んでいる。助ける側に視点を置いた物語であるため彼の葛藤は丁寧に描かれていたが、遭難者がその状況に陥るまでの流れや人生が少しでも見えてくると、苦悩するドミニクに対してもさらに共感しやすくなり、救助の瞬間も印象的なものになるのではないかと感じた。

 

『ウラマク』

小丸ひかり 26歳 千葉県

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浅野いにお氏

絵はいいのですが、ネーム部分は推敲が足りていないです。セリフの繋がりが悪く、感覚で書かれているのか何の話をしているのかわからない箇所がありました。セリフとモノローグが混在しながら話が進むのもわかりづらさの一因かと思います。構成も漫然としていて思いついた順に並べているような印象で、コマ割りのルールにも必然性が感じられません。一度落ち着いて構成を見直す必要があると思います。基本的なことですが、重要なセリフは大ゴマを使う。無駄なコマ・セリフは省く。シーンの切り替えは風景を使い余白を作って時間経過がわかるようにする等、内容以前に読みやすさへの配慮が最優先です。ストーリーに関して言うと、主人公は写真を勝つための手段と言ってはいるものの、現状闇雲に反発しているだけです。ゲイの教師と出会うことでどのような落とし所を準備できるのかが気になるところですが、気持ちがコロコロと移り変わってしまう主人公なので、読者が置いてけぼりにならないような丁寧な漫画を心がけてほしいです。

 

大童澄瞳氏

面白い。テーマに対してのアプローチも独自の視点であって良いと感じた。絵もそこそこ上手いが、もう少し見たいところ。作家性を鑑みず勝手なことを言う無礼を許してほしいが、このテーマだと描き込みは命。冒頭に登場するビンテージワンピ等は、主人公がその容姿から女の子を虜にすることであるとか、後半での古着屋でのやり取りと対応してファッションや容姿に気を遣うという漫画の軸・姿勢を象徴する重要なアイテムだ。ここはしつこいくらい強調して良いと思うし、写真に込められた魂(月並みな表現でで申し訳ない)等をめちゃくちゃ描き込むと評価は上がる。ただの漫画ではないと思わせたもん勝ち的なところがある。写真のコマや服装を毎回毎話キメで欲しい。

 

こざき亜衣氏

エモーショナルなシチュエーションやセリフを考えられる方で、描かれる表情も強く、その想いに切実さと独特な美しさがあると思いました。見たことのない感情を見つけて描いてくれそうです。ただ、現状では少女の成長と先生の成長があまり整理されずに描かれているので、読者としてはどちらの感情も追いづらくなってしまっているように思います。描きたいこと自体には切実さや新しさがあるような気がするので、もっといい意味で読者に媚びて、女子高生が地味な先生をマイフェアレディするくらいのキャッチーなストーリーに見せつつ最後は承認欲求の話に持っていくくらいの、上手いこと自分のしたい話に持っていく力を磨いて欲しいです。内省的な部分を抑え目に基本的には読者を楽しませて、最後の最後に自分の大切な気持ちをほんの少し入れる。それくらいのバランスを意識してみると多くの読者と感情を共有できる漫画になりそうな気がします。

 

ゆうきまさみ氏

現代的。絵も達者ですし、これはこの線で押して行っていいと思います。主人公と先生の前進が気になることは確か。続きは読んでみたいです。

 

野木亜紀子氏

面白かった!全作品中、最も「令和の漫画」だと感じた。キャラクターが良く、台詞もキャラクターから発せられた台詞になっている。テンポよくサクサク読める上に、心がきゅっとなるシーンもある。キメの一枚絵も、「この絵が見せたい!(作者)」=「これが撮りたい写真!(主人公)」が綺麗にシンクロして、カッコいい。話の文脈からすると文太が冒頭のセックス坊主なのかな?敢えて隠して見せているのか、ネームでわかりにくいだけか、私の考えすぎで単なる別人なのか、どれだろう。ひとつ注文をつけるなら、二話で「私とかどうです」と照れながら言うのは早すぎないか。「瞬間は魅力的だけど、あとはちょっとなー」くらいをキープしつつの惹かれていく描写が見たい。この作者さんならきっと面白く描けるはず。武者かずみも江戸川先生も好きになってしまったので続きが読みたいです。

 

又吉直樹氏

風景が撮りたいはずの主人公が、学校にしがみついている理由を語る教師を見て、「景色が見える 動く 変わる」と感じ、写真を撮りたいと思う場面が印象に残った。日常から創作モードに入っていく心境がリアリティーを伴い伝わった。その後に撮影された写真にも説得力があった。カメラを撮る人が主人公なので、彼女がどこをどのように見て風景や人物をどのように切り取っているのかが常に問われる厳しい設定でもあると思うが、この作者なら期待に応えてくれそう。広く求められていることではないかもしれないけれど、主題の写真と地続きにあるファッションのことも誰がわかるのか?というくらいの細部まで描き込まれたものも表現できる人だと感じた。

 

『DÉRACINÉ デラシネ』

野口雅未 26歳 東京都

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浅野いにお氏

全編通して読みやすく、画力もあります。主人公のバックボーンがまだ語られていないので物語に奥行きはまだ感じられませんが、新しいかたちの家族という作品テーマははっきりとしているので今後どう展開していくのかが気になります。必ずしも美談にまとめる必要はないと思うので真剣に向き合って着地点を模索してほしいです。33ページ目あたりから徐々に感じはじめたのですが、ところどころキャラクターの感情が先走りすぎているシーンがあり、勢いで押し切っている感は否めません。これはキャラクターが生き生きしているから故だとは思うのですが、例えば特にマリエの人柄などは言動から察するに現実で出くわしたら辛い直情的なタイプだなと思ってしまう部分もありました。とはいえ感情の振り幅の大きいキャラたちの角を取るのは作品ニュアンスに関わることなので、それよりもそれらを諫めるような客観性を持ったキャラを一人配置すると万人に受け入れられやすい作品になるよう思いました。

 

大童澄瞳氏

絵がいい上に抜群に上手い。話も面白くアプローチもよい。これは連載で読みたい。シンプルな要素でありながらキャラが立っている絵。脱帽。背景はスカスカだが特にいうことは無い。漫画が上手いので成立している。ただ、個人的には本を読むシーンや本棚等、この作品の中で重要なポジションにある風景やアイテムは気を使って欲しい(これは完成原稿を見ていない段階での願望だし、めくられた本の描写がラフでも上手いので多分平気だが)。もしさらに作品を強化するのであれば、ネグレクトや親が不在の子供達について、より多くの資料を当たってみるとよい。字が上手く書けないカットでそのディティールが少し気になった。作品の性質を壊さない範囲でチャレンジしてみてほしい。リアルな描写にとらわれすぎると良くないので、そこは作者自身の裁量で。

 

こざき亜衣氏

非常に難しいテーマに取り組まれており、これを描こうと思ったのがまず純粋に凄いと思いました。絵が綺麗でキャラクターの表情が美しく、構図やコマ割りも流れがきちんと考えられており、重く複雑でともすると敬遠されてしまうようなテーマにもかかわらずスルスルと読めてしまいました。基本的な漫画力がある方だと思います。ただ、描きたいことが現状うまく伝わっているかは疑問です。主人公も唯も置かれた状況が非常に特殊で、孤独な心を持っています。だからこそ寄り添い合うのだと思うのですが、現状「どうせわかってもらえない」と読者すら拒んでいるように感じられました。まずは何よりも先に目の前の読者にもう少し心を開いて、この子達は私と似ているところがあるな、幸せになってほしいな、と思わせてほしいです。個人的に、他人同士が家族として共同体を築くというテーマは非常に惹かれるものがあり、どう描かれていくのかが気になります。

 

ゆうきまさみ氏

現代的で社会派。マイノリティー問題に触れる作品は、作者と編集部の覚悟が問われますが、それは僕が考えることではないので置いといて、これも続きは気になります。

 

野木亜紀子氏

つかみは面白そう。主人公の翻訳にまつわる部分が魅力的だった。だが類型的な描写やご都合展開が多く、肝心の唯との出会いの場面もありきたりで、本当にこれでいいのか、これが唯一無二の描写なのか、考え抜いてほしかった。完成原稿の主人公のビジュアルが30歳くらいに見え、言動も若々しいので、なぜ57歳なのか疑問。無理をせず年齢を下げたほうがいいのでは。マリエが元カノ(なのかな?よくわからなかった)なのは偶然がすぎるし、必然性はあったのか。短編ならいいが連載なので、見知らぬ女性が唯の保護者であるほうが、話が広がるのではなかろうか。二話で早くも唯を養子にすると決めてしまったが、マリエに言われてではなく、主人公が自ら考え悩みながら選び取っていく「物語」こそが見たい。テーマは良いので、設定とストーリーテリングを練り直してはどうでしょうか。

 

又吉直樹氏

戸籍や性別が人の生活を支えることもあるが、人を苦しめることもある。そんな疑問を抱いた時、人が何者であるか規定するそれらを拒絶したり受け入れたりしながら乗り越えていくのは簡単ではない。外の言葉を自分の言葉に置き換えることを、世界と繋がる唯一の手段と語る大島と、それを聞いて福田恆存の本をすぐに差し出した唯。このような感覚の共有を瞬時にできる人は多くない。むしろそんな感性が社会では邪魔になることすらある。帰る場所を持たない唯が他人の書庫を聖域とまで言い切るのは、そこに自分の感覚に触れる言葉があったから。二人は正しい場所で出会った。近い感覚を持つ人と家族になる形があってもいい。

 

『デッドサマーバケーション』

塚田雄太 28歳 静岡県

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浅野いにお氏

ノスタルジックとミステリーが程よい感じに融合していて雰囲気があります。作画に関してミステリー向きではないかなと思いつつも読みやすさは担保しつつ情景描写もしっかりしていると感じました。しかし主人公がいくら朴訥な人柄とはいえ、死んだ人間が蘇ったという事実を簡単に受け入れ過ぎです。今後の物語で村の因習が明るみになっていっても、現状のキャラの性格上あまりそこには頓着せず、各登場人物たちの凡庸な人情ドラマが展開してしまうのではという予感がします。ミステリーを強調するなら漫画的なキャラに甘んじることなく、説明台詞を減らして不穏さや謎のバランスコントロールにもっとシビアになってください。ノスタルジーを演出するなら死者の復活等の超常要素はバッサリとカットした方が作品にブレはないと思いますが、挑戦という意味では前者を描くべきだと思いますし、作品のインパクトを持たせるためにもっと過激になってほしいです。

 

大童澄瞳氏

面白かった。絵も上手く、会話が多い中にあってもテンポも良いが、その分ダイナミックさに欠ける印象。コマ毎の画作りが単調にならないようレイアウトを強化してみてはどうか。大ゴマを多様するとかではなく、何気ない会話コマとかでもバストアップばかりにならないように。29Pで「あそこで何かが起こってるかもしれない」「見たこともない現実よりも面白いことが。この町の陰で!」というセリフがあるが、ここで一番このセリフがしっくりくるのはエジソンだと感じた。エジソンは常に求めている様子を見せており、それに寄り添う姿勢がメインにになっている主人公という構造。このセリフを大事にするならば、もう少し(といっても少年漫画の主人公までいくと雰囲気を壊すと思うが)何かを求めている主人公像の前置きが欲しいところ。

 

こざき亜衣氏

映画的なカット割や構図の取り方、どこかレトロで表情豊かな絵、Netflixオリジナルにあったら即座に再生してしまいそうなあらすじ、熱狂的なファンがつきそうです。背景の描写力もあり、武器の多い方だなと思いました。ただ、全体的に引きの絵が多く、セリフも長いのがもったいなかったです。表情のアップ・決めゴマ・短く簡潔なセリフは物語の世界に入ってきてくれた読者にとって大事な『足場』です。読者が疲れない程度の間隔で適宜入れていかないと、魅力的なキャラクターや世界に気付く前に脱落されてしまいます。愛情や思い入れが強いとセリフが長くなりコマが詰まっていくのは私も身に覚えがあります。読者の目で自分の漫画を読み返して、改めて断捨離してみてください。

 

ゆうきまさみ氏

ホラー(?)版『スタンド・バイ・ミー』の趣き。こういう作品は僕にとっては超エンタメなので嬉しい限り。チャッキーの年月をさりげないセリフで表現するところなどは上手みを感じます。設定がガッチリ作り込まれているようなので、拡張性はなさそうですが、例えば10回なら10回でキッチリ終わる(その可能性が高い)作品であるならば、連載で読みたい気持ちになります。タイトルは一考。

 

野木亜紀子氏

絵が巧く漫画も巧く読みやすく画面構成もバッチリで、このまま誌面に載せても遜色なく見える。ホラーな話をほのぼの冒険譚にしたのは好感、ヒロインがミイラなのも良い。お盆の火の話は、自宅で母と祖母に訊いたほうが父親の不在が引き立った。チャッキーの見た目が「痩せてる」じゃすまないレベルのほうが笑えたような。みんなの驚きが薄くあっという間に馴染むので、ミイラ設定が勿体ない。まれんと様の復活シーンも、もっとおどろおどろしいほうがチャッキーの内面のかわいさとのギャップが出たような。SWがEP9ということは現代の話ですよね?デジタルガジェットが見当たらず80年代の日本のようにも見えてしまう。はっきり現代として描いた上で、まだ古の風習が残っていて……という対比で描いたほうが神秘性が増したような。などなど、ハイクオリティなのにどこか面白みが薄く感じてしまうのは、作品世界の調和がとれすぎているせいかもしれない。意識して破綻を作ってみたらどうなりますかね。

 

又吉直樹氏

作中の「それにしても何もない町だ…」という語りを納得させるだけの長閑な風景と閉塞が絵で表現されていた。そんな町だからこそ秘密の温床にもなりやすい。また「死んでるみたいな夏休みだな!」というフレーズが、平凡な日常にも、チャッキーとの出会いがもたらす展開にも響き奥行きを作った。物語、キャラクター設定に工夫があり、「…殺人人形みたいで…いいね…」というセリフは笑った。 この手の先行する諸作品へのオマージュを混ぜながら進行するが、そこにどのような新機軸を入れ込めるかが課題だろうか。 作品を描き続ける体力があることを示す繊細さが随所にあった。

 

『ゴーストエンドミュージック』

津上昌也 24歳 神奈川県

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浅野いにお氏

音楽漫画なのか幽霊ものなのか男女入れ替わりものなのか、現状の三話分だと全てが中途半端になっています。それぞれがストーリーに絡んで整合性は取れているのですが要素が多い気がしました。少なくとも長期連載には向かない設定だと思います。こういった幽霊設定はチート設定と同じなのでどうしてもご都合展開になりやすく、現実を現実で乗り越えていくという青年誌的な性格ではないように思います。画力は高いのでもっと地に足がついた漫画でも良いのでは。それと主人公が終始欲情しているのが気になりました。緊張感がなくなりますし、物語の主題から乖離してるように思います。読者へのサービスなのかもしれませんが少なくとも自分には不要でした。主人公とヒロインのやりとりもリアリティがあるとは言えませんが、こういったテイストを望む読者もいるとは思いますので、もしこの路線で行くのならば掲載紙の見直しを検討してもいいかもしれません。

 

大童澄瞳氏

『ヒカルの碁』等の近い前例はあるが、幽霊と音楽がセットというのは少し面白い。ただ、音楽を無音のメディアである漫画で表現する難易度を考えると、やはり画力、あるいはアイディアがまだ足りない。もっとも提案が簡単なのは「動きのある絵をマスターする」だ。雨の中ヴァイオリンを弾くヒロインは印象的なシーンだが、腕しか動いていない。背景もパースが一点透視で画面全体に動きがない。ダンス漫画だと思って描写してみてはどうか。「もう死んでもいいかもしれん」というセリフが良かった。沢山のアイデアを上手くコントロール出来ていて飽きさせないのはすごいと思った。おもしろい。

 

こざき亜衣氏

少ない手数でキャラクターを立てられており、表情も多彩で魅力的でした。コマ割りや構図にメリハリがあって読んでいて心地よく、手が止まることなくスルスルと読めてしまいます。読者を意識した漫画作りができているなと思いました。総合力の高さを感じます。ただ、まだ『おもしろさ』の焦点を絞り切れていないと感じる面もありました。入れ替わり・幽霊・音楽と要素が多く、飽きさせないようにという気概は感じるものの、全てが同じ圧で描かれているので、どこに着目して読み進めればいいのかわからなくなってしまいます。例えば入れ替わりはもう少し回を重ねて読者が幽体離脱の状況を掴み切ってから描いてみてはいかがでしょうか?個人的にはスウェン先生の活躍に期待しています。最初にいきなりいなくなって寂しいなと思っていたら途中で復活して嬉しかったです。

 

ゆうきまさみ氏

幽霊で音楽でネグレクトで入れ替わり物とは欲張りました!要素が多すぎで、交通整理で手一杯な印象。三話までのネームを読むと、スウェインの幽霊はネグレクトの原因にもなった大事なキャラクターらしいことが判るのですが、三話のラストで物語の三叉路が表れ、どっちに進むと面白そうなのか判らなくなってしまうのです。

 

野木亜紀子氏

屋上で彼女が幽霊として現れたところでぐっと引き込まれたが、よくある入れ替わりものに落ち着いてがっかりしてしまった。入れ替わってオッパイ最高!も古典的すぎるので、新しい視点がほしい。そんな中、スヴェンの存在は面白いですね。ラストの「スヴェン先生を殺した」は興味を引かれたが、一話の主人公はスヴェンが有名だとまるで知らない描写で、整合性が無理なくとれるのか、知らない描写がご都合だったのか、現時点では判断しかねた。テンプレヒロインで退屈だが、過去の羨望から悔しくなり断るところは意外性が出て良かった。肝心の主人公がどういう人間なのかつかめない。女の子を思いやれる良い奴……だがおっぱいは躊躇なく揉み、ブスが嫌い?無気力だがケーキと花は買いに行く?かつ元秀才少年で幽霊が見えトラウマ持ち(?)で家族から冷遇……全部盛りすぎてキャラが定まっていないようにも見えた。どこかに振り切ったほうがいいのではないでしょうか。

 

又吉直樹氏

物語の構成も人物も会話も面白かった。猪本に深刻さと軽薄さ両面があることで魅力的に見えた。有村の幽体に猪本が体を貸す行為が筋に組み込まれていて物語と乖離していなかったので読みやすかった。一切根拠はないが魔法陣を描いてみる場面も笑えた。それが独立した笑いではなく、翌日の流れにも影響を与えていた。スウェンという幽霊も登場の仕方や言動が面白い。スウェンが出てくると嬉しかった。それだけに、猪本の母の「スウェン先生を殺したくせに」というセリフが印象的で続きが気になった。深刻なモードで進行しても良さそうなところで、意識的に笑える場面が入るのも心地よかった。それぞれの場面が有機的に機能していて物語に厚みがあった。

 

『茜色のワンルーム』

矢田恵梨子32歳 東京都

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浅野いにお氏

おそらく動画サイトやSNSで人気を得てゆくであろう打ち込みの商業音楽ユニットというのは今時な感じがしますが、出会いの過程や協力関係になる流れがあまりに前時代的なので違和感を感じます。二人の関係性もきれいな凸凹といった感じで、古典的な漫画のテンプレートにはまり過ぎているためか、「DTM」要素が取って付けた設定のように感じました。主人公も才能はあれど行動の動機が現状「金」であって、特に音楽に対する関心はなさそうなので、あまり好感は得られないと思います。それと「DTM」というワードが頻出しますが、具体的にどのような曲を指しているのかがイメージできません。打ち込み主体の楽曲でも生楽器を取り入れることは普通のことなのでいまだに「打ち込み」vs「生演奏」の構図が実際にあり得るのかも若干疑問でした。音楽製作側の詳しい実情はわかりませんが、実際に音楽に関わってる人口は多いのでリアリティを持たせるための入念な取材が必要かと思いました。

 

大童澄瞳氏

主人公と髪の長い方の出会いとリアクションが「またこのパターンか」となる。中盤以降、技術的な話は面白くなるし、髪の長い方のやりたいことなどは興味をそそる。主人公のバックグラウンドがあまりによくみる記号的な主人公なので、もう少しクセが欲しいと感じた。これは趣味の話だが、途中で出てくる親が超お金持ちとか、ちょっと嫌味な美男美女とか「またか」という感じ。ストーリーの為のマシーンになっているのでもう少し人間の内面的造形に気を配ってほしい。冒頭、主人公の境遇が漫画の為に用意された設定という感じ。

 

こざき亜衣氏

構成、コマ割り、テンポ、キャラクター配置、わかりやすいストーリーと明確なテーマ、全てが一定のレベルを超えており、とても読みやすかったです。私もDTMさえあれば仮面歌手としてYouTuberデビューして何津玄師かになれるんじゃないかと読みながら一瞬夢を見ました。ただ、作者の「これを見てくれよ!!!」という強い執念をまだ感じることができず、インパクトには欠けました。私は個人的に、漫画は作者自身の心を掘り下げて映し出すセラピーのような一面があると思っています。恐ろしいもの、見たくないもの、でもどうしても気になるものの、「なぜ」答えを探すことが出来る作業です。自分の把握できる範囲から飛び出して、どんなに考えても答えが出ないようなこと、自分のキャパシティを超えるほどの切実な感情や美しい関係性を、既にお持ちの技術でねじ伏せて読ませて欲しいです。

 

ゆうきまさみ氏

キャラクター同士の関係性や、コンプレックスは過不足なく描けています。そこから発生するドラマ自体はいいのですが、難しいのはこの題材。主人公の声の特徴というのは絵にはできませんが、それでもなお絵にしてほしい。またはなんらかのエピソードを作ってほしいと思うのは、すでに何作も発表されている作者に対する欲でしょうか。欲ですね。

 

野木亜紀子氏

絵が綺麗で読みやすくまとまってはいるが、安易さが気になった。冒頭、「金で結ばれた契約ユニット」まではいいが、「一曲につき5万円」を絵ごと先バラシされては後で驚けない。遺産を相続しなければ死んだ親の借金を払う必要はなく、中卒であれば『低賃金の非正規雇用で苦しい』は成立するので、借金設定は不要。一話ラストのモノローグはいつ視点なのか?ここも安易に手癖で書いたように感じてしまった。根本のキャラは明快で面白く、やさぐれた気持ちも伝わる。ところが、風子が感じたであろう根本の歌への感動が伝わらない。音楽漫画で成功している作品はどれも、『音の表現の発明』があるように思う。紙の上の聴こえないはずの音を、読者にどう聴かせるか。今作はその発明が無く、音楽が聴こえなかった。そもそも作者はこの話を本当に描きたかったのだろうか?描きたい題材とそれに見合う表現が見つかれば、面白いものが描ける人なんだろうなと思いました。

 

又吉直樹氏

安い労働力として消費される茜音。一方、有名音楽プロデューサーの娘である風子は音大で作曲に励むが、上手くいかない。生活が充足していれば幸せという安易な視点ではなく若者それぞれの苦悩が描かれ、格差の間で音楽が響くことによって物語が立体的に見えた。さらに生音と打ち込みで反目する対立構造にも興味を惹かれた。東條の理屈に一定の説得力がある点も見所だった。茜音は唄うことで自分の存在を確認できるほど音楽に救われているが、金のために歌うことも厭わないという矛盾がリアル。これだけ若者の貧困が顕著な時代でありながら、貧しさを描くと「昭和」と揶揄されてしまう現代で若者の貧困が背景に描かれることは意義があると感じた。

 

『みんなのウタ』

藤源 治27歳 神奈川県 

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浅野いにお氏

SF作品として見るとツッコミどころが多すぎで爪の甘さが目立ちます。人から人形が生まれるという設定は言わずもがな、人類存亡の要である少女が比較的自由に行動している様も疑問です。キャラに関してはその他の博士や研究者たち各人物も、シリアスな状況下に置かれているにも関わらず私情を挟みすぎなので、真剣に物語を追おうと思えませんでした。SFとはいえ作品のベースは人間の愛憎ドラマだと思うのですが、その割にはキャラの思考が単調です。特に博士はウタに対して「娘のよう」「私たちの愛は親子のそれに近い」と言いながら「一緒に子供を作る」という結論に至るのですが、これはかなり気持ち悪いです。そして2話目ラストで話はさらに超展開し、全く先が読めない状況になりますが、1万年前からどうやってパソコンで通信しているんでしょうか。甘々な設定は徹底して詰めるべきだと思いますし、シビアな状況下に置かれた研究者を軽んじているように見えてしまうのは作品にとってかなりマイナスだと思います。

 

大童澄瞳氏

面白い内容ではあるのだが、冒頭はモノローグで設定を語り過ぎているので面白味が少しそがれていると感じた。19Pの「はかせは私とシたいですか?」以降の下りがあるので、17Pの「ウタは17歳から男達と性をかわすことが決まっていた」等のモノローグは取り払って会話に含めることが可能。あと、性行為をしなくても人工授精したほうが確実に妊娠できるのではという疑問が先立つ。後半で愛について語られるので、そこで初めて性行為そのものに意味を見出せる。セリフの内容を精査し、印象をコントロールすると良いかもしれない。冒頭での出産シーンは帝王切開や中絶ではなくなぜ自然分娩を選択したのか。ベビドが一般化しており「どうしますか?」とまで聞かれている状況なら、よほど宗教的事情でもない限り自然分娩は不自然と考える。この流れで話が1万年前にタイムスリップというのは意外性があって面白かった。

 

こざき亜衣氏

導入のインパクトが凄いですね。これはめくってしまいます。全体を見ても引きとアップのバランスがよく、構図にも工夫が感じられ、読み手を意識したネームになっていると思います。ギャグの入れどころにもなんとも言えない独特のセンスを感じます。(寺田教授キモ過ぎて逆にちょっと好きになってきました。)しかし…ネタが気持ち悪いですね…!!(失礼)良くも悪くもインパクトがあり、これは長所と言えると思います。ただ、このように人から嫌悪感を抱かれそうなテーマだけに、SFとしての『嘘』を丁寧に作り込んで欲しいところです。例えば、現代では子供を作る方法はセックス以外にもありますし、このような未来なら尚のことその手の技術は進歩しているはず。そういう抜け道を塞いでくれると、多くの読者が物語に気持ちよくノれるのではないかなと個人的には思いました。先が読めない度は今回のNo.1です。

 

ゆうきまさみ氏

最初の見開きでひっくり返りました(笑)いや、この発想はありですけど。基本的には明朗ホラ話っぽいのですが、主題が主題なだけにどうも生臭くなりがちなのが気になりました。

 

野木亜紀子氏

絵が綺麗。ページ運びもストーリー運びも綺麗ですんなり読めた。ベビドというネーミング、タイトル共に、これしかないという明快さ。一話・二話のストーリーテリングも順当。お話はといえば50歳すぎのおっさんたちが17歳の肉体を奪い合うというかなりグロテスクな設定で、一線を守っていた博士が「俺と子供を作ろう!」と言い出したときにはヒエーとなったが、その後の展開をみると敢えてやっていることがわかるし、寺田教授がやばすぎて笑ってしまい、一周まわって面白かった。おウタパーティってなんだよ(笑)。各キャラがいいし、ウタもかわいい。にしても、人工授精すりゃいいんじゃない?それを言ったらおしまい?一万年前への転送からどういう話になるのかさっぱり見当がつかず、見当がつかなすぎて逆に興味が削がれるという現象が起こっていた。でも連載されたら読みます。

 

又吉直樹氏

少女ウタを取り巻く状況が悲惨で引き込まれた。寺田教授がかなり不愉快な人物で有効だった。一方でウタの親代わりであり、ウタから信頼を得ている磯貝博士もウタに執着しているという意味では大差なく、ウタに想いを告げる場面では狂気を感じた。ウタがベビドになってしまう直前の「なんなのこの色…!!」という彼女が普段生活する世界の常識では理解できない色を見る描写が面白かった。未知の文明との出会いとして正しいと思った。一万年前に飛ばされたウタと発掘された文明がどう関わるのか惹かれるところが多い。科学者が存在する近未来でありながら、ウタが子孫を残す方法を性交しかないとしている矛盾は想像力で乗り越えていただきたい。

 

『シン・大学デビュー~アナタに彼女が出来る物語~』

なつお 25歳 愛知県

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浅野いにお氏

まず第一にHow to漫画であるにも関わらず説得力がなく得るものが少なかった。漫画は作り手の都合で如何様にも成否を決められるので、もし本気で大学デビューの攻略法を描きたいのならば実録ルポ漫画にすべきです。また技術的な面でも課題は多く、特にコマ割りが窮屈でテンポが悪いです。デフォルメの効いた記号のようなキャラならまだしも、写実系の絵柄なのであれば1ページのコマ数は半分程度に抑えるべきべきではないでしょうか。他にも改善すべきところを挙げるときりがないので、プロの連載作家の漫画と見比べて画面構成の何が違うのかを検証してください。セリフは所々良い掛け合いもあるのですが、大半は一般常識レベルの御託が並ぶのみなので読み進めるのが辛いです。セリフ量=漫画の密度ではないのでもっと整理し、読者にとって得になるようなセリフだけ残すようにしてください。

 

大童澄瞳氏

絵が上手い。漫画として読める。が、キャラクターが全員微妙にダサイ。無難になったとされる服装がまたダサイ。どういうことかというと、単純に文化圏が違うからなのだが、今の大学生ってこんなじゃないと思う・・・。どういう層を想定していて、どういうアプローチなのか。上辺の言動や容姿だけが先行する中身のない交際にそんなに意欲的になる状態をどのように作品内で描けるのか、本当に力が試される。このまま進んでいくなら独りよがりな辛さが残る。ここから人間的成長か、多様な(快楽とモテで生きていいんだ等)人生の肯定を見せてくれるか、あるいは凋落か、盛り上がりをみせるストーリーなら、それを予感させるインパクトが1話の段階で欲しい。顔のアップとセリフが多いので、軽薄なモテハウトゥー漫画と化している。実践的なことは小出しにしてステップアップしていったほうが良いのではないか。

 

こざき亜衣氏

読み始めて3秒でなんて金にらなそうな仕事だろうか!でも面白そうだな!!と素直に思いました。それだけわかりやすく、この作品をどう楽しめばいいのか考えなくても頭に入ってきたのがすごく良かったです。これくらいわかりやすい漫画って雑誌には必ず必要なものです。キャラクターもきちんと立っていますし、徹頭徹尾バカバカしさを貫いていて、読者を楽しませようという気概が伝わってきます。私も読んでて何度も笑顔になりました。ただ、まだまだやりたいことに対して技術が全く追いついてない印象です。この話はテンポが命だと思うのですが、残念ながら今はただシーンを思いついたまま漫然と繋げているだけのように見え、メリハリもなく後半はかなりコントロールが出来ていないよう見えました。もっとシーンや台詞を精査してテンポを整えるといいと思います。特に構成はもっともっと考えて工夫が欲しいです。面白い漫画や映像作品を、構成に着目しながら見てみるときっといろんな発見があると思います。何を描くかも大事ですが、何を描かないかも同じくらい大事です。天性の勘でやれる人もいますが、これは訓練すれば必ず上手くなる部分だと思います。

 

ゆうきまさみ氏

ああ若い人は大変だな、と思いました。わりときマジメなライフハック漫画で、主人公を笑う気にもなれず、さりとて応援したくなるわけでもなく、読んでいて気が滅入ってしまった。あと登場する女性キャラに人格を感じられないのも気になります。

 

野木亜紀子氏

絵が巧いし漫画も巧い。手垢のついた変身指南モノはさすがにハードル高くないか?と勝手に危惧したものの楽しく読めた。一話のクライマックスは迫力があり、二話のラストも「つづきを…!」と思えた。漫画は巧いのに、つかみが巧くないのが勿体ない。一話の1頁目で別の男と黒崎の出会い、タイトル挟んで主人と黒崎の出会い①、更に出会い②……と、出会いが三段階もある。黒崎を印象づけたいのはわかるが、重ねるよりも一発で印象づけたほうが得なのでは。何箇所か、映像ならすんなり見られそうだが漫画だとわかりにくいなぁと感じるところがあった。絵の密度が高すぎることも読みにくい原因の一つかもしれない。連絡先を交換した女への失敗告白、少しでいいから実際のやりとりを見たかった。マニュアル指南漫画の域に収まってしまうと話の広がりが期待できず、短期連載で終わってしまいそう。この作者さんは違うお話で読んでみたいと思いました。

 

又吉直樹氏

大学デビューを成功させる黒崎と、大学デビューを試みる根本。二人の会話が終始面白かった。高校までの目立たなかった自分を変えたいという根本の切実な思いと犯してしまう数々の失敗には共感できるし、黒崎が展開する人との距離の詰め方や洋服に対する考え方などの理屈には腑に落ちるものが多かった。黒崎の語りが破綻していると物語全体のバカさが目減りしてしまうが、その水準をしっかりクリアしている。だが黒崎の話に感心するというよりは、真剣に語る黒崎と真剣に耳を傾け何かを得ようとしている根本の姿を見て笑いたい。しかもそれに金を払っているという構図がいい。根本が少しずつ変化していくのも楽しかった。

 

『井戸の造花』

&uの 24歳 神奈川県

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浅野いにお氏

母親がエイリアンと戦うヒーローであるという設定は、主人公たちの日常パートとのギャップを生むための装置かと思いきや、どちらもあまり違わないテンションなので読んでいてメリハリに欠けるという印象でした。まったりとした展開が続くのであればキャラの掛け合いが見どころとなるわけですが、ハッとするようなセリフは特になく、新しい価値観を提示されることもありませんでした。こと主人公に関しては存在意義があやふやで、家族間の軋轢も特になく、物語の中での役割がほとんどないのが読みづらさの一因になっていると思うので、何を主軸に読ませるのかを考えて主人公像を再考すべきです。日常パートの小エピソードもこの世界観をもっと折込んだものにしないと、わざわざこの設定にした理由がわかりません。ノリでこの設定を作るくらいなら、いっそ現実的な親子ものにしたほうが作品の精度は上がると思います。あとタイトルが全くの謎なのですが、本当にこれで良いのでしょうか?

 

大童澄瞳氏

等身大の自然な会話が特徴だが、まだ漫画の技術に難あり。セリフやツッコミは読者を置いていく可能性をいつでも持っているので、本当に注意しながら上手く書かないといけない。ひとまず冒頭のモノローグはもっと大きくし、「母は―」を強調するように演出すべし。フキダシの設置位置や、個数によるテンポのコントロールが大事。作者の脳内にあるものには面白い可能性を感じる。ギャグっぽいのが好きな感じは受けるが、脳内から抜け出て漫画をもう少し冷静に客観的にみないといけない。読者の好き嫌いは無視していいが、読者に誤解されることは避けなければいけない。自分の狙い通りに伝わって初めて正当な評価を受けられる。劇的な演出やアクション周辺は引き込まれそう。この手の漫画は背景や描き込みがかなり面白さに影響を与えるので、完成Pの参考を見たが絵がもっと上手くなるとよい。

 

こざき亜衣氏

表情が見えるのがサンプルの数ページだけだったのでわかりませんが、可愛らしい表情が描けそうな方です。コマ割りや構図は見やすく、引っ掛かりなく読めます。空間の描写、コマとコマの繋ぎが自然で上手い方だなと思いました。ただ、内容に見合わない大ゴマを使いすぎているように思いました。冒頭の見開きや戦闘のような大胆なシーンはそのままで、日常シーンなどもっとコンパクトにしてメリハリをつけるとテンポ良く話が進められるのではないでしょうか?必要なさそうなシーンやセリフも見られて、そこも精査が必要だと思います。漫画はいかにわかりやすく最短距離で必要な情報を必要な順番で読者に渡していくかを、常に考えなければなりません。必要がないコマやセリフは、どんなに面白いことを言っていても『いらない』のです。小さなコマにも見開きと同じくらい意味を持たせることを意識してみてください。主人公の存在感が弱いので、もっと母の仕事に深く食い込むことになるなど、もうひとネタ欲しい気がします。

 

ゆうきまさみ氏

まずパッと見で人をそらさない達者な絵柄。人に突き刺ったり、心にヤスリをかけるような絵柄も、漫画では武器になるけれど、こういう絵柄だって立派な武器。ふわりと作品に誘ってくれる。軽妙な雑談をしながらストーリーが進んで行くのは僕好みだが、そのためにモノローグによりかかりすぎているところがある。設定がメンドくさそうな物語なので、少しくらい説明的なセリフが入ってもいいよ。タイトルは意味不明なので一考して!

 

野木亜紀子氏

エイリアン退治ネタはあるあるだが『集団白昼夢事件』はワクワクして、この世界の謎に興味が湧いた。友人や妹とのすっとぼけたやりとりが面白いものの、やや冗長。一話冒頭の時間軸の前後と、繰り返しのモノローグ、共に上手く機能しておらず無駄に感じる。今まで兄妹は母の仕事をなんだと思ってたんだ?専業主婦?一話が母と息子の物語ならば、『正体を知る以前と以後』の気持ち・描写の変化が必要。14頁からの「俺は母さんが嫌いだ」は以前の気持ちか以後の気持ちか、「仕事を投げ出さない」はいつのどの仕事ぶりを見てなのか。話の整理がついておらず、ぼんやりしてしまっている。いっそ一話は「俺は母さんが嫌いだ」から始めても良かったのではないか。現在の冒頭3頁は、二話の頭にまるっと持っていっても使える。モノローグで「母親という理想像を求めていた」と唐突に語るのではなく、ストーリーであらかじめ読者に感じさせた上で、気づきを描く努力を。

 

又吉直樹氏

マイペースな雰囲気を持つ母が世界のために戦っていて、なおかつ強いという設定が面白い。息子の学校にエイリアンがあらわれた場面がよかった。電気を使うので電気で治療できると解った時に高校生たちがスマホやタブレットを母の鹿島に渡すところが好きだった。過去を変えるためにエイリアンが地球に来るようになってしまったということがどういうことなのか、それが物語にどのような影響を与えていくのか、この設定で四人しかいないガーディアンのうちの一人が脱落してしまいバランスが崩れた時に物語がどのように展開していくのか、平凡な家庭内はどうなるのか図書館司書の父がどう影響を与えていくのか良い意味で気になることが多かった。

 

『イーヴァル』

絵野シオン 13歳 長野県

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浅野いにお氏

3点以上の作品に関してはいずれも可能性を感じましたが、作者の年齢を考えると数年後に激変してる可能性もありますが、現状のものは雑誌掲載レベルには全く至っていません。パニックホラーは特に近年ですっかり使い古されてしまったので相当な新規性と画力が要求されると思うのですが、今のところそれらは見当たりませんでした。作中に登場する「何か」もインパクトはなく、それに対する人間のリアクションも淡白なので絶望感に欠けます。主人公の主観で物語が進行するので大風呂敷を広げた設定の割には世界が狭く感じます。主人公が没個性なのでキャラクターの魅力で引っ張ってゆく漫画ではないと思うのですが、ならば社会全体の動向がわかるような描写を入れる等、読者が物語に没入できるような描写を工夫してください。謎は謎のままで、思わせぶりに未来の自分が回顧する描写もありますが、作品がどの方向に向かっているかがわからないので、もし全体の構成がすでにできているならば1話目の段階で読者にもっとヒントを与えてもいいのではと思います。

 

大童澄瞳氏

話は面白い。構造もよくコントロールできている。ネームなのでなんとも言えない所はあるが、キャラクター同士の物理的位置関係、イマジナリーラインを読者に混乱をもたらさないようにコントロールできるとよい。絵は上手く、しつこく描き込む姿勢も作品の性質と合っているが、顔のサイズに対して若干肩幅が狭いように見受けられる。人体の自然なポーズを学び、クロッキーやデッサンを繰り返すと、より強い作家性を獲得できるのではないだろうか。作者は非常に若いので「○○歳にしてはすごい」等と年齢を取り上げもてはやされる機会も多くなるかもしれないが、素直に自身の稀有な才能を喜びつつも警戒を怠らないように。プロの現場は実力主義。年齢は関係ないのだ。ただ、より早く、長く経験を詰めることは大きなアドバンテージなのでそこは十分に喜ぶべし。あなたには才能がある。伸び悩んだら人を頼るべし。

 

こざき亜衣氏

血の通った生々しいセリフをかける方だと思いました。湿った空気感が伝わってきて、禍々しいものを描く熱意と才能も感じます。落ちてきたやつ怖かったです。導入はゆったりとしていて静かに物語の世界に入っていけたのはよかったのですが、ずっと同じテンションが続いていつまで経っても一向に話が始まらないな?と思っているうちに謎の物体転落シーンまできてしまいました。ずっと前菜だと思って食べてたら次の皿がもうデザートだった…みたいな感じです。恐らくあえて最後に日常をひっくり返してたたみかけたのだとは思うのですが、だとすると前半は前半で成立するくらいのストーリーを作らないと、読者は退屈してしまいます。読者というものは本当にシビアで、何かが起こりそうだと思わせたら、結構すぐ何かを起こさないとすぐに本を閉じられてしまいます。また、読者を繋ぎ止めるにはキャラクターもまだ弱いです。描きたいことがしっかりあり、そのための構成や演出を意識的に選べていると思うので、読者を意識した漫画作りをしてもらえるといいなと思いました。

 

ゆうきまさみ氏

異様な緊張感はあります。ただ主人公たちが「日常」「日常」と言うわりに、彼らの日常観が描かれておらず、キャラクターが立ち上がって来ません。こういうシチュエーションの中で、主人公にどういう魅力を持たせるか、もっと考えてください。

 

野木亜紀子氏

意欲的な作品のように見受けられ、今後どういう世界を描こうとしているのか、興味深い。せっかくの意欲作なのに、冒頭の言葉選びが「日常の破壊」「歯車が回る」とありきたりのモノローグなのが勿体ない。もっと考え尽くして、これぞという唯一無二のモノローグをひねり出してほしい。これが見せたい!という見開きはいいが、なぜここ?という大ゴマや無駄に重複する台詞も多く、ページ数のわりにスカスカに感じる。この手の謎が謎を呼ぶストーリーの場合、先にキャラクターを売っておかないと読者は物語に入れない。だがどのキャラも意味ありげに描きすぎており、謎の上に謎を乗せた状態に陥り全体がぼんやりしている。前提が作れておらず、セッティング不足。ミスリーディングする前に、読者にキャラクターを伝える努力を。作者の強い意志を感じるので、今後に期待します。

 

又吉直樹氏

なにげない不安を感じる二人が教室の窓外を眺めている時に得体のしれない何かが落ちてくる場面が気持ち悪くて素晴らしかった。その何かが先生に付着して体に侵入し、先生は目が見えなくなり「痛い……」とつぶやいて倒れてしまう。この最後の「痛い」という感覚をわざわざ言わせるのが好きだった。先生という存在が「痛い」と言ってしまうことによって急激に怖さが増す。この一連の時間の流れに必然性を感じた。作者は毎日変わらない日常に対しても忠実に退屈を描こうとしたが、そこは圧縮をうまく活用して同程度の退屈を表現できたかもしれない。そうすることで上記の場面の時間の流れがより際立つのではないか。

 

~審査員陣&スピリッツ編集長の総評~

 

浅野いにお氏

自分の好みだけではなく雑誌のカラーや作品の一般性など諸々を加味した上での評価になっており、連載確約の賞というプレッシャーもあったのか、いずれもまだまだ型にはまり過ぎているという感想でした。商業的な観点から見ても売りどころが不明なものが多く、読者層の設定や、自身の作品がどのような評価を受けるのかのイメージが定まっていない作品が多いような印象でした。また特殊な設定の漫画が多く、その漫画的なフィクションを作品に活かし切れてない作品が多かったです。設定は漫画の主題ではなくただの装飾です。連載作品には作品の根底にテーマが絶対に必要なのですが、設定はあれどテーマはないというのではまさに骨抜きなので、アイデアに振り回されないよう描き手自身の譲れない信念を作品の核にするよう心がけて欲しいです。そしてスピリッツ に求めていた時代性を反映した作品も少なく、目新しさも感じられません。現実が目まぐるしく変化しているにも関わらず漫画に新しさを感じられないというのは、漫画が古い文化になりつつあることを認めることなので、それをまだ諦めたくない気持ちはあるのですが、今回の応募作に関しては新しい世代の漫画と感じる作品は一本もなかったというのが正直なところです。

 

大童澄瞳氏

みんな絵も漫画も上手いな~と思いました。ワシより漫画が上手いとか絵が上手いとかセリフが上手いとか沢山ありましたが、そのことと講評は全く別物だぞと割り切ってジャッジしました。学校等では審査される側として審査員に対する不満をめちゃくちゃ抱えて「こいつらは何にもわかってない」といつも思ってたので「わかってない代表」である自覚をもちつつ仕事を全うできたと思います。ワシの意見は一視点でしかなく、作品の良し悪しというものは人の数だけあります。賞レースなので順位や優勝者は出ますが、審査員の講評を鵜呑みにせず、自分の描きたいものを信じる気持ちも捨てずに楽しくやってくれれば幸いです。

 

こざき亜衣氏

皆さんそれぞれ個性的で自分の言葉を持っているのですが、まだ自分の世界の中だけで描いている人が多い気がしました。漫画はあくまで人に伝える手段でしかありません。そして青年誌の読者というものは本当にシビアで、基本的には本を閉じる理由を常に探しています。そんな人にどうやったら自分の話を聞いてもらえるか?ということを常に考えられるようになったら、連載に近づくのではないでしょうか。一方、私自身が今新連載のネームを切っているところだったので、いろんな『第一話』を読んでとても勉強にもなりました。偉そうに人の指摘をしながら自分のネームを直したりして、10年やっててもこの有様かよと青ざめ、最終的には審査員というより1話目ネーム持ち寄り勉強会みたいな感じでした。新鮮な気持ちで漫画と向き合える良い機会をくださりありがとうございました。皆さんのこれからのご活躍を祈り、また私もそれに負けないように頑張ろうと思います。

 

ゆうきまさみ氏

まず結論を言えば、どの作品も面白く読ませてもらいました(ホントですよ)。この漫画賞の難点は『連載確約』と銘打っているところで、審査員は「この先どう転ぶか分からない」作品を読んで点数をつけねばならず、これが異常に難しいんですよ(笑)そういうこともあって今回僕は、明確な道筋が見えている(ような気にさせてくれる)作品に高い点をつけたのですが、実際のところ得点差はあってないような物です。なにしろどれも面白く読んじゃったのですから。その上でひとつふたつ気になった点を挙げます。ホラ話はキャラクターが弱く、キャラクターがしっかりした作品は地味、という傾向が感じられた点。もうひとつは、内向的な主人公が多いなあという点です。それが現代というものなのかもしれませんが、せっかくの漫画ですから、もう少しだけ外に開いた主人公描いてみませんか。次回があったら期待してます。

 

野木亜紀子氏

連載としてどうなのか、という点に比重を置いて講評と採点をつけました。好きな作品が複数あったので、一本と言わず何本か連載まで行ってほしい。今回改めて感じましたが、漫画を描くのって……ほんっと〜〜〜〜〜に、難しいですね!!!!! 縁あって審査に加わり偉そうなことをたくさん書きましたが、自分には漫画を描ける気がしないし実際描けません。たかだか脚本家 兼 イチ漫画読みの「私はこう思った」という勝手な感想なので、作者の皆さんはあまり気になさらず、納得した部分だけ受け取ってください。読み違えていたらご容赦を。私も日々研鑽する身で、創作の神様なんて待てど暮らせど降りてきやしないので、考えて考え抜くしかありません。さあ、人の作品で悩んでないで、自分の仕事やらなきゃ……

 

又吉直樹氏

退屈だと感じた作品は一つもなく、それぞれに個性があり、すべての作品の続きを読みたいと思いました。物語やセリフの一部だけを切り取って鑑賞するのではなく、絵と物語とコマ割りとセリフが一体化して迫ってくる作品であることと、なんか面白いなぁ、という直感を重視しました。それぞれご自身にとって一番適切なタイミングで広く読まれることになればと願っています。ありがとうございました。

 

スピリッツ編集長

スピリッツ創刊40周年記念漫画賞にたくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。厳正な審査の結果、『スカライティ』(日々曜氏)が大賞受賞となりました。また入選には『八欧州の祝祭』(奥村ちひ氏)が選ばれました。おめでとうございます。審査員の皆様におかれましては、「大賞は連載確約」という難しい賞の審査を引き受けてくださったうえ、作品を面白くするためのアドバイスや、作者の心構えや将来にまで思慮がおよぶ講評をいただき、ありがとうございました。大賞を受賞した『スカライティ』 は、ロボット少年が人間を殺すという行為を描きながらも、「死」という負の価値を転倒させ、そこから人間の美しさを優しいタッチで浮かび上がらせようとする意欲作でした。編集部・審査員の採点評価が共に高く、大賞受賞となりました。ただ作者の日々曜氏は、よりよい作品を世に届けることが作家の本分と考え、連載に向けて、絵柄だけでなくネームもさらにブラッシュアップしたいとのことです。まだ連載経験のない若い作家ですが、そのクリエイティブな姿勢には一編集者として心を打たれるとともに、大きな将来性を感じました。どんな賞もそこがスタート地点だと思います。今回受賞まで届かなかった皆様にも、この賞を機に、読者の価値観を揺さぶるような凄い作品を世に産み出してもらえたら幸いです。