トップ  >  【『王様達のヴァイキング』第13集発売記念】 サイバーセキュリティ業界も注目!! リアルすぎるエピソードにエンジニアも驚愕!? 「世界を変えるキャラクターとは?」SECCON2016トークセッションレポート(前編) ( 2017/07/28 )
週刊スピリッツ

2017.07.28

【『王様達のヴァイキング』第13集発売記念】 サイバーセキュリティ業界も注目!! リアルすぎるエピソードにエンジニアも驚愕!? 「世界を変えるキャラクターとは?」SECCON2016トークセッションレポート(前編)

週刊スピリッツ
ビッグコミックスピリッツで連載中の、サイバー冒険譚『王様達のヴァイキング』(作・さだやす/ストーリー協力・深見 真)の最新第13集が7月28日(金)ごろ発売!!




難攻不落の強敵、蘇芳経産大臣の野望を挫くため、日米に分かれて戦う是枝と坂井。アメリカの情報監視システム「ミラージュ」に侵入するために好敵手・笑い猫と共闘する展開は激アツです!!





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サイバーセキュリティーの世界を舞台に戦うハッカー達の"バトル漫画"でもある本作は、実際にその世界で活躍している本業のセキュリティーエンジニアからも注目されているということで、去る2017年1月に都内で開催されたハッキング技術を競う競技大会「SECCON2016 決勝大会」でのトークセッションに『王様達のヴァイキング』チームが登壇。




作者のさだやす氏、ストーリー協力の深見真氏、技術監修のエンジニア mayah氏、hayato氏と、担当編集・山内菜緒子氏(スピリッツ編集部)が、企画の成り立ちや作品制作の舞台裏を明かしました。




コミスンでは、最新刊の発売を記念して、そのセッションの内容を実際に会場で公開された貴重なお蔵出し画稿と併せてダイジェストで紹介します!!





『王様達のヴァイキング』×SECCON スペシャルトークセッション

「世界を変えるキャラクターとは?」






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スクリーンに映された画稿を前に作品制作の裏側を語る『ヴァイキング』チーム。進行役のSECCON実行委員・園田氏と忠鉢氏からは、随所でサイバーセキュリティーのプロならではのマニアックな質問やするどい突っ込みがあり、会場に集まった作品ファンやエンジニアの笑いを誘っていました。







『王様達のヴァイキング』誕生秘話




山内 さだやすさんの漫画家デビュー時から私は担当編集をしておりまして、最初からいつも「変人」が出てくる作品を描かれていたので、そういうキャラクターで週刊連載を始められないかとご相談しました。NHKで放送されたGoogleのドキュメンタリーを観たら、社内に変人ばかりいるのがすごく面白くて。さだやすさんも私も文系ですが、すごく面白い業界だと感じたんです。





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初公開、是枝と坂井の原型となった初期のキャラクター設定画。この頃は『ショムニ』のようなIT企業のふきだまり部署にいる変人達の物語を考えていた。是枝が31歳の設定になっている。犬の256(ニゴロ)は本連載にも引き継がれた。







さだやす 天才を描きたいと思っているのですが、変人を突き詰めたら天才になると感じています。現在の是枝は天才少年ハッカーですが、旧キャラにもなんとなくその要素が入っています。




山内 この頃はIT業界のこともよく知らない中でキャラクターの性格などを考えていました。是枝とペアになるもうひとりの天才・坂井は、今の連載のキャラとは全然違いますが、これはまだ「連載になったらいいね」というぐらいの段階のもの。最初に描いたキャラクター造形が、物語が深まるごとに今の坂井に変遷していきます。





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サブキャラクターの初期設定画。ドキュメンタリー番組で観たGoogleからイメージした職場の同僚として描かれている。







山内 Googleに取材をしようと思ったのですが取材依頼が叶わなかったので、その当時エンジェル投資家だった小澤隆生さん(現Yahoo!Japan執行役員)にご相談させていただいたんです。その頃は映画『ソーシャル・ネットワーク』のような、大きなひとつのサービスを作る物語を、さだやすさんは考えていました。それが、業界の方にどう思われるかとドキドキしながら見せたネームに「つまらないと思う」とダメ出しをされて...。




さだやす 「実際にあるサービスを描けば読者も納得してくれるけど、それを架空でやってしまうとあまり面白くないんじゃないか。それよりもっとハッカーが戦うような痛快な話を読みたい」と言われて。スタートアップがすごく盛んな時期に初稿を描いていて、打ち合わせで小澤さんの自宅に伺った時も、起業した若者を自宅で「飼っている」というのが相当面白くて。これは現実のほうが面白いぞ!となって、坂井もギラギラしたキャラになっていきました。




山内 ダメ出しされた時にはすでに1巻分ほどのネームを作っていたのですが、小澤さんが「僕も若い頃にサービスを作った時には、最良のものにするために数ヶ月徹夜して考え抜いた。漫画も同じでしょう」と仰った。その直後、さだやすさんは「散歩してきていいですか?」と喫茶店を立ち上がり、30分くらい六本木の街を彷徨されてから、私の前に戻ってきて「物語を変えます!」と。
 それで新しくゼロから考え直すことになりました。ハッカーもので主人公の是枝と坂井が色々な事件に関わっていく。警察関係やサイバー事件について全てさだやすさんが考えながら週刊連載をするのは現実的に難しいので、その世界のプロの手をお借りしようと。その相談をしたアニメプロデューサーの友人から「深見さんがいいよ!」と紹介してもらって、深見さんに企画書をお渡ししました。




深見 その辺ちょっと複雑で、自分はそのプロデューサーにお会いしたことがないんですよ(笑)。それなのに「いいよ」と薦めていただいたという。




山内 深見さんもプログラミングの専門家ではないのですが「手伝ってくれる心当たりがありますよ」と、技術監修のお二人を紹介してくださって。当初は取材を諦めたのに、結果的に今ではGoogleの社員食堂にお邪魔して打ち合わせをしていたりするという、遠回りでベストなかたちに辿り着いた感じになっています。




mayah 会社が関わっている訳ではなくて、深見さんから声をかけられた自分が、たまたまGoogleに勤めていたというだけなんですけれど。



hayato それで、たまたまさだやす先生と山内さんがGoogleの食堂にランチに来ていて、そこに僕が通りがかって、興味をもって、ぜひ協力させてくださいということになったというわけです。





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連載バージョンに近い設定画稿。是枝の寄る辺ない感じなどはこのあたりで固まってきた。少し裏社会よりのイメージが漂う坂井は、映画『ゴッドファーザー』好きのイメージでポスターが描かれている。







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連載スタート時のカラーイラスト。坂井のド派手なジャケットが目をひくが、さだやす氏曰く「同じキャラを描いていてもつまらないので、できるだけかまそう!」として、坂井は"変なジャケット"を着ることに。







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山内 坂井は大金を持っているキャラで、古いビルを買って自分仕様に改造して住んでいるという設定です。漫画内に出てくる住居は通常は漫画家さんがご自身で考えますが、『ヴァイキング』では旧知の建築家の谷尻誠さんと荘司麻人さん(SUPPOSE DESIGN OFFICE)に、実際に設計していただきました。
「坂井がどんな考え方の持ち主で、どんなビルに住みたいのか? 彼にとって家に必要なものは?」などを谷尻さんから聞かれ、谷尻さんとさだやすさんとビル設計のためのやりとりを重ねたことが、坂井のキャラを更に深めてくれました。どこにビルを買うか探しにいこうと渋谷の街を3人で歩いてロケハンをし、最終的にこういった形のビルができあがってきて、坂井の家になりました。
『王様達のヴァイキング』は新しいことにどんどんチャレンジしようとさだやすさんと相談したのですが、ありがたいことに色々な方に応援していただいて、連載が立ち上がり、非常にありがたい、運のいい作品だと思いますね。





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是枝の協力なライバルとして登場する女性ハッカーの「ヴァルキュリヤ」(中央)と大胆不敵な「笑い猫」(左)







さだやす 最初は起業漫画にしようと考えていましたが、小澤さんに「ハッカーが戦う痛快な漫画にしよう」と言われて、大人も読める少年漫画のようなものを目指しました。少年漫画なら、やはり敵役がほしいということで、「ヴァルキュリヤ」と「笑い猫」というキャラクターが生まれました。ヴァルキュリヤは女性で、シンプルなものが好きで無駄な事を嫌う性格です。逆に笑い猫はタトゥーをいっぱい入れていたり、ぐちゃぐちゃした部屋に住んでいたりする対照的なキャラクターにしたかった。その性格付けと同じように、それぞれがコーディングに使うプログラム言語を技術監修のお二人に設定してもらいました。




hayato ヴァルキュリヤはScalaやRustという言語を使います。たまたま僕と趣味嗜好が近いですが、それはあくまで偶然です。さだやす先生から「ヴァルキュリヤは数式のような美しいものが好き。そのようなコードをお願いします」というリクエストがあったときは、「数式のような美しいコード」を書くというお題を楽しみました。




mayah 細かい話なんですけれど、プログラム言語には数式のように書ける言語と、これをやれという命令を羅列して書く言語があります。その中でも数式のように書けるScalaを好んでヴァルキュリヤは使っているということになっています。




hayato 作中にいろいろなプログラミング言語のコードの断片が出てきますが、すべて場面に合わせて書いています。興味がある方はよく見ていただけると、楽しんでいただけるかと思います。





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mayah このコードはダメなコードの典型的なヤツで、変数名がa,b,c,d,e,f,g,hとなっているとか、bufferがなぜ1024なんだろうとか、codeのスペルがkoudoになっているとか。引数も書かれていないので全部グローバル変数(※大規模のプログラムではトラブルの原因になりやすく推奨されない書き方)なんでしょうね...(笑)




hayato 確か銀行のシステムを開発している会社のイメージで、よくみると「秀丸エディタ」のスクリーンショットなんですね。




mayah 僕は基本的にEmacsというエディタを使っているんですけれど、ここは銀行向けのコードなのできっとWindows上のエディタを使っているに違いないと思って。実は画面の外にも「仕様書」「真・仕様書」「仕様書改」というファイルが置いてあります。




さだやす 読者の人からも、初めてこの話でコードというものに触れたけれども、是枝達のコードはどうやら様子が違うなと言われたりします。





プログラムの専門家である司会者のお二人も「プログラミング言語の選択がキャラクターのバックグラウンドになっているだけでなく、そんな細かいところまで詰め込まれているんだ!」と思わず驚愕。そんな『王様達のヴァイキング』技術監修の作り込みエピソードに、会場からも感嘆の声がやみませんでした。エンジニアならではの「あるある」には、共感からか何度も客席が爆笑する場面も見られ、ステージは大いに盛り上がりました。





この日開催された「SECCCON2016世界大会」では世界中から予選や提携大会を勝ち抜いた24チームが出場して、世界レベルのハッキング対決を繰り広げました。大会の様子は『王様達のヴァイキング』#146{CODE 16-3:THE lONG GRAY LINE}で「ホワイトハッカー育成セキュリティーキャンプ"Secure the world!"」として作中にも描かれているので、ぜひチェックしてみてください!!





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世界中から集まった24チームが2日間にわたりハッキング技術を駆使して熱い戦いを繰り広げた。







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ハッキングの状況はサイバー攻撃統合分析プラットフォーム「NIRVANA改」でビジュアル化され、会場に設置された巨大モニターへリアルタイムに表示されます。







トークセッション前半は、『王様達のヴァイキング』の企画ができるまでと、キャラクターの成り立ちを中心に話を進められましたが、後半は作中で扱われる様々な事件がどのように考案されているのかを、ストーリー協力の深見真氏を中心に紹介していきます!!




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『王様達のヴァイキング』第13集は7月28日(金)ごろ発売!!







(取材・構成/平岩真輔)






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王様達のヴァイキング 13 さだやす/深見真
王様達のヴァイキング 1 さだやす/深見真
王様達のヴァイキング 2 さだやす/深見真
王様達のヴァイキング 3 さだやす/深見真
王様達のヴァイキング 4 さだやす/深見真

関連リンク
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スピリッツ公式


【初出:コミスン 2017.07.28】

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