2017.03.16
東村アキコ氏絶賛!ゆるキモ青春コメディ『カブちゃん』の作者・鍬形ゆり氏に直撃インタビュー!! カブトムシLOVEな女の子と謎のキモかわ生物が描かれた背景が明らかに!!【『カブちゃん』第1集3月10日発売!!】
大学の昆虫研究会に所属する、カブトムシに夢中の女の子・はるな。大切に飼っていたカブトムシ・つのじろうさんを事故で死なせてしまったはるなの前に、キモかわいいカブトムシ(?)のカブちゃんがあらわれて――。とにかくカブトムシが1番! の可愛い女の子&おっさんの顔した謎の生き物をとりまく愉快な仲間たちによる、ゆるキモ青春コメディは、「ヒバナ」で『雪花の虎』を連載中の東村アキコ氏も大絶賛! 連載中からとにかくカブちゃんがかわいい! と評判です。
そんなキモかわキャラクター・カブちゃんはどうやって生まれたのか? 異色の虫漫画(?)を描く気鋭の新人とはどんな人物なのか? その一端を明らかにすべく、コミスンでは作者・鍬形ゆり氏に単行本発売記念インタビューを慣行! これを読めば、あなたもきっとカブちゃんに会いたくなる......!?
『カブちゃん』第1集発売記念・鍬形ゆりインタビュー
本誌掲載時の第1話カラー扉
――「月刊!スピリッツ」本誌で新連載の時には「キモかわ虫マニアコメディ」というキャッチコピーでしたが、単行本では「ゆるキモ青春コメディ」となっています。
担当さんがすごく考えてくださって。仲のいい友達も「虫(の漫画)を描くの?」って一回ひくみたいな感じだったりするので、虫がダメな人でも読める漫画です! っていうところを前面に。
――リアルな虫を愛でる女の子の漫画だと思って読み始めたら、突然現れた、なんだかわからないけどキモかわいい生物「カブちゃん」がメインの話になってびっくりしました。
作品としては、カブちゃんのキャラクターが先にできて、そこから膨らんでいった感じなんです。昆虫研究会ならカブちゃんがいてもおかしくないかな、みたいに。
――スピリッツ賞に入選したデビュー読切『ユーレイのさおりさん』にもクワガタが出てきましたが、そもそも昆虫がお好きだったんですか?
北海道の田舎で育ったので、遊ぶところがなくて。小さいころから虫を捕まえて遊んでいたんです。高校生になるくらいまでは、毎年、夏になると父と一緒にクワガタを採りに出かけていましたね。北海道には野生のカブトムシはいないので、ほとんどミヤマクワガタを採るために行ってました。
――それでペンネームまで「鍬形」に。
それは、お世話になっている東村アキコ先生がつけてくださったんです。ペンネームを考えている時に、「何が好きなの?」と聞かれて、「クワガタです」と答えたら、それが苗字でいいんじゃないかって。
デビュー作『ユーレイのさおりさん』(月刊!スピリッツ2016年1月号掲載)
――好きなものを聞かれて、「クワガタです」と答えるあたりが、主人公のはるなに重なりますね。カブちゃんが登場して、虫漫画じゃなかったのか...! と思った後でも、読み進めると実は意外とカブトムシの生態が伝わってくるところがいいですよね。
カブトムシは、上京してから初めて見たので、知識が浅くて申し訳ないです。中野にある、むし社さんというお店で幼虫を買ってきたんですが、最初は羽化させられなくて......改めて成虫を飼い始めたんですが、外に出たがっているのを見ているとかわいそうになってきて、逃がしてあげたくなっちゃうんですよね......。
――カブちゃんのキャラクターありきでお話しができていったということですが、その「カブちゃん」のキャラクターデザインはどのように生まれたのですか?
いつも変なラクガキばかりしていたので、そういう中から出てきたと思います。大学でグループ展をした時に、すごく適当に作った「おさかな分隊長」というぬいぐるみを出展したことがあったんです。東村アキコ先生のお誕生日兼ハロウィンパーティーみたいな会で、仮装する服がなかったので、そのぬいぐるみを腰に巻き付けていったら、東村先生がすごく面白がってくださって。それをソフトにしたのが、カブちゃんの原型みたいな感じです。
おさかな分隊長(前/後)
――これはかなりクレイジーな感じのキャラですね......。
よくこんなものを展覧会に出したと思いますよね......。なぜか、捨てても捨てても帰ってくるんですよ。実は、作っている途中で縫うのがめんどくさくなってしまって、ほとんどお婆ちゃんが縫ってくれたんですよ(笑)。私が縫った箇所はほつれちゃって綿が出てます。
――よくこれをお婆ちゃんに縫ってもらおうと思いましたよね(笑)
私はすごい不器用なので、編み物とかもできないんですよね。姉はすごい器用なので、私が途中で投げ出したのを姉が完成させるみたいな感じで。飽きっぽいのと雑なのがいけないんでしょうか。
カブちゃん編みぐるみ(お姉さん作)
――漫画を描くほうがよほど大変な気がします! カブちゃんは、いちおうカブトムシ? なのにケガをしたら包帯と絆創膏で直すというのもおかしいですよね。
虫なのかどうなのかわからない感じでやっていきたいなと。小さいおっさんみたいな。正体は謎のままですね。
――好物がカマンベールチーズというのは、どこから出てきたんですか。
私が食べたかったから(笑)。何かひとつ好きな食べ物があったらいいなと思って、家にたくさんカマンベールチーズがあったので。
――カブトムシは、基本は樹液系ですよね。
あとはバナナとかよく食べてましたね。
――主人公のはるなとか、後輩のマユちゃんとか、女の子のキャラがすごく可愛いと思いますが、twitterでは「主人公よりもカブちゃんの唇を頑張って描いている」と書かれてましたね。
カブちゃんの表情は地味に頑張っています。微妙なんですけれど、口元とか、あとは腕を上げた時の肉感とかをこだわって描いています。いちおう虫っぽく、腕がそれぞれ別の動きをしていたりするので、そこを見てもらいたいです。女の子のキャラクターは、私が描いていて楽しいので、なるべく可愛くしたいなと思ってます。基本は、キモかわいい生き物と可愛い女の子の組み合わせでやっていきたいなと。
――カブちゃんのつぶらな瞳がすごく印象的ですが、実際にカブトムシの眼はこんなにキラキラしてるんですか?
こんなにでっかくはないですけれど、つぶらな感じですごくかわいいなと思います。カブトムシの眼の中に宇宙を見るというのは、はるなの妄想癖の賜物ですね。
――はるなの中で、カブトムシと宇宙がひとつに繋がっているというのが面白いところですね。
昆虫って、見れば見るほど不思議な存在で。さくらももこさんのエッセイで「テントウムシは絶対に宇宙から来た」と書いてあったのが、すごく自分の中に残っていまして。昆虫宇宙起源説とかも、夢があっていいなと思います。
――宇宙といえば、1話で、はるなが部室で飼っていたカブトムシの「つのじろう」さんを踏んでしまった時のショックを地球の爆発で表す衝撃的なシーンも最高です。
実家で飼っていたクワガタが逃げてしまって、「クワガタいないね」とかいいながら朝ごはんを食べていたら、母親の座布団の下から出てきたことがあって、それを少し思い出しながら描きました。その時はちゃんと生きていたんですけれど(笑)。
問題のシーン
――実際にカブトムシのお墓は作ったりするんですか。
飼っているカブトムシが死んでしまった時には、住んでいるアパートの敷地に勝手に埋めて、墓石を置くみたいなことをやっていました(笑)。
――かなり作者の実体験が主人公の行動に反映されていますね(笑)。『カブちゃん』以外の作品でも、大学の部室とか、研究室とか、「たまり場」みたいな部屋がよく出てきますが、これも実体験から?
私のいた大学をモデルにしていて。大学生活が一番楽しかったです。美術専攻はサークル活動が緩くあまり活動しないので、ほとんど研究室に入り浸っていたという思い出が強いですね。一応、友達と「自然史研究会」という部活みたいなものを作っていて、キノコを育てたり、味噌を手作りしたり、よくわからない活動をしていました。
――昆虫研の活動のノリもリアルな体験から出てきてるんですね(笑)。そういえば、鍬形さんの作品にはお茶を淹れる場面がよく出てくる気がするのですが。
大学で暇な時はひたすら友達とお茶を淹れてだべるという感じだったので。自分では意識していなかったですが、たまり場とお茶がセットになっている感じですね。
――『カブちゃん』が初単行本ということになりますが、鍬形さんが漫画家を目指そうと思ったのは?
小さい頃からずっと憧れはあって。小学生の頃は「りぼん」しか読んでいなかったんですけれど、漫画クラブに入って「りぼん」の作家さん方の絵の真似をしたりしていました。そのうち、姉がサンデーを買い始めて『犬夜叉』とか『いでじゅう!』とかを読んで、少年誌や青年誌も面白いんだと世界が広がっていきました。あとは、中学1年生の時に児童文学作家の荻原規子先生の小説を読んだんです。言葉にできないくらい感動して、物語の素晴らしさに改めて気がつきました。その時から「荻原先生にいつか漫画家としてお会いしたい」と強く思うようになりました。
――twitterで「大亜門先生から下ネタとジョジョを教わった」と書かれていましたよね。
『太臓もて王サーガ』でギャグ漫画って面白いなって。ギャグの中にドラマを取り込むのもすごく上手くて、恋愛描写も素晴らしかったですね。『もて王』は姉が教えてくれたんですけれど、当時は『ジョジョ』を知らなかったのですが『もて王』で興味を持ちました。元作品を知らない人にも楽しめるパロディを描くのってすごいことだと思います。
――本格的に漫画に取り組み始めたのは?
大学2年生か3年生の頃に初めて講談社のアフタヌーン四季賞に投稿しました。美術専攻だったんですけれど、油絵とか日本画とかを描いている人達の中で漫画の絵を描くのが恥ずかしいというのがあって、友達にばれないようにこっそりとやっていて。普段は、人前ではそれこそカブちゃんみたいなラクガキばかり描いていました。
――そこからデビューまでの道程は......
初めて出した四季賞で佳作になって、担当さんと1年くらいネームのやり取りを続けて。大学卒業間際になってようやく2作目を投稿できましたが、やはり佳作だったのでデビューは叶わずという感じで。卒業後は地元の市役所で臨時職員として働きながら投稿していました。臨時職員の契約は1年で切れてしまうので、そこでまたどうしようかなと。公務員試験でも受けようかなという時に、なんか思い切ってしまって、ちょっと上京でもしてみようかなと。何も考えないままに(笑)。それで、人づてに東村アキコ先生を紹介していただいて。
――東村プロでアシスタントをしながら改めて投稿をして、スピ賞デビューに繋がるんですね。『カブちゃん』のギャグシーンのテンポ感とか見せ方、キャラクター造形にはすごく東村作品へのリスペクトを感じます。
元々ファンで、東村先生の原稿がすごく好きなので、影響は受けているなと思います。あのテンポ感は先生じゃないと無理だなと、自分で描いていて難しさを感じていますね。東村先生の作品は笑えるのに、時々すごくホロリと感動してしまう部分があって、胸に残ります。恐れ多いですが、私もそんな作品を目指したいなと思っています。先生のお言葉や原稿から、いつも大切なことを教えていただいています。
――頼もしい師匠ですね。
本当に、東村先生にはすごくお世話になっていて。ごはんとかも、ちゃんと食べてないんでしょう! って仕事の帰りにすごい持たせてくれるんですよ。私の両親も凄い東村先生にメロメロになっていて、「東村先生に食べてもらいなさい!」ってお漬物とかを送ってよこすんですけれど。迷惑だからそんなにいらないよ!って(笑)。
――田舎から大量に野菜とかが届くやつですね(笑)。『カブちゃん』については、周りの反応はいかがですか?
友達がすごい「読んでるよ!」ってLINEしてくれます。北海道にいる大学の友達がすごく応援してくれていて、デジアシで原稿の仕上げとかも手伝ってくれているんですけれど、書店員さんなので、働いている書店で『カブちゃん』が単行本になる前からすごい展開してくれたいたり。
――SNSとかで反応があったりは。
虫が好きな人とか、研究している人とかが「これはちがう」とかリプライで(笑)。私は専門的な知識があるわけではないので、ありがたいですね。最初のカラーページで描いた蝶が、近所でよく見るので日本の在来種だと思っていたら、アカボシゴマダラという外来種で。教えてもらって初めて気が付いて、衝撃でした。
――虫クラスタにもぜひ読んで欲しいですね(笑)。最後にこれから『カブちゃん』を手にとる読者に向けて一言メッセージがあれば。
リアルつのじろうさんに寄り添っていただきながら描きました。つのじろうさんさようなら、そしてありがとう。虫が好きな方も、そうでない方にも読んでいただければと思います!
今回の記事のために鍬形ゆり氏から描き下ろしイラストを頂きました!!
初公開! 『カブちゃん』プロダクションノート
カブちゃんや昆虫研究会の面々が生まれるまでの、鍬形ゆり氏のアイデアスケッチの一部をコミスンで特別公開!! キャラクター完成までの軌跡がここに!!
『カブちゃん』第1集・好評発売中です!!
コミスンでは『カブちゃん』第1話をまるごと試し読み公開中!
【試し読み】東村アキコ氏絶賛! ゆるキモ青春物語『カブちゃん』第1集3月10日(金)頃発売!第1話をまるごと試し読み公開!!
(インタビュー・構成/平岩真輔)
関連リンク
『カブちゃん』作品詳細ページ
スピリッツ公式「スピネット」
【初出:コミスン 2017.03.16】
インタビュー,カブちゃん,月刊!スピリッツ,東村アキコ,鍬形ゆり