トップ  >  【新春企画】高橋しん 新連載『かなたかける』スタート直前!インタビュー(その2)【1月4日発売「スピリッツ」6・7合併号より連載開始】 ( 2016/01/02 )
週刊スピリッツ

2016.01.02

【新春企画】高橋しん 新連載『かなたかける』スタート直前!インタビュー(その2)【1月4日発売「スピリッツ」6・7合併号より連載開始】

週刊スピリッツ
1月4日(月)発売の「週刊ビッグコミックスピリッツ」6・7合併号からスタートする新連載『かなたかける』。「スピリッツ」で『いいひと。』『最終兵器彼女』などの大ヒット作を手がけてきた高橋しん氏の新作は、箱根を舞台に駅伝にかける少年少女の青春を描く「駅伝ロマン」!
自身も山梨学院大学の選手として、第63回箱根駅伝の最終10区を走った経験がある高橋氏に、箱根駅伝翌日にスタートを切る新連載への意気込みをコミスンが独占インタビュー!!




新連載が掲載される「スピリッツ」本誌発売日直前に、3日連続掲載! 今日スタートの「第92回箱根駅伝」と併せてお楽しみください!!




『かなたかける』高橋しん氏インタビュー [その1][その2][その3]







――Google Mapで箱根駅伝のコースを確認して改めて驚きましたが、あの距離をあの時間で走るというのは、非日常そのものですね。






大手町から箱根まで、一人1時間として、5時間で走るというのはかなり非日常な感じですよね。
1区間20キロは、歩くとしたら相当な距離ですが、駅伝の選手はそれを日常にしているんです。




――走り続けていくと、その先が「非日常」に繋がっているという。






自分自身、子どもの頃から走るのは遅くて。小学校低学年の頃は2歳上と3歳上の兄に簡単にスピードで負けてしまうんですど、アイソメトリック的な足上げ腹筋のトレーニングとかは、自分が耐えればなんとかなるので勝てたんです。中学の陸上部に入ったときも、練習では全然遅くて。速い人は最初から速いので、2年生になるまでずっと耐えてたんです。北海道の冬は陸上がまともにできないので、冬の間はクロスカントリー部に入って鍛えていたのですが、なにしろ本場の少年団からやっている選手とかはものすごく速いんです。でも、最後の試合で同期の速い選手の一人に勝つことができたんですね。その時に、スピードが無くても、あきらめないで長い距離を走ることができれば勝てるんだと思いました。




――その時に感じられたことが、『かなたかける』の内容にも反映されているんですね。






中学の陸上部の恩師が、とにかく我慢して走ることができると信じてくれて、当時の北海道では、中学生の駅伝は一番長い距離で8キロの区間があったのですが、そこを任されるようになったんです。「しんはスピードは無いけれど、あきらめないでトータルで速く走ることができる」と言ってくれたことが、自分の基礎になっていて。あまり考えずに『かなたかける』を描き始めていたのですが、こうして話してみると、改めてそういう経験が無意識のうちに投影されていることに気付きました。




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――第1話でも、かなたがすごく速そうなのに走ってみると遅いというシーンがありますが、短距離にくらべて長距離の才能みたいなものは、やってみないとわからない感じがあります。






確かに、短距離や、サッカーみたいなスポーツだと、体育の授業や遊びの中で「俺ってできるんじゃね?」と気付きやすいですけど、長距離はなかなかその機会がないですよね。遊びで「今日はマラソン走ろうぜ!」ということは無いですよね(笑)。だから、ものすごく適性があって、もしかするとオリンピック選手になれたのに走っていない人というのが、星の数ほどいたのかもしれないとは思います。だから、いま箱根を走っている選手とかは、奇跡的に長距離競技にめぐり合えてチャンスに恵まれた人なんだと思うと、可能性は誰にでもあるのではと感じますね。




――奇跡的なめぐり合わせといえば、第1話でかなたが出会うキャラクターも気になりますが。






いまのところ、彼は「走る」ことにめぐりあっている人、入り口として、そういう世界があることに主人公が気付くための象徴的な存在として描いています。これから関わっていくことで、かなた達の世界を広げることに繋がっていく人になってほしいなと考えています。




――駅伝はチームとしての戦いになるので、『かなたかける』にも、これからどんどん走者が加わっていきますよね。






漫画は育っていくもので、あまり最初から決め込まないで描くことが多いのですが、キャラクターにも育つ子と育たない子がいます。主人公を中心としたエンターテインメントなので、あまりバランスを壊すようだと駄目ですが、『かなたかける』でも伸びてきている子が何人かいるので、せっかく育ってきたものは出来るだけ活躍して欲しいと思っています。週刊連載はライブ的な部分があるので、読者さんと一緒に育ってきた子であれば、駅伝で主人公以外が走っている時間を信じて任せられるし、大丈夫かなと。




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――他のスポーツ漫画を読んでいても、魅力的なチームメイトの存在は重要ですね。






とはいえ、やはり主人公なので単行本丸々1冊分くらい出てこないよね、みたいになるのはさすがに(笑)。この前、『奈緒子』の中原裕(中澤秀樹)先生に駅伝の描き方を聞いたところ、「主人公が走ってないシーンが多いので、走り始めると回想シーンが入ることが多かった」と言われて、それはそれで先輩からいただいたひとつのヒントとして、活かせるか意識していこうと思っています。






――漫画の回想シーンでなくても、駅伝を見てると選手が何を考えながら走ってるのかなと思います。






実際にレースを走っている時は、結構忙しいんです。自分だけでなく相手もいるので、距離やペースを見ながら、相手の息遣いや、弱まっているのかいないのか、どこで揺さぶりをかけるのかを常に考えながら走っているので、ボーっとする暇がない。調子が悪いときはぜんぜん駄目で、早く終わらないかなとか思っているんですけれど(笑)。かなたがそういうことをできるか考えると、すごくできなさそうな感じですが......。






――いまのところ、かなり天然で走っていますね(笑)。






小学生編では無いかなと思いますが、自分の経験でも、あまりそういうことを考えすぎると、逆にリズムを乱して失速してしまったりするので、自分の特性を活かすということでいえば、かなたにはあまりそういうことをさせずに、周りの子の役目になるのかなと。




――そういった選手のキャラクターによって、走る区間が決まってきたりするものなんですか?






箱根駅伝だと区間距離が全員20kmちかくあるのでわかりにくいですけど、やはり最小区間は比較的スピードのある選手、適性のある選手が走るという感じです。高校駅伝だと3kmから8kmまで区間距離のバリエーションがあるのでスピードランナーが走る区間は見もので、そういうのを知って観るとやっぱり面白いですね。




――小学生編では、まず「かなた」と「はると」を中心に物語が進みつつ、この先どんな子たちが出てくるか楽しみです。






これから駅伝の大会にむかっていきますが、作品として初めてのレースなので、距離や高低差などの要素は盛り込んで、選手が何を考えているのかとか、こういうコースではこういう作戦で走るみたいなものも、あまり専門的になりすぎない形で入れさせてもらおうかなと思っています。とりあえず作品としては1区がスタートしたところです(笑)。




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――作中のランニングシューズの描写もかなり細かいですが、『いいひと。』でゆーじが勤務していたスポーツメーカー「ライテックス」が登場するようなことは?






それいいですね! ちょっと考えておきましょう(笑)。最新のランニングシューズはものすごく進化していて、実際にショップにいって手に持ってみると、自分でも軽さに驚くことがあります。クッション性とか履きやすさとかは、やはり走っている人でないと知らないと思うので、自分が履いている靴とは違う、こういうもので走っているんだということを感じてもらいたいなと思って、1話目ではちょっと細かめに描いてみました。




――細かい部分で陸上経験者ならではの視点が感じられると、読者にとっても面白そうです。






自分の中から自然に出てくるものが優先ですけれど、こういうことってちょっと面白いよな、という部分もうまく出せればいいなと思って、少し意識しながら盛り込んでいこうと考えています。




――[編]駅伝は中継が長いのでずっと見ていると飽きてしまうという人でも、この漫画を読んでいれば面白く観られるようになるんじゃないかと。






観戦する時に、選手がどういうふうに考えがちなのか、みたいなことも、分かってくると面白いと思うんです。サッカーみたいなスピーディーなスポーツでも、逆に私のようにサッカーを知らない人間が見ると、何をやっているのかわからないでボーっとしてしまうので、結局、そういうことだと思うんですよね。野球だと、子どもの頃から水島新司先生の漫画を読んでいるので、だいたいこうなのかなという感じはわかりますが(笑)。実際に自分が走ってみるということもそうですが、とにかく自然に楽しみながらそういう知識が入ってくる、そういうことに繋がってくれればエンターテインメントとしてもいいかなと思います。





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――スポーツ漫画を読んで、スポーツそのものに興味をもったり、観戦するときの見方が広がったりすることはありますよね。






母校の山梨学院大の上田監督に取材を兼ねて対談させていただいた時にも、小学生編から入ることを言ったら、「子どもはまず走ることが楽しいということから入らないと、すぐにあきらめてしまう」と言われて。ガチガチにするのではなく、環境を与えて自由に伸びてもらう。そういう環境を作るのは大人の役目だと思うのですが、意外と漫画を読んでワクワクして、子どもがやってみたいと思うことには繋がるのかなと思います。今のところ何の役にもたってませんけど、子どものころに『ドカベン』の真似をして素振りとかしましたからね(笑)。【その3につづく】





『かなたかける』高橋しん氏インタビュー [その1][その2][その3]







(インタビュー/構成:平岩真輔)

関連リンク
スピリッツ公式「スピネット」
『かなたかける』作品詳細ページ


【初出:コミスン 2016.01.02】

かなたかける,スピリッツ.高橋しん