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週刊スピリッツ

2015.11.03

ゆうきまさみ×おかざき真里×松田奈緒子「月刊!スピリッツ」6周年記念トークイベントレポート(その1)

週刊スピリッツ
去る2015年9月17日から30日まで、神楽坂かもめブックス内ギャラリーにて開催された「月刊!スピリッツ」6周年記念原画展「まんが至上主義」。「月刊!スピリッツ」掲載作品の原画の数々が展示され、訪れた多くの漫画ファンの目を楽しませていました。




9月25日には、同店内で「月!スピ」6周年記念トークイベントが開催され、『でぃす×こみ』のゆうきまさみ氏、『阿・吽』のおかざき真里氏、『重版出来!』松田奈緒子氏という、『月刊!スピリッツ』の人気作品の作者3氏による豪華なトークイベントが行われ、漫画制作の舞台裏から編集者のぶっちゃけ話まで、濃密な漫画トークを繰り広げました。




コミスンでは、そのトークイベントの内容を独占レポート。会場の雰囲気たっぷりに全3回でお送りします!!






ゆうきまさみ×おかざき真里×松田奈緒子 トークイベント [その1] [その2] [その3]







スピリッツ稲垣(以下、稲): 司会を務めさせていただく、小学館「ビッグコミックスピリッツ」編集部の稲垣と申します。えーと、さて、ゲストのみなさんも緊張されているかもしれませんけれど......。




おかざき真里(以下、お): 稲垣さんが一番緊張してる(笑)。完全に台本のままじゃないの。




稲: 「えーと」とか、ムダに書いてありますからね! 今日は漫画が大好きなお客様ですから大丈夫ですよね? 会場のみなさん、笑ってくださって結構ですので、盛り上げてください。御三方は、今日は忌憚なくぶっちゃけトークでお願いします。では早速参りましょう。





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檀上ではビールも入って和気あいあいとトークが進行







稲: まずは、御三方に、自分以外の先生の作品についての感想や、ここが好き! このシーンしびれる! というのを伺っていきたいんですけれども。はじめに、ゆうき先生の作品について、おかざき先生からお願いします。




お: 恐ろしい質問をふりますよね(笑)。ご本人に直接、しかも公衆の面前で言わなきゃいけないって、なんの罰なのって感じですけれど......。私が、ゆうき先生の作品を初めて読んだのは「アニメック」(ラポート)に載っていた『マジカル ルシィ』(1982~1983)で。私ね、ルシィに羽が生えてくるシーンは、たぶんコマ割りも全部描けます。




ゆうきまさみ(以下、ゆ): 僕は覚えてない(笑)。




お: 私、すごい覚えてます。「アニメック」は当時、ちょっとお堅いアニメ雑誌で、どちらかというと評論が多かったんですけれど、ゆうき先生が映画とかの評論をされていて......。




ゆ: いや、僕が評論をしたんじゃないんですよ。そういうのを書いているライターさんの文章にカットを描いたりしてたんです。




お: 『クラッシャージョウ』の映画の時は、ゆうき先生も対談に加わってらっしゃいました。田舎の中学生だった私は、ゆうき先生の対談で、これが演出というものか...って。




ゆ: 悪事を暴くコーナーですか...!




お: それが私とゆうき先生の出会いです。あと、「月刊OUT」(みのり書房)か何かで映画『ダーククリスタル』(1982)のヒロイン、キアラが可愛いっていう......。




ゆ: それは多分、「月刊ニュータイプ」(角川書店)だと思いますけれど。




お: 私、「ニュータイプ」は買ってなかったから。




ゆ: そうなんだ。じゃあ「OUT」でも描いたのかなあ......(笑)。




お: それと、「今年のヒロインはキアラと原田知世ちゃんで決定だね!」っていう長いカットを。




ゆ: それ覚えてないです。自分のやったことって案外覚えてないもんですね。




お: そういうことにしておきましょう。それがファーストインパクトで。今回、『でぃす×こみ』でカラーページを塗らせていただいて、すごい勉強になりました。私は、昔からゆうき先生に勉強させていただいてる感じです。「これは他の漫画家に塗ってもらうために、いつもと構図を変えて描いているんですか?」と聞いたら、「べつに変えてないです」と言われて。私はアシスタント経験がないので、人の原稿に手を入れたのは初めてなんですけれど、すごく大胆というか、わかりやすい構図とコマ割りが勉強になりました。





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女性漫画家2人に挟まれてタジタジのゆうき氏







松田奈緒子(以下、松): 私は、ゆうき先生は作品より先にご本人にお会いしているという、珍しいタイプなんですけれど。後から作品を読んで、こんなにすごい人だったのかとびっくりしたくらいですね。




ゆ: 本人に会うと、ぜんぜん思わないでしょ?(笑)




松: すごく謙虚な方なので、全然緊張しないで喋っていたんですけれど、作品を読んだ後に失礼なことをいっぱい言ったかもと思って......。ご本人がフェアな方であるところとか、人柄が作品そのものだなと思って。『機動警察パトレイバー』(1988~1994)とか、あらゆる差別の意識がまったく無い。弱い者に対する優しさとか理不尽なことに対する怒りとか、『白暮のクロニクル』にもよく出ているんですけれど、そういうまっとうな怒りとか優しい部分を守ろうとする思いが、どの作品にもきちんとコレクトネス(正しさ)として表れていて、それがちゃんと売れているのは本当に素晴らしいと思います。




稲: なんて美しいまとめでしょう。続きまして、松田先生の『重版出来!』について、お二人から「ここが好き!」というお話を伺えましたら。




お: 松田さんは、少女漫画にいらした頃から同じ雑誌で描いたり、ニアミスしたり、勉強会したり、飲んだり、飲んだり、飲んだりしていて(笑)。どちらかというと、お互い少女漫画の中ではすごく端っこの、サブカルのポジションなんですね。でも松田先生は、毎回いろんな題材に挑戦されていて、それを横目で一緒に飛ぶ飛行機を眺める感じで見ていたんですけれど、『重版出来!』では、私が喉から手がでるほど欲しい、まっすぐ、太く描くことを手に入れていて。まっすぐ描くと、サブカル育ちはちょっと痩せちゃうというか、他人感が出るんですけれど、それが無くて。もしかすると何かをちょっと手放したのかもしれないですけれど、羨ましいなと思いつつ、ひゅーんと先に行った飛行機のお尻を見ています。




松: ありがとうございます。




稲: ドキドキしちゃう(笑)。ゆうき先生は......。




ゆ: ドキドキしちゃう(笑)。松田さんの漫画は『重版出来!』から読ませていただいてるんですけれど、クライマックスで見開きだったり、1ページ大だったりでいいセリフがバーンと出てくるじゃないですか。ああ、ここ目がけて描いているんだなというのが見えるのが気持ちいいですよね。カッ!と。この人は本当に少女漫画の人だったのかなあ......と(笑)。




お: そういえば、ゆうき先生はそんなに見開きをバーンと使うことはありませんね。




ゆ: 描くのが大変ですから(笑)。断ち切りはリズムを作る時に使いますけれど......というような話は後にでも。おかざきさんも言われたように、松田さんのまっすぐに行く感じというのは気持ちがいいですね。




稲: 読者も同じ気持ちだと思います。続きまして、おかざき真里先生の『阿・吽』についてお願いします。




松: おかざき先生が「ぶ~け」で華々しくデビューされたのはご存知だと思うんですけれど、あの美しい絵で1ミリの隙もなく、素晴らしくラグジュアリーな世界を展開されていて。はたして青年誌でどんな題材を描かれるんだろうと思ったら、まったく想像もしなかったような「空海」で、しかも画面構成とか少女漫画のままやられていて、これは相当すごいことで。普通は少し描き方を変えたりするんだけど、全然変えずに、しかも売れているのが素晴らしいという。




お: 売れてないですよ(笑)。でも、最初に担当さんからコマ割りを変えてくださいって言われたんですよ。




松: 少年誌のコマ割りは、だいたい3段に分けて右上から時系列に流れるというのがベースで、縦に切ったりコマをランダムに入れるのは少女漫画の手法と言われているんですけれど、『阿・吽』はほぼ3段でやってないですよね?




お: 最初に読切のネームを描いた時に、コマ割りを青年漫画にしてくださいと言われて、一言一句変えずに青年漫画のコマ割りにして持っていったら、担当が読み終わった後に「すみません、僕のせいです」って言われて(笑)。それで、コマ割りを変えたらふつうの漫画になりました。コマ割りはすごい大事だな、って思いましたね。




ゆ: だいたいアレですよね、人に依頼しておいてコマ割りはいつもと変えてくださいって......。




お: 失礼ですよねぇ!(笑)




ゆ: だったら頼むなって話ですよね!




お: 本当ですよ!




稲: ......ドキドキする!




お: (爆笑)




ゆ: 『阿・吽』で、バーンと見開きが来るでしょ。それが『重版』と違うのは、着々と描き込みがあるんですよ。あれは見る側はすごい眼福でいいんですけれど、描く側の立場に立つと嫌だなって。とにかく衝撃的なんですよね。それが凄い、僕なんかは全然持ってない部分なので。




松: 描く側だと、どれだけ描いているかが一目で判るので、圧倒されるんですけれど、読者はそうでないかもしれないかも......。




お: 読者の人が読んで得したなって思ってもらおうというのがあって。エロいお姉ちゃんのボディでも、セリフ一個でも、あるいはインクの量が他より多いとかでもいいんですけれど。




稲: いつも、一個のみならず得したなって思いながら読んでますよね。いや~普段、知ることのできないお話を伺うことができました。




お: 台本に書いてある通り、リアクション、そのまんまやん!こっちがフリースタイルでやってるのに(笑)




稲: 外れちゃいけないと思って......。そんな漫画家どうしだから気付いたり、思う部分があると思いますが、ここで御三方の中で質問を回していただこうかなと。漫画家から漫画家にこれを聞きたい、というのを事前に用意してもらいました。それでは、松田先生から両先生への質問を発表します!




松・ま: ダララララララララ、じゃーん!(ドラムロールのSEっぽく)




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豪快に質問を投げる松田奈緒子氏






松: 「描く上で気を付けていることは何ですか?」...アバウトですが、作品の中に込めるものとか、自分の体調とかもそうなんですけれど。朝描くとか、夜描くとか......イライラしてるときは描かないとか。そういうのも全部含めて何かありますか?




お: すごいアバウトな、ボール投げて「誰かとってこい!」みたいな質問(笑)。




松: いけー!って(笑)




お: 投げられて、ボール見えない(笑)。描く上で......体調面では、姿勢をよくするというのを。漫画家どうしで話していて、言葉が悪いんですけれど、「年をとると絵があまり良くなくなってくる先生がいるね」という話になって。とある先生が、姿勢が悪くなるから、腹筋や背筋が弱くなって平時の紙に対する目線が下がってくるからだと。それを聞いてからピラティスに通い始めて、インナーコアを鍛えています。あとは、止まらない、悩まないことですね。私は「よし、描くぞ!」ってなったら、飲むんですけれど......。




松: えっ!?




お: ふふふ(笑)。素面になって悩むと、絵を入れるときに止まっちゃうし、ネームも止まりがちなので。




松: じゃあ、あれは飲みながら描いてるんですか? あんな精密な絵を......。手は震えないんですか。




お: まだ手は震えない(笑)。インナーマッスルを鍛えながら飲んでます。




稲: ゆうき先生はいかがですか。




ゆ: 姿勢が悪くなるのに加えて、老眼がありますね。若いころは降ろそうと思ったところにペン先が降りるんです。老眼になってくるとそれがおぼつかないので、線がアバウトになっていっちゃう。




お: 老眼鏡は?




ゆ: 老眼鏡というか、遠近両用のを使ってますよ。今日かけているのはわりと遠距離用な感じの眼鏡ですけど、仕事の時はもう少し、下を見るのに度の強い眼鏡を使わないとダメなんですよね。




お: 後ろの人、見えてますよー!(笑)




松: いつごろから、ペン先がポイントに入らないと感じたんですか。




ゆ: 40代の後半くらいからですかね......この10年くらいは特に。それで線がアバウトになってかさついてきたりするのが、ベテランの絵が昔と比べると......と思われる時にはそういうのがあって。




お: アスリートのような。




ゆ: 僕の場合は、「絵が枯れたよね」とか言われたくないなと思いながら描いてます。




松: 瑞々しいです!




お: 艶っぽいですよね。




ゆ: ありがとうございます。あと気を付けているのは、ツルツルっと読み終わるように。題材とか話はひねったものが多いので、せめて読んでいる時は、起きていることが分かりやすくツルツルと読めて、ああ面白かったと思ってくれるくらいになるように気を付けています。




お・松: 深い......!




稲: 思ったよりいいボールでした。次は、おかざき先生からもうちょっと頭を使った質問をいただいてますので、参りましょう。




松: 失礼だな!(爆笑)




稲: デレレレレレ、でーん!おねがいします!




お: 「もう漫画をやめてやる!」と思ったことはありますか?




松: ないです!(即答)





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ゆ: 僕はあったんですよ。




お: まじで!? いつですか?




ゆ: 「OUT」と「アニメック」の仕事とかをやっている頃に、ちょっと。パロディとか描いていて煮詰まる感じがいろいろあって。




松: ずいぶん早いですね......




お: じゃあ私が読んでいたころに。「シャア!シャア!」のやつ?




ゆ: ああいうのを描いていて......24歳くらいの頃ですかね、なんかある日、続けていけるのかなと思ってちょっと悩んだ時がありましたね。会社を辞めてたんで、この後どこかに就職するのも大変だろうなとか、本当にぼんやりとした、漠然としたものだったんですけど...。




松: どのくらいの期間、悩まれたんですか?




ゆ: ひと月かふた月くらいだったんですけど、描けなくて同人誌の原稿を落としちゃったんですよ。それで、こんなこともう続けられないなって思ったんですよね。




稲: 同人誌でよかったですよね......あ、ダメなのか......。




お: いまツイッターで「失礼な発言だ!」って書かれてますよ!! 原稿落として、暗い部屋でカーテンひいて一人で......そこから、どうやって今のゆうき先生が?




ゆ: 午後の3時過ぎに、銭湯に向かう道すがら、こんな一番風呂に入れる仕事はこれくらいしかないよなって。この仕事を手放しちゃいけないなと。




松: まったくですね。よかった手放さなくて!




稲: 銭湯ありがとう、ですね(笑)




ゆ: あと、「OUT」で描いていた時に、安彦良和さんから手紙をいただいたんですよ。「あんなもんばかり描いているものじゃない!」っていう、非常に暖かいお叱りのお手紙を。そういうのがいろいろ重なった時期なんです。




お: 君はもうちょっと先に行くべきだ、と。




松: 階段をのぼる手前だったんですかね。いい話!




稲: 人に歴史あり、ですね......。《その2へ続く》






ゆうきまさみ×おかざき真里×松田奈緒子 トークイベント [その1] [その2] [その3]







(取材・構成:コミスン編集チーム・平岩真輔/写真:ぺらねこ



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阿・吽 2 おかざき真里/阿吽社
重版出来! 6 松田奈緒子

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【初出:コミスン 2015.11.03】

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