2015.10.05
カレー沢薫・輝きかけの人生コラム「薫の小部屋」第20回更新!
今回のテーマは「社畜根性」です!
カレー沢先生の筋金入りの社畜根性、とくとご覧あれ??
◆ ◆ ◆
先日、台風がやってきた。
我が県は地味すぎて、台風の視界にすら入っていないのでは、と思うぐらい災害の少ない良い県なのだが、久々のクリーンヒットであった。
朝からかなりの風雨であったが、日本人特有の社畜根性で私は車で会社へと向かった。だが、冷静に考えると、何人であろうとも、頭が良ければ普通こんな日に外に出ないのである。
その結果、命からがら会社に着いた30分後に自宅待機指示が出て、また命からがら帰る、という、並のマヌケには出来ないエクストリーム帰宅をする羽目になった。
道中、停電のため信号機が全部消えていた上、トラックが横転しており、まるで地球滅亡系パニック映画の世界であった。それなら私は開始10分で、人の忠告を無視して死ぬモブキャラということになるのだが、幸い家には無事着くことができた。
帰宅後、せっかく会社が休みになったのだから、原稿の方を進めるかと思ったのだが、当然停電である。
私は、漫画の原稿を全てパソコンで描いている。つまり、電気がない=死であり、「手も足も出ない」の例文にしていいぐらい詰みなのだ。
仮に、デジタルがダメならアナログで描けばいいじゃないと、デジタル漫画家にアナログ画材一式を与えたとしても描けないのだ。昨今、いくらでも手軽に見られるネットエロ動画に慣れているティーンの男子に、突然、木のウロの写真を見せて「これとイマジネーションだけ抜け」と言っているのと同じことなのである。
アナログで原稿を描くことは無理だ。出来ると言ったらトーンを切る用のカッタ―で手首を切って、作者急病のため休載を勝ち取るぐらいである。しかし、原稿の前段階のネームを描くことくらいはアナログでもできる。
そう思い、ネームを描こうとしたのだが、今度は紙がなかった。そして、シャーペンもなかなか見つからなかった。
いくらなんでもデジタルに溺れすぎである。曲りなりにも物書きなのに、物を書く道具が一切ないのである。
デジタルはアナログより効率がいいし、コストもかからない。しかし、こういった非常時には、やはりアナログ大勝利であり、デジタルはどうしようもできない。
そう思いながら、やっと見つけた便箋の裏にネームを描いていたのだが、その内、日が落ちて、それすら描けなくなった。こうなるとアナログ作家だって描けないだろう。
そもそも、何で災害時にまで、そこまでして原稿を描こうとするのか。必要なのは、非常時に使える電源でも、アナログ技術でもなく、「停電でどうしようもねえから、今週休ませろ」と担当に1本電話を入れて、あとは寝る胆力かもしれない。
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【初出:コミスン 2015.10.05】
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