トップ  >  書道家・武田双雲さん「自分で書いたはずなのに、想像もつかない物語になるのが楽しいんです」◆屋根の上のマンガ読み ( 2014/11/10 )
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2014.11.10

書道家・武田双雲さん「自分で書いたはずなのに、想像もつかない物語になるのが楽しいんです」◆屋根の上のマンガ読み

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ビッグコミック連載の人気コラム「屋根の上のマンガ読み」をコミスンでもお届け!






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第63回 武田双雲
《プロフィール》1975年生まれ、書道家。独自の創作活動で注目を集め、映画「北の零年」、NHK大河ドラマ「天地人」など数多くの題字・ロゴを手がけるほか、世界中でパフォーマンス書道や書道ワークショップを行っている。






「体が勝手に動いて、書いてる自分に驚く感じ、書でもあります」







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 ギャグマンガで衝撃を受けたのが[伝染るんです。]なんですよ。乗ってた自転車から転げ落ちて、ハラ抱えて笑ったことあります。紙に変な字が書かれてて「どう読むの?」って聞かれるネタがあるんですけど、そんな字ないんですよ、読めないんです。そしたら説明するキャラが、その字をそのままフキダシで言ってて、読めない!読めないんだけどちゃんと説明できてる。マンガならではの表現ですよね。吉田戦車さんは、僕にとっての4コマの概念を破壊してくれた人です。書って「1コマ」でしょ。情報量少なく勝負する世界だから、4コマで表現しきるところにも共通点を感じます。
 [キン肉マン]も大好きだったな~。連載当時、人生で何が一番楽しみかっていうと「来週の[キン肉マン]」だったんですよ。ストーリーも設定もむちゃくちゃなのに、勢いがありましたよね。圧倒的な個性と。
 [とめはねっ!]は、マンガっぽい激しいシーンも、突飛な設定もないんですよ、驚くべき事件も起きないし、書道の歴史とか技術とかをちゃんと伝えてくれてる。でも、薄味に見えて深い。きれいな絵で、静かに流れてくんだけど、ものすごく面白い。河合克敏さんは「静かな実力者」って感じしますよね。




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[伝染るんです。] ©吉田戦車/小学館







制御できない瞬間






 [HUNTER×HUNTER]の冨樫義博さんと[BASTARD!!]の萩原一至さんに影響を受けたのは、風が吹いてくるような、線のスピード感です。書道では「筆勢」っていうんですけど、筆の勢いですよね。音が聞こえてきそうなぐらいの荒い線、書道家としてスカっとします。何にもとらわれてない感じ。マンガを描くとか絵を描くとかいう、その常識をはるかに超えるくらいの勢いがあるっていうか。書だったら画数が少ないから、どう書いたかわかるじゃないですか。絵の場合は線を重ねて緻密になっているのに、なんであんな勢いが保てるのかっていうのが、僕は絵が描けないから不思議なんです。
 自分の頭で考えて自分の手で描いてる世界でさえ、制御できない瞬間てあると思うんです。書にもそういうところがあって、自分で書いたんだけど書かされてる感覚ってあるんですよ。書いていくうちにスピードも気持ちもどんどん上がっていくから、自分の動きがほんとに自分の脳から出た命令じゃないような。もちろん師匠の声が聞こえてくるのかもしれないし、見てきた書から影響を受けてるのかもしれないんですけど、またその領域とは違う、無になって体が勝手に動いて「あ、そっち行くのか、なるほどなるほど」って、書いてる自分に驚く感じ、もしかしたら漫画家さんも感じてるんじゃないのかなって。作家さえ巻き込まれていく不思議な世界だと思いますね。自分が想像もつかない物語に行くっていうのが、僕のモチベーションにもなっています。





大衆的なわかりやすさ






 あこがれの漫画家さんたちに、僕は書でどこまで追いつけるんだろうって考えてて。見習いたいのは、圧倒的なオンリーワンであること。まねのしようがない、近くに誰もいない感じ。モーツァルトも王羲之も、今ではその道のど真ん中にいますけど、出てきた当時は超斬新でファンキーだったんですよね。ファンキーなんだけど王道になるようなものを、今でも追い求めてると思います。
 僕は「マンガっぽい」っていう感覚がすごく好きなんですよ。ポップ感というか、大衆的なわかりやすさ。もし僕に書道家としての新しさを感じてる人がいるとすれば、そのポップ感を評価してくれてるんだと思います。伝統的で難しい、日本画とか油絵みたいなイメージだった書道を、僕がマンガの世界に落とし込んだのかなあ。子供からおばあちゃんまで、「なんかいいね」って言ってくれるような書を目指してます。






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《武田双雲さんのおすすめ作品》

 [伝染るんです。]吉田戦車

 [キン肉マン]ゆでたまご

 [とめはねっ!]河合克敏

 [HUNTER×HUNTER]冨樫義博

 [BASTARD!! -暗黒の破壊神-]萩原一至





《こんな作品もおすすめしていました!》
 [Dr.スランプ]鳥山明
 [行け!稲中卓球部]古谷実
 [幽☆遊☆白書]冨樫義博
 [聖闘士星矢]車田正美





■次回予告:第64回 ラサール石井(タレント)

手塚治虫ファンとして、[チェイサー]に

ものすごく共感するというラサール石井さん。

お笑いや舞台活動に影響を受けた[がきデカ]など!

<11/25(火)更新予定>






【「屋根の上のマンガ読み」バックナンバーはこちら!】





(取材構成:ビッグコミック編集部、根本和佳 撮影:松原康之)

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【初出:コミスン 2014.11.10】

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