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【新連載】深読み新刊紹介スタート! 第1回は『健康で文化的な最低限度の生活』/読みコミ

2014.10.01

発売されたばかりの作品、いま注目したい作品、まだまだ押したい作品......
コミックを長く「店頭」からながめてきた視線で選ぶ、
元・まんが専門店主の深読み新刊紹介。





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第1回 『健康で文化的な最低限度の生活』第1集 柏木ハルコ







 健康で文化的な最低限度の生活。健康であること、文化的であることに、それぞれ「最低限度」という縛りがつく。ではどこが最低ラインなのかという判断については役所の担当者によって、受給ケースによって微妙に違ってくる。明確な規定はあれど、社会情勢によっても変化しうる「最低限度」。だから裁判で長く争われる事例も発生する。
 この数年「貧窮」の周辺がザワザワしている。実態はずっと前から同じなのかもしれないが、リーマン・ショック以降ニュースになることも増え、これまで水面下にあったザワつきがより表面化してきているように思う。貧窮ビジネスしかり、不正受給問題しかり、最近は貧窮と徴兵制をリンクさせる発想まで表に出てきたりもする。問題の中心には、貧窮に陥る人が増えているということがある。生活保護が果たす役割もますます重くなる。こうした状況下では、複雑な問題を単純化してジャッジしようという風潮も拡がりやすい。貧窮問題でいえば、貧窮の原因は世の中の構造のせいか、自己責任か、という二択をせまる議論。思考放棄というか、知性の無力化というか、そうした空気に巻き込まれないことも大切になってくる。こうした難題にぶつかった時に必要となる"想像力"。健康で文化的な最低限度の生活の現場ではいったいどんなことが起こっているのか? この作品で描かれている具体の数々はその"想像力"に直結するものだ。





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 さて、日本国憲法第25条に基づく健康で文化的な最低限度の生活を保障する手立てとしての生活保護。新卒で公務員に採用され福祉保健部生活課に配属されたこの作品の主人公・義経えみるは、その生活保護の現場で新人ケースワーカーとして働くことになる。これはある意味、突然リアルでシビアな人生の最前線に放り出されたようなもの。受け持つひとつひとつのケースの深刻さに面食らい、さらにはそれをひとりで110件(!)も受け持たねばならないことに呆然とする。彼女と一緒に配属された同期4人もそれぞれに悪戦苦闘する。ひとつの出来事を多角的に見ることの難しさ。人の生い立ち、経験の多様さ。分かったつもりで分からない人の心の複雑な動き。他人を知りコミュニケートするというのはどういうことなのか。謙虚さを欠いたコミュニケーションの危うさ。仕事のそこかしこにある様々なリスクを思い知らされる新人ケースワーカーたち。
 柏木ハルコの描くケースワーカーや受給者たち、ひとりひとりのライブ感がすごい。ひとりとして同じ性格の人間はいない、同じ人生を送る人間はいないということを実証するかのように見事に描き分けられている。登場人物が多いにもかかわらず、作者が描くそのひとりひとりが際立って見える。
「1億総中流」って言葉はいつ頃まで使われていたのだろう? 気がつけば、ちょっとつまずくだけで「貧窮」に落ちかねない不安な時代に暮らしている我々。こんな時代はまた、不寛容が芽吹きやすい時代でもある。声高に発せられる一面的な正論と浅い理解がわざとらしくループする時代。人の気持ちを知る余裕を欠いてしまいそうな時代。この時代に少しでも不安を覚える人にとって、柏木ハルコの『健康で文化的な最低限度の生活』は目を離せない作品のひとつになると思う。





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南端利晴(元・まんが専門店主)

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健康で文化的な最低限度の生活 1 柏木ハルコ

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【初出:コミスン 2014.10.01】

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ABJ 10401002

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