ビッグオリジナル
2014.09.13
【連載コラム】『テツぼん』原作者、高橋遠州先生のテツオタ話。第9回はただいま連載中の舞台、津鉄訪問記!!
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第9回【津軽鉄道春景色】
現在、『テツぼん』は静岡県から青森県に舞台を移してストーリーを展開しております。その取材のために4月下旬、津軽鉄道を訪れてきました。実は津軽鉄道と小学館は浅からぬ関係があります。2007年に津軽鉄道の写真集を出したのを皮切りに、2008年には『ちゃぺ!津軽鉄道四季ものがたり』、2011年には『釣りバカ日誌』のそれぞれ舞台になっておりまして今回で三回目ということになります。
津軽鉄道は鉄道マニアには聖地みたいなところですから私も過去に一般客として何度か訪れてはいますが、今回は取材ということで一般客では立ち入れないレトロな本社建物内や操車場敷地内を見て回ることができました。何より澤田長二郎社長(『テツぼん』では澤村社長として登場)をはじめとする津軽鉄道の関係者の皆さんにお会いできたことはまさに役得!鉄道漫画の原作者やっててよかったなと思いました。
もうこうなったらとことん津軽鉄道を味わい尽くしてみたいと考えた私はこの機会に津軽鉄道の全駅を訪れてやろうと思いました。私は過去に津軽鉄道は何度か訪れているとはいえ、途中駅は通り過ぎるばかりで起点となる津軽五所川原駅、終点の津軽中里駅、それに太宰治の生家『斜陽館』がある金木駅以外は訪れたことがなかったからです。
鉄道マニアが全駅を訪れると言った場合には鉄道を使って一駅ずつ降りていく"全駅下車"が本筋になります。実際、鉄男は上り下りを交互に下車して時間を短縮する"裏技"で丸一日かけて"全駅下車"を達成していますが、あいにく今回は取材で来ているためそういう訳にもいきません。それでやむを得ず車で一駅ずつ巡ることになりました。
それでも『三丁目の夕日』に出てきそうな駅にいくつも巡り会うことができました。私が子どもの頃にはローカル線の駅はどこもこんな感じだったんですけど、いつの間にか小ぎれいになってしまった駅が多いなか、津軽鉄道にはまだまだ昭和の原風景を残している駅がたくさんありました。
昭和の原風景を残す大沢内駅
こちらは毘沙門駅の構内。
ところが暮れなずむホームで津軽平野の暮景を眺めつつノスタルジックな感傷に浸っていた私はふと、ここは雪国だということに気づきました。私が取材に訪れたのは4月下旬。桜が咲き誇る直前でまだ肌寒さは残っていましたが、さすがにもう雪はありませんでした。でもほんの何か月か前までは辺り一面雪景色だったはずです。時折は地吹雪も吹き荒れていたことでしょう。そんな時にこんな吹きさらしのホームに立ってしみじみとノスタルジックな感傷になんか浸っていられるかなと思いました。
私がその日、見たのはあくまでも津軽鉄道の春景色でしかありません。でも津軽鉄道は地元の人たちの足として雪国の厳しい冬にも黙々と走り続けている訳です。それを知らずして津軽鉄道を味わい尽くしたとはとても言えないでしょう。いずれの日にかそういう時季にもう一度このホームに立って津軽の冬にこの身をさらしてみようと、柔らかな春の風をほほに受けつつ思いました。
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(執筆:高橋遠州 担当:ビッグコミックオリジナル編集部)
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【初出:コミスン 2014.09.13】
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