2013.12.31
『YAWARA! 完全版』制作舞台裏①...浦沢直樹先生の衝撃の一言とは!?
『YAWARA!』...普段漫画を読まない人でも、一度は耳にしたことのあるタイトルなのではないでしょうか。 1986年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載が始まった本作。 日本の女子柔道ブームを牽引し、アニメも最高視聴率19.7%(関西地区では20%超え!)を記録... 漫画というジャンルを超え、社会現象にまでなった浦沢直樹先生の傑作です。 今年の夏、小学館ビルの建て直しに際して行われた落書き大会で浦沢先生が描かれた柔と滋悟郎の姿は、多くの方がニュースなどで目にしたはず。
なんというメジャー感!
念のため「まったくなんのことかわからない! 俵? 瓦? 鰆?」という方のために説明すると、 主人公は「普通の女の子になりたい」と願う高校二年生(連載スタート時)の猪熊 柔。
トレードマークのちょんまげ結び。実は連載当初は女の子らしくリボンを結んでいました。
彼女は天賦の才に加え、柔道の達人である祖父の猪熊滋悟郎に鍛えられた、無敵の柔道の天才少女だったのです!
柔道七段(自称八段~十段)にして全日本選手権大会五連覇(自称六連覇~八連覇)の滋悟郎氏。
口癖は「~~ぢゃ!!」
柔の才能に惹かれ、彼女をスーパースターにしたいと応援する「日刊エヴリースポーツ」記者の松田耕作。
読み進めるにつれイケメンに思えてくる松田さん。
天才スポーツ少女として数々の種目で栄冠を手にしながら、唯一柔道では柔に破れたことから、彼女にライバル心を燃やす、本阿弥グループ令嬢のさやか。
実は誰より努力家です。
その他にも、柔が想いを寄せるさやかのコーチ・風祭、そして数々の友人やライバルたち... 決して自ら戦おうとはしないのに、その才能(と滋悟郎の強引さ)ゆえに、世界の舞台で活躍することとなる柔。 彼女の才能と人柄に惹かれた人々によって織りなされる、柔道と恋の勝負の行方は...!? これは、普通の女の子(になりたい)・猪熊 柔がオリンピックの金メダル、そして国民栄誉賞を受賞するまでを描いた、奇跡の物語なのです! この完全版プロジェクトは、2012年より緩やかに始動... 『MONSTER』『Happy!』『MASTERキートン』と、浦沢先生のタイトルは完全版が続々刊行されていますが、『YAWARA!』は大ヒット作にも拘わらず、長らく文庫版でしか読めない状態が続いておりました。 文庫版の判型で読もうと名作は名作...しかし、どうせならA5判型、カラーも完全収録で読みたいですよね!? しかも連載当時大人気作だったため、中盤から後半にかけて、鬼のようにカラーページが増えていくわけです! (※週刊の『YAWARA!』と月2回の『MASTERキートン』を同時連載していたにも関わらず...)
全く毛色の違う二作。実は同時期に連載されてました。
なんと驚異の月産120ページ超え!!
時、折しも東京オリンピック開催が決まり、世間の関心も高まっている頃合い。 「待ちにまった!」完全版の刊行にあたり、ただの【過去作の焼き直し】ではなく、この名作を今再び、新たな驚きをもって読者の皆さんに手に取ってもらうべく、苦心の日々が始まったのでした... 元々の単行本(BC版)では、『YAWARA!』は全29巻。これを全20冊にまとめ直す作業から始めました。 そうなると、問題は「どこを各巻の切れ目とするか?」という点。 往々にして、漫画家さん(と担当)は、連載時から常に「単行本の切れ目はどこになるか」を意識して各話の内容を決めていきます。 つまり、単行本を一冊読み終わった読者の方に、 「なんなの、こんな犯人の正体がわかりそうなところで『つづく』なんて! キイーッ!」 と、次の巻を楽しみにしていただく(出来れば続刊も購入いただく)ことを目標として物語を作っている訳です。 こういった、続きが気になるように作ることを「引きを作る」といいます。
※画像は編集が適当に描いたイメージです。
完全版にまとめ直すということは、当時作られた「引き」のポイントをずらすことになりかねない... あれは2013年初夏... 暫定的に「台割」という、「この巻にはこのお話からこのお話まで入りますよ」という設計図のようなものを20巻分作り、切れ目はこれでOKかどうか、浦沢先生にお伺いしに行きました。
手書きで作る場合もありますが、今回はこんな感じ。
「浦沢先生ともなれば、単行本の切れ目はかなり慎重にチェックされる筈...」 20冊分、時間をかけて検討いただくことを前提としてお伺いした担当者は、この直後の浦沢先生の言葉に打ちのめされます。 20枚の紙を一瞬(ほんの一瞬)チラ見された浦沢先生。 そして、即座に 「どこで切っても面白いように作ってあるから、切れ目は任せる」と仰しゃったのです...! ガーン! それはつまり、(週刊誌で言うならば)毎週必ず「続きが読みたい!」と思わせるように作ってあるというわけで、 確かにそれは漫画の基本なわけで... しかし実際にはそのように断言できるほどに徹底するのは至難の業なわけです。 たまには閑話休題にならざるを得ない時もあるし、大きな話の流れが一段落ついたタイミングなどでは、「引き」よりもついつい奇麗にまとめることを意識してしまいがちなもの。 そして実際、その点を意識しながら通して読んでみると、確かに試合中はもちろんのこと、柔が全く柔道をしない回などでも、きちんと毎話「続きが気になる」という風に作ってあるのでした。
試合シーンはこんな感じのラストシーンで、次号へと「つづく」!
ソウルオリンピックが終わり、柔の恋も少し進展...
大きな流れがひと段落ついたと思ったら、宿命のライバル・さやかが既に4年後のバルセロナに向けて始動!
こんな「引き」を作られたんじゃ、読むのをやめるタイミングがありません!
「どこで切っても面白いように作ってある」
果たしてこの浦沢先生の言葉が嘘か真か...
それは発売中の『YAWARA! 完全版』で、どうぞご確認ください!
定価:1100円+税
①はアニメDVD付き特別版も同時発売!(定価:1980円+税)
(C)浦沢直樹 スタジオ・ナッツ/小学館
関連リンク
YAWARA! 完全版 1
YAWARA! 完全版 2
YAWARA! 完全版 1 DVD付き特別版
【初出:コミスン 2013.12.31】
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