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週刊スピリッツ

2020.11.30

オンライン特別対談 ツジトモ(GIANT KILLING)×小林有吾(アオアシ)

週刊スピリッツ

圧倒的なリアリティーと臨場感で日本のサッカーに光を当てた『GIANT KILLING』と『アオアシ』。同時代に同ジャンルで歴史的ヒット作を紡ぐ二人の作家が、出版社の垣根を突破し、ついに対談を果たした。自らの創作論について、お互いの作品について、たっぷり語り合う……これは、奇跡だ!!

[プロフィール]

ツジトモ

1977年北海道生まれ、東京育ち。2007年、『GIANT KILLING』連載開始(週刊モーニング)。2010年、同作で第34回講談社漫画賞一般部門を受賞。

小林有吾

愛媛県出身。2015年、『アオアシ』連載開始(週刊ビッグコミックスピリッツ)。2020年、同作で第65回小学館漫画賞一般部門を受賞。

■二人が作品で描きたいもの

小林 初めまして、小林と申します。
ツジトモ 初めまして、ツジトモです。
小林 今日は長年の夢が叶いました!
ツジトモ はははは! やめてくださいよ、僕なんてペーペーですから。
小林 いや、本当に! ずっとお会いしたくて、そのためには自分が結果を出さなければと思っていました。
ツジトモ 結果を出してるじゃないですか。小学館漫画賞、おめでとうございます。
小林 ありがとうございます。実はその小学館漫画賞をいただけたことをきっかけに、ツジトモさんに対談のご意向があるか聞いてもらえないかと、思い切って担当編集にリクエストしたんです。
ツジトモ そうでしたか。もちろんアオアシは、だいぶ前から知ってましたよ。「来てるぞ」って聞いてましたし、読んでみたらすごいことを漫画でやってるなと思って。アオアシ超すごいです!
小林 ありがとうございます(笑)。
ツジトモ サッカーの理論やユースのとんでもなく厳しい世界を漫画にするって、すごいことですよ。小林さん自身は、アオアシで何を一番描きたいんですか?
小林 やっぱりプロを目指す少年の気持ちですね。僕も死ぬほど漫画家になりたかったので。あの頃の自分の気持ちをアシトたちを通じて伝えることです。
ツジトモ それ、感じる。
小林 よかったー。
ツジトモ そりゃ感じますよ。成長する喜びがすごく描かれている。だから読んでてやる気が出る。そこがすげー。僕の漫画と一番違うのはそこですよ。
小林 いやいやいやいや(笑)。
ツジトモ こういう物語がちゃんとヒットしているこの世の中もすごいなって。みんなに響くということは、みんなも本気で生きてるんだなって思いますね。
小林 ツジトモ先生はGIANT KILLINGが読者にどんなふうに伝わったらいいなと思って描いてるんですか?

ツジトモ サッカーファンに面白がってもらえるものを描かないといけないとずっと思っています。それに僕は、単純にJリーグって素晴らしいと思っているんです。描くことでJリーグを応援したい。自分が何かデカいことをしてやろうとかは思ってなくて、みんなJリーグを好きになってねっていう気持ちなんですよね。
小林 なるほど、そうなんですね。僕もJリーグは素晴らしいと思います。

■GIANT KILLINGとの出会い

小林 ……あの、ツジトモ先生、あふれる想いを一方的にお伝えしていいですか?
ツジトモ どうぞ!
小林 僕がGIANT KILLING に出会ったのは2009年なんです。アシスタントをやるために2か月ぐらいだけ愛媛から上京して、漫画家志望の友だちの部屋に上がり込んだら、当時の最新刊(10巻くらい)までがそろっていたんです。
ツジトモ へえー。
小林 どういう漫画なのって訊いたら、監督が主人公で戦術を漫画に落とし込んだものだって。でも、そういう言葉で説明できるもんじゃないと。彼はこう言ったんです。「小林、お前はサッカー漫画の得点シーンで泣いたことがあるか?」そう聞いて、表紙を見て、中をちょっとだけ見た。それだけでこの漫画絶対面白いって思ったんですよ。
ツジトモ 読む前に? そんなことある?
小林 装丁と中身から一見で伝わるセンス、エネルギー。そして友人の言葉。それだけでわかった。だから僕は、あえてそこでは読まなかったんです。
ツジトモ あ、それ、ちょっとわかります。ちゃんと読みたいっていう気持ちでしょ?
小林 そうなんですよ。流し読みじゃなく、ちゃんと読みたい。それから自分も連載をやって、失敗もあって、漫画家として厳しいなーってタイミングでスピリッツから声をかけられたんです。そこで「サッカー漫画を」と提案され、自信がなかったけど決意を固めた時に、今こそちゃんと読もうと。これが2014年ぐらいの話です。真剣に全巻読みました。もう、衝撃でした!
ツジトモ へえー。
小林 すべてが新しかったです。
ツジトモ 新しかった?
小林 新しかった。そして「こういうやり方だったら僕にも戦える」と思いました。突然サッカー漫画を描けって言われた僕は、暗闇に放り投げられたような状態でした。けれど、よーく見たら遠くに光が差していて、そこにツジトモ先生が立って手を振っているのが見えたんです。「おーい、こういうやり方があるぞ!」って僕を導いてくれている。そういう光景が浮かんだので、僕は光に向かって走り出したんです!
ツジトモ うれしい話だなー、それ。どこらへんがそう思ったんですか?

■GIANT KILLINGの革命

小林 GIANT KILLINGのすごいところはたくさんありますけど、一番は「カメラ」です。ほかのスポーツ漫画って、作家さんが選手の横でカメラを構えて、一緒に走ってるイメージですよね。汗をかきながら必死に走って、自分の大好きな主人公と一緒に戦っている。でも、ツジトモ先生は違うんですよ。監督の横にいるかっていうと、それも違う。
ツジトモ どこどこ?
小林 GIANT KILLINGのカメラってテレビカメラなんですよ。スタジアムで繰り広げられるあの最高のエンターテインメントを遠く離れた人たちに伝えるために、テレビ中継があるわけじゃないですか。つまり、最も多くの人がサッカーを楽しんでいる視点、それがテレビカメラなんです。ツジトモ先生はフィールドを走らないし、ベンチにもいない。じゃあどこにいるかって言ったら、モニター室にいるんですよ。「はい1カメ! 次2カメ!」みたいな。それこそ俺たちみんなが一番サッカーに熱狂している視点なんですよ!
ツジトモ おおー、そこに着目してくれたんですね。
小林 はい! ツジトモ先生は、僕たちがテレビで見て感じるサッカーの楽しさを漫画で再現した。それが革命なんです!
ツジトモ ふふっ、じゃあこっちもネタばらししちゃいましょうか。たとえばカウンターって見てて気持ちいいじゃないですか。パスカットで「あっ!」と虚を突かれて、攻守が一瞬で入れ替わる。ボールも一気に逆方向へ。その「虚を突かれる」っていう感覚を漫画で表現することにこだわったんです。それがテレビっぽいと感じられたのかな。
小林 こんな描き方があるんだとわかって、僕も迷いがなくなりました。
ツジトモ でもね、スポーツをこういう方法論で描くというのは、SLAM DUNKがやっていて、僕はSLAM DUNKを読んでこれなら描けると思っていたんです。
小林 SLAM DUNKですか?
ツジトモ 僕が発明したとは全然思ってないですよ。
小林 そうでしたか。やっぱり先人から学ぶものなんですね。
ツジトモ そういうもんですよ。でも、そこに着目していただけて嬉しいです。
小林 ただ「エンターテインメントとしてのカメラでサッカーを捉えた」手法は、僕はGIANT KILLINGで極まった。本当に大きな経験でした。そのことをようやくご本人に伝えることができました。

■キャラの成長と「格」 そして作者の葛藤

ツジトモ アオアシの登場人物って、みんな大人ですよね。
小林 高校生にしては大人っぽいですね。でも、自分は漫画家になれなかったら人生終わりだぐらいに思っていたので、アシトたちもそうあるべきだろうと思ってます。
ツジトモ 大友くんが実はすごい選手なんじゃないかっていうのは最初からイメージしてたんですか? Aチームで試合に出るシーン、グッときましたよ。
小林 そうですね。ユースの話なので、最強のライバルは自チームの中にいるというのがそもそもの設定なんですよ。
ツジトモ これって結構すごいことだと思うよ、登場人物の格が落ちないっていうのは。成長していくと、どこか人を下に見ちゃうこともありえるじゃないですか。でもアオアシにはそれがない。僕の漫画ではありますね。セリフに出さないにしても、ある選手が「もう椿に完全に抜かれた」と内心思っているとか。
小林 あー、その抜かれたほうの選手を拾ってあげたいとか?
ツジトモ そっちのほうが感情移入できるかな。才能ってものを誰もが考えざるをえないじゃないですか。漫画家だってそう。上を見たらとんでもないのがいるわけですから。
小林 化け物ばっかり。
ツジトモ そうそうそう。その人たちと戦う手段は、僕の場合は考えること。考えて考えて、ネーム描いてから読み返してみると、なんてつまんねーんだと思う。それで悩んで何度も描き直して。そういうことを今も繰り返してるんですよ。
小林 それ毎週ですか?
ツジトモ 毎週。
小林 うわっ。僕はさっき、「GIANT KILLING を読んでこれなら迷いなく描けると思った」という話をしましたが、2巻のあたりを描いている途中で、「このままじゃダメだ」って思ったんですよ。どういうことかというと、僕は全部理屈でやってたんです。こうしたら読者はこう反応するとか、ここに選手を置いたらリアリティーを見せられるとか。でも、そのやり方では限界を感じました。自分にしか描けないものを描かなくちゃ、この先やっていけないと。そう思えたのもGIANT KILLINGのおかげなんです。ツジトモ先生は内面から出てくるものを叩きつけている。だからすごくストレートに読者に伝わるんだって。
ツジトモ それでどうしたんですか?
小林 やっぱり僕が一番描きたいものは人間のドラマ。それはスポーツでもコメディーでもなんでもいいのかもしれないけど、自分にしか描けない人間を描き出さなければ、漫画家としてやっていけないと思い直したんです。
ツジトモ その気持ちはわかります。答えがないというか、真似しようと思ってもできないというか。結局、自分の内面から出てくるものを描かなければ面白くできないんですよね。
小林 ええ。でも、ツジトモ先生でさえ、熱量のままバーッと描けてしまうわけではないんですね。
ツジトモ 描けたこともあるけど、超少ない。僕という漫画家は、深く落ち込むぐらい考えて、ようやくものになるレベルなんです。

■恐怖心と分岐点

ツジトモ 途中でアシトはフォワードからサイドバックに転向しますよね。主人公なのに、ゴールから遠ざかるじゃないですか。その設定で描き続けることに対して、恐怖心ってなかったですか?
小林 そういう恐怖心はなかったです。ただ、もっと前の2巻、セレクションのシーンで、最初はアシトがシュートを外すっていう話を描くつもりだったんです。でも担当編集から「絶対、アシトが決める話に描き直してください」って言われて、僕の表現したいことと違うと思いました。そっからもう大ゲンカですよ。
ツジトモ おおー、いい関係ですね!
小林 僕は絶対譲れないって抵抗したんですけど、最終的には描き直したんです。そしたらその回からアンケートの人気が跳ね上がりました。
ツジトモ 面白い! 両方の気持ちがわかります。外すシーンを描きたいという気持ちも、主人公が決めたほうがいいっていう気持ちも。
小林 最初は人気を取らなきゃいけないですから、やっぱりあれは決めて正しかったんだと、今では思います。
ツジトモ 僕はETUの初勝利が5巻なんですよ。5巻まで主人公が勝てない。そこまでの間ずっと綱渡りな気持ちというか、もうこれいつ打ち切りって言われるかわかんねえやって。
小林 その5巻に至るまで人気は安定してなかったんですか?
ツジトモ アンケート自体はまあ最初からそんなには悪くなかったみたいです。そんな中で村越に焦点を当てて、キャプテンを剥奪して、そのあと椿やジーノというキャラを出して話をちょっとずらしたんです。すると、本題を村越の件に戻す時にかなり悩んでしまい、眠れなくなりました。
小林 読者が忘れてしまったかもという不安ですか?
ツジトモ そうですね、自信がなかったけど、読者が覚えてくれていた。こういう作り方をしても大丈夫なんだという方法論が自分の中にできました。

▲エスペリオン・ユースのセレクションで、アシトはチーム唯一の得点を叩き出す。(『アオアシ』2巻より)

■あのキャラのことを知りたい!

小林 じゃあ、達海が弱音を吐くシーンを描いた時に、ためらいはありませんでしたか? 30巻で達海が「ワールドカップにだって出てみたかった」って言いますよね。
ツジトモ 達海に関しては全然ないですね。あのシーンもスラスラ描いたように記憶してます。
小林 達海と並んで現実を超越した感のある持田の場合はどうですか? 12巻で「もし今日誰かの足がブッ壊れたら、この試合がそいつのラストゲームだ」ってセリフありますよね。これ、プロとしてその通りだなと思うんですよ。
ツジトモ 持田も描くのが超楽チンなんですよ。だって持田自身が自分はこうだって決めちゃってるから。サッカーに命をかけている以上、一番じゃなきゃ意味がないって考えている人物です。その張り詰めた糸が切れたら、生きてる意味がなくなっちゃうと思ってるんじゃないかな。
小林 ツジトモ先生は、アオアシで好きなキャラクターっていますか?
ツジトモ やっぱり一番はアシト。最初の頃のエピソードでヤバい目をしてるみたいなことを言われますが、実体験的なところがあるんですか?
小林 すごい人って共通して目がヤバいじゃないですか。それが僕は素敵だと思っていて。だから僕は人物の目に相当力を入れて描くんですけど、その象徴的なシーンだったかなと思います。
ツジトモ 福田監督を描く時はどんな感じなんですか?
小林 福田監督も達海のように絶対的な神の目を持つ人物に描きたかったんですけど、やっぱり僕が描くと迷いとか悩みとかがどんどん出てきちゃうんですよね。
ツジトモ え、福田監督はブレてないでしょ。
小林 いや、たまに言い訳くさいですよ(笑)。どうとでも取れるようなこと言うし。

▲ETUのライバルクラブ・東京Vのエース持田は、現実を超越した存在感を放つ。(『GIANT KILLING』12巻より) GIANT KILLING/講談社

■次は対面で!

ツジトモ 僕は、サッカーを真摯に描いている人はライバルじゃなくて同志だと思っているんです。野球漫画はいろんなものがあって進化してる感じがするけど、それに比べてサッカー漫画はまだ乏しい。そんな中で、アオアシは僕の励みです。アシトたちが頑張っているから僕も頑張れるところがあるので、小林さん、これからも僕のために頑張ってください(笑)。
小林 はい、頑張ります(笑)。今日はありがとうございました。欲を言えば直接対面でお会いしたかったなという気持ちもありますので、いつかお会いしてお話しできたら格別だなと思います。
ツジトモ ええ、いつでもご連絡ください!
小林 ツジトモ先生がお忙しくなければ、ぜひお願いします!
ツジトモ もちろん! 必ず会いましょうね。

文/江橋よしのり

※この対談は2020年10月に行われました。

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ISBN978-4-06-521147-2
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