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週刊スピリッツ

2024.04.22

第五回スピリッツ新人王開催記念 真造圭伍氏インタビュー 後編 

週刊スピリッツ

最前線で活躍する漫画家を審査委員長に迎え、半期に一度“最も面白い投稿作”を決定する「スピリッツ新人王」。第五回審査委員長は、「週刊ビッグコミックスピリッツ」に投稿後、大学3年時にデビューを果たし、現在は同誌で『ひらやすみ』を連載中の真造圭伍(しんぞう・けいご)氏。 

後編となる本項では、連載企画の立て方や1話ごとの組み立て方といった実践的なノウハウから、創作活動のモチベーションを保ち続けるための考え方に迫ります。

(インタビュー=ちゃんめい)

 

 

Q.連載の企画はどのようにして考えていくのでしょうか。

 

 担当編集さんに「こういう作品を描きたい」という相談はしますが、一つ一つエピソードを出し合うとか、アイデアの壁打ちみたいなことはしていません。僕の場合は、ある日突然これまでのピースがカチッと噛み合って、連載企画が生まれることが多いです。

 例えば、『ひらやすみ』は当初、売れない俳優の日常を描こうとしていました。あと、舞台を釣り堀にしようと思っていた時期もあって、実際に取材へ行ったこともありましたね。結局、当初の想定からは違う物語になりましたが、俳優、釣り堀など過去に取材したり、調べたものが組み合わさって『ひらやすみ』が生まれました。

 

Q.ヒロトは元俳優でアルバイト先が釣り堀なので、これまでのピースが現在の設定に活きていますね。いかにピースを拾えるかが重要だと思うのですが、そのために普段から意識していることを教えてください。

 連載のヒントになりそうなものは積極的に調べるようにしています。自分の中で描きたいもののイメージはあっても、それが一発で生まれることはほぼないので。

 思い返すと、僕が新人の時は投稿作一発目で大賞を獲って、すぐにデビューするみたいな“天才憧れ”があったんですよね。でも、自分はそうじゃなくて凡人なんだと気づいてから、ようやく本当のスタートが切れたように思います。だから、今、漫画家を目指している新人さんには、一発で上手くいくことはほぼないから、諦めずに何回でもやるしかないと伝えたいです。

 

Q.新人作家さんのなかには、連載ネームが通らず苦労されている方も多いかと思いますが、リテイクの回数によってはボツにするなど基準はありますか?

 全然上手くいかない時はあえて逆にしてみます。例えば『ぼくらのフンカ祭』は、初期の構想では、科学技術の進歩によって噴火が予知できるようになったから、町から逃げよう! みたいな災害パニックものでした。でも、最終的には、噴火したことで逆に町が潤ってしまったという話になりましたし……。割と、逆転の発想によって上手くいくことが多いかもしれません。これは新人さんもすぐに実践できるテクニックかなと。

 一方で、一つの作品で粘りすぎてしまうのも良くないのかなと思います。これは、個人的なジンクスですが、漫画関係者以外の友人や家族に「これどう思う?」って意見を求めたり、少しでも「通らないんじゃないかな」と本能的に感じたものは絶対上手くいかないんですよね。おそらく「このままだと楽しく描けないかも」と、自分でも薄々気づいてしまっているからだと思うんです。

 作品を生み出すのって本当に大変だから、どうしてもその1作品で連載を通したい、粘りたいって気持ちもよくわかります。でも、その経験がこの先で全く活きないということはない。だから、ダメだったら短編でやろうくらいの気持ちで臨機応変にやっていくしかないのかなと思います。

 

Q.ダメだったら短編でやろうと仰っていましたが、真造先生にとって短編はどのような存在なのでしょうか?

 次回作のために絵柄を実験する場でしょうか。漫画を描いていると、もっとこういうふうに描けたら面白いだろうなとか、色々出てくるんです。それを短編で試して、連載に向けてブラッシュアップしていくような感覚でやっています。

 例えば、『台風の日: 真造圭伍短編集』に収録されている短編で、デビュー前後に描いた『なんきん』『FELLOWSHIP』『兄、らしく。』以外は、線がめちゃくちゃ単純化しているんですよね。これは、初連載の『森山中教習所』を描いていた時に、自分の絵柄に飽きてしまって、次は思い切りシンプルにしたいなと思ったからなんです。他にも、『センチメンタル無反応 真造圭伍短編集』に収録されている短編は白と黒の線が多めですが、これはトーンを使わないで描いてみようとか、色々と模索していたからですね。

 

Q.連載の企画の立て方や、短編での試みについてお伺いしてきましたが、ストーリーに関してはいかがでしょうか? 描く際に、ご自身の中で決められている組み立ての順番などはあるのでしょうか。

 『森山中教習所』『ぼくらのフンカ祭』など初期の作品は1巻で完結するので、最初にラストをイメージしてから描くようにしていました。例えば、『森山中教習所』だと轟木がブルドーザーで家屋に突っ込む、『ぼくらのフンカ祭』なら大きな看板に絵を描く……何か一つ目標となるシーンに向かって、話を組み立てていましたね。

 でも、最近はあまりラストを決めすぎないようにしています。現在連載中の『ひらやすみ』も一応ラストのイメージはありますが、決めすぎてしまうと固くなっちゃうのかな? と過去の経験から思うことがありまして。ヒロトたちが具体的にどうなるかはあまり考えすぎないようにしています。ですので、今はライブ感というか、その瞬間に出てくるものを大事にしながら描いています。

 

Q.1話ごとの組み立てについてはいかがでしょうか。特に『ひらやすみ』は、毎話必ず心に残るような景色と言いますか、魅せるシーンがあるように思います。

 『ひらやすみ』は毎話テーマを決めてから描くようにしています。例えば、1話は「ヒロトという人間とは何か」で2話は「ヒロトとなっちゃんの物語」とか。設定したテーマがちゃんと伝わるように描けたら勝ち。逆にテーマがないとふわっとした何もない物語になってしまうので、担当編集さんの打ち合わせではテーマについてしっかりと話し合いますね。

 シーンについては、割とパッと思い浮かぶことが多いです。2話のテーマが「ヒロトとなっちゃんの物語」に決まった時、ヒロトとなっちゃんが2人で歩いて帰るシーンは絶対入れたいと思ったんですよね。テーマのあとに、絶対描きたいシーンが浮かぶような感覚です。そしたら、そのシーンに辿り着くまでにどうするか? という感じで話を組み立てていきます。

 

 

Q.そのテーマが一番伝わるようなシーンを見開きにするなど、ページの使い方にこだわりはありますか?

 ページについては、最初の3ページでいかに掴むか? を毎回考えています。ただ景色が続くとか、長い説明をするのではなくて、漫才でいう“掴み”と同じですね。例えば、昨年の「M-1グランプリ」で優勝した「令和ロマン」は、初めに必ず松井ケムリさんの髭の話をしますが、あれが面白いからみなさんその後の漫才も聞こうって思うわけじゃないですか。それと同じで、最初の掴みはかなり大事だと思っています。

 特に『ひらやすみ』は、もともと1話をXにアップする予定だったので、一つの投稿に最大4枚まで画像が入れられることを鑑みて、最初の1〜4ページまでに絶対に掴みを入れようと思って描いていました。

 見開きに関しては、読者サービス的な部分もありますね。例えば、雨の中、ヒロトとなっちゃんが走って帰るシーンは当初は見開きじゃなかったんですよね。担当編集さんと打ち合わせをした時に「単行本1巻の終盤に収録される話だから、見開き入れたくないですか?」と言われて。別にこの見開きがなくても話は通じますが、今になると入れて良かったなと思います。

 

 

 こういう引きの景色、好きなんですよね。僕の頭の中には「あの景色良かったな」っていう、好きな景色がたくさんあって。それをリプレイするような感覚で描いているんだと思います。

 

Q.そういった景色の描写も含め、真造先生の確固たる作家性は、どのようにして築き上げられていったのでしょうか。

 難しい質問ですね。でも、自分の好きな作品を研究することで、自分の作家性が見えてくるように思います。例えば『ひらやすみ』を思いつく前、ドラマだと『結婚できない男』や『俺の話は長い』、映画は『横道世之介』がすごく好きだったんです。こうして好きな作品を並べてみると、わりと共通点があるじゃないですか? 突拍子がないけど、何か一つすごく良いものを持っている主人公がいて。日常を描いているけど、そのなかに心に残る風景があるみたいな……。好きな作品を研究することで、自分の描きたいものや、何か掴むものがあると思います。

 これは、他の漫画家さんを見ていてもそうなのかなと感じます。僕の妻の谷口菜津子さんは、マーベルや怪獣系の作品、料理番組、人と人が新しい価値観を築く話が好きでよく見ていますし……。自分の好きなものと作品は繋がっているような気がしますね。だから、新人さんは自分が好きなドラマや映画、漫画を客観的に研究すると良いのかなと。

 

Q.好きなものといえば、これまでの歩みを語っていただくなかで、真造先生が憧れている作家さんのお名前や、当時好きだった映画、ドラマのタイトルがたくさん登場しましたね。

 好きなものって一つだけじゃないですよね。僕は黒田硫黄さん、松本大洋さん、高野文子さん……みなさん大好きです。それぞれに良い部分があって、それを混ぜ合わせて自分のものにしていくことでオリジナルになると考えています。あと、個人的にはゼロからオリジナルは生まれないと思っているので、新人の頃は良いと感じたものをどんどん取り入れてみたら良いんじゃないのかな。

 

Q.長く漫画家として活動を続けていらっしゃいますが、創作のモチベーションを保つ方法も好きな作品に触れることなのでしょうか?

 創作のモチベーションは嫉妬です。自分には到底描けないと感じる、素晴らしい作品に触れるとやる気が出てきますね。最近だと、九井諒子さんの『九井諒子ラクガキ本 デイドリーム・アワー』を読んで「うわ、上手! 」って衝撃を受けましたし。他にも高松美咲さんの『スキップとローファー』や近藤聡乃さんの『A子さんの恋人』を読んで「俺もこういうの描きたい! 」と思ったり。そういう嫉妬心に火がつくような作品にたくさん出会いたいんですよね。

 正直、学生の頃と比べると今は「自分は自分」みたいな軸が出来上がってしまっているから、昔ほど感動することも、嫉妬する瞬間も減ってしまいました。だから、最近人の作品を読む機会が減っているんです。でも、自分の軸と嫉妬のバランスを保つことが大切だと思うので、やっぱり人の作品は積極的に読まなければと感じています。

 

Q.その他に、長く描き続けるための心構えはありますか? 必ずくるであろうスランプ期を乗り越えるための考え方などがありましたら教えてください。

 人の言うことは素直に聞いたほうが良いのかなと思います。例えば『ひらやすみ』で担当編集さんから「こうした方が良いんじゃないですか?」と言われた時、頑なに「いや、こういきたいんです」ではなく「良いかもしれないですね」って受け止めてみたり……。

 新人時代って、頑なな態度を取ってしまう人が多くて、それによってデビューを逃しているように感じます。自分にとっての「いや、これは曲げられないです」は、もしかしたら逃げているだけなのかもしれません。だから時には、臨機応変に対応した方が良いのかなと。もちろん無理に曲げろとは言いませんが、一つだけ絶対に曲げたくないものを決めて、そのほかは臨機応変に曲げていく感じでしょうか。

 

Q.ちなみに『ひらやすみ』で絶対に曲げられないものはなんだったのでしょうか?

 全部自分で描くことです。過去作で、アシスタントさんに背景を描いてもらったのですが、こだわりが強すぎてどうしても自分のイメージとは少し違うものになってしまって。なので、この作品だけはどうしても全部自分でやりたい! と言って曲げなかったですね。

 

Q.お話を伺っていると、曲げるものと曲げないものを見誤らないことが大事なような気がしますね。

 個人的には、絵は曲げない方が良いのかなと思いますが、どうなんだろう。人それぞれだから難しいですね。でも、なかなかデビューできなくて煮詰まっているのであれば、少し変えてみたり。あと、1回離れてみるのも良いと思います。僕も全く描かない時期とかありましたし。

 

 

Q.前編・後編に渡って、真造先生の作家人生を振り返りながら新人時代の心得や創作論についてお伺いしてきました。最後に、新人作家へ向けて一つだけアドバイスするとしたら、なんと伝えますか?

 とにかく描いて発表するしかないと思います。描かないと漫画家にはなれません。どんどん描いて、たくさん意見を聞いて、また描く。僕はそうしてきました。

 

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