2018.10.30
ビッグスペリオール

『賢者の学び舎 防衛医科大学校物語』第2集発売直前 スペシャル企画!!

大好評連載『賢者の学び舎』を執筆中の山本亜季氏が訪ねたのは、茨城県つくば市の筑波宇宙センター。
日本で最も宇宙に近い場所に、国際宇宙ステーション(ISS)から帰還したばかりの「防衛医科大学校OB」がいる!
伝説の人物の、〝賢者の学び舎̋ 時代に迫る貴重なトークを大公開!!

山本亜季(YAMAMOTO AKI)

東京都出身。2015年『HUMANITAS─ヒューマニタス─』でデビュー。2018年より『賢者の学び舎 防衛医科大学校物語』連載中。

違う方向を見ながら協力するということ。

山本 金井さんは、お医者さんでもあるし、宇宙飛行士でもある。二つの仕事に似ているところはありますか?
金井 いいお医者さんとは、患者さんとコミュニケーションが取れて、患者目線でいられる医者だと思うんです。患者さんと医者は、見ている方向が違うので、いかに近づけるか。これはまず、患者さんに病気のことをよくわかってもらう必要があります。
一方、医者は、ただただ公式を当てはめて治療するのではなくて、患者さんの社会環境や家庭環境をみて、個人個人の人間に応じて診療しなきゃいけないところがあります。
今、ご質問されて気づいたのですが、これは、宇宙飛行士と地上の管制官の関係も同じようなものなのです。宇宙から下を見るのと下から上を見るのとでは、違う方向を見ているんですね。協力してミッションをしなきゃいけないのに違う方向を見ているんですね。角度が一致することはない、けれど、お互いに角度を変えていくことで、歩み寄って、同じ方向を見ていくことができるんじゃないか。
角度を縮めていくことで、お互いのゴールが見やすくなるのは、医者も宇宙飛行士もとてもよく似ていると思います。
山本 なるほど! 金井さんは、防衛医大→病院での研修医期間→海上自衛隊勤務→宇宙飛行士、と、とても変わった経歴の持ち主です。今、私は防衛医大を舞台にした漫画を描いていますので、金井さんがどんな学生時代を送ったかということを今日はお聞きしたくって。
金井 漫画は読んでいます。心当たりのあるエピソードが色々とありまして(笑)。面白おかしくはあっても本質はしっかりと描かれていますね。

金井宣茂(KANAI NORISHIGE)

1976年 東京都生まれ。
2002年 防衛医科大学校医学科卒業(合気道部、弓道部)。防衛医科大学校病院、海上自衛隊第一術科学校などで、外科医師、潜水医官として、勤務。
2009年 JAXAより、ISSに搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者として選抜。
2011年 基礎訓練を修了し、ISS搭乗宇宙飛行士として認定される。
2015年 第五十四次/第五十五次ISS長期滞在クルーのフライトエンジニアに任命。
2017年 12月〜6月 ISSに滞在。


山本 ありがとうございます。
金井 私は、両親がともに薬剤師だったため、人助けになる仕事はやりがいがあると思ったことと化学や生物が得意科目だったので、医師を目指そうと思ったんです。それで、高校生の時に防衛医大を選んだ理由は、医師としての将来を考えたときに、「国境なき医師団」など、外に出て行く仕事をしたかったんです。当時、自衛隊がカンボジアのPKOに初めて参加する時期で、武器を持った隊員ではなく、医師や看護師が行く話を耳にしまして。それで自分の世界が広がる医師の道をイメージして志望しました。

防衛医大の先生は獅子ファンが多い!?

山本 在学中はどんな学生でしたか?
金井 出来が悪くてよく怒られていました。ある先生に「お前は絶対に医者にはさせられん」と言われたことも(笑)。
山本 そうなんですか!
金井 西武ライオンズファンの教授がいて、優勝した年は点が甘かったことがありましたね(遠い目)。
山本 場所が所沢だけに西武ファンが多いんですね!? 漫画にも描きましたが、アイロンもちゃんとかけられました?
金井 アイロンは得意でした。自衛隊のことを知りたくてきたので、もっと現場のことを知りたいと思っていました。だから、授業はあまり好きではなくて(笑)。現場経験がある方の話を聞くことが楽しみでした。
学校には隊の現場を知っている指導官や助教の方がいます。普通の大学を出てお医者さんになった人が知らないようなことを体験している方々です。彼らには、机上の論よりも現場思考が根付いています。例えば、現場勤務のたたき上げの看護長。たった一人で艦の航海を担当するんですが、「学校ではこうだけど現場ではこうだ」と教えてもらうのが好きでした。私は、「より外へ。より現場へ」と、常に気持ちが向いていたのかもしれません。
山本 卒業後は、研修医生活を経て、大学病院で医者のお仕事に。
金井 私は外科でしたから、深夜に次々に救急車が来るような、いわゆる戦場のような体験をしました。なるほど、これが医者の世界なのかと。そのあと、部隊配属になりますが、そこでの仕事より、病院の仕事の方が緊急事態は多かったです。
部隊では、潜水医として、ダイバーたちを見送り、迎える仕事をしました。彼らを見ているうちに、自分が行く側をやりたくなって、宇宙飛行士を目指すようになるのですけれども。

「要領」と「適性」を見極める学生時代──

山本 一般の医大ではなく、防衛医大に行ったことで、のちの人生に役立ったことはなんですか?
金井 要領が良くないといけないことを覚えました。自衛隊の教育を受けていると特にそうですが、グループの中でもどうしても差が出てしまいます。他の人が終わっているのに自分はまだだとか。プレスチェック(アイロンがけ)の合格がもらえていないだとか。要領が良いのは社会に出ても重要で、外科手術だとモタモタしていると患者さんの容体に関わります。ステップバイステップで積み重ねて上達する人は、外科や救急の現場では厳しい面がある。そういう意味では、学生時代に適性がわかったということはあります。「自分のスタイルはこうだから、将来はこっちへ行こう」ということです。
山本 大学時代は、処理能力を高める場所ではなく、自分の適性を知る場所だったんですね。
金井 そうですね。いやいやながらもやらされているとだんだん上手になりますが、だからと言って、ほかに抜群の適性がある子がいるのだったら、伍しては勝負できないです。防衛医大に限らず、自衛隊の教育全般がそうですけれども、わざと理不尽なことをしたり、時間がない中でわざとストレスを与えたりといったことをします。ストレス耐性を確かめるんですが、要領よくごまかしながらやるだとか、納得いくまで動けずに教官と対立しないと進めないだとか、良し悪しではなく、タイプを見極めることに時間をかけていますね。自分がやられている最中は、理不尽だなあと泣きましたが(笑)。
山本 ははははは。
金井 あ、とても役立った点がありました。防衛医大生は自衛官なので、在学中も卒業後も集団生活をする機会があります。一つの部屋に二段ベッドが10個も並んでいる中で何か月も生活したり。それに比べたら、国際宇宙ステーションは立派なカプセルホテル。カーテンが締められるし、非常に快適だなあと思いました(笑)。学生時代からそういうものだと刷り込みがされていますので、平気だったのかな。

あれが逆さま!? 同期からのメッセージ

山本 実は金井先生の大学の同期のAさんから、メッセージを預かっているんです。
金井 えええ!?
山本 ここで読みたいと思います。
『金井くんは、学生時代から穏やかだけれど、人と違うことを考えているような不思議な雰囲気の持ち主でした。宇宙飛行士の試験を受けると聞いた時には、まさかそんなことを考えているとはと驚いたけれど、金井くんなら宇宙に行くかもな、と思いました。
金井くんは学生時代ももちろん優秀な方でしたが、私たちの時代は助教の方にレンジャー出身の厳しい方がいて、金井くんは背が高くて目立つため、訓練中に注意されがちでした。同期は助かっていたと思います(笑)。宇宙飛行士となってからも、貴重な休みを使って産休中の同期のお祝いに駆けつけたり…そんな優しさのある方です。
そういえば、幹部候補生学校時代、慌てて朝礼に出てきたときに肩の階級章を逆さまにつけていたのを思い出します。宇宙では大丈夫でしたか?(笑)』

金井さんも活動したISSの日本実験棟「きぼう」。

金井 うーむ・・・自分が過去をいかに美化していたか、バレました(笑)。
山本 そんなことないですよ。魅力的な一面を伺えました。では最後に、金井さんの今後の夢を教えてください。
金井 一般の人にとって、いかに宇宙が近くなるか、そこが勝負だと思っています。誰しもが宇宙旅行できる社会の実現を目指したいですね。宇宙は割と平気です。私も心配して行きましたけれど、ご飯は美味しいし、寝るのは快適。微小重力下のため、顔がふっくらしますのでシワが伸びて若返りますしね。いいことづくめ(笑)。Wi-Fi環境は…写真付きツイートをひとつ送るのに5分くらいかかるかな(笑)。『賢者の学び舎』の続きも楽しみにしています。お互い頑張りましょう。
山本 ありがとうございます!

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