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ビッグスペリオール

2014.11.13

【動画】3DCG×漫画家の技!『機動戦士ガンダムサンダーボルト』の作画システムとは?/太田垣康男インタビュー(後編)

ビッグスペリオール
「ビッグコミックスペリオール」18号から新章がスタートし、これまでの隔号から毎号連載へとパワーアップした『機動戦士ガンダム サンダーボルト』。




過酷な戦闘が繰り広げられたサンダーボルト宙域から、一年戦争後の大気圏下に舞台を移してスタートした「新章」。これまでの展開で、連邦、ジオン、そして謎の集団「南洋同盟」の各陣営が出揃って、10月25日(金)発売の「スペリオール」22号掲載の巻中カラーからはいよいよ物語が本格始動――!!




コミスンでは『機動戦士サンダーボルト』の新展開にあたり、毎号連載に備えて大幅にパワーアップされた太田垣康男先生の仕事場「スタジオ・トア」に潜入取材を敢行!
インタビュー前編の3DCG導入の話に引き続き、後編ではCELSYS社の漫画制作ツールComicStudioでのデジタル作画について伺いました。太田垣ファンには気になるあの作品のことも――?




君はまだ、本当のサンダーボルトを知らない......!







デジタルでもリアルな漫画の絵に仕上げることが腕の見せ所






――『機動戦士ガンダムサンダーボルト』からはComicStudioを導入されて、デジタル作画になっていますが、作業感覚の違いが絵柄などには影響しませんでしたか。






確かに影響はありましたね。連載中に絵柄が変わってしまうのが一番よくないので、今回は『サンダーボルト』を新しく始めるタイミングで、絵柄が変わってもそのほうがいい、という状況だったのであえて導入したところはあります。最初のうちはComicStudioのトーンとかグレーが上手く使えなくて、『MOONLIGHT MILE』の時に比べるとスクリーントーンの数が減ってしまったんですが、それがかえってよかったかなと。





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――具体的な作業工程としては、どこからComicStudioを使われているんですか。






ネームは完全にアナログで、コピー用紙に鉛筆で描いています。ネームが完成したらスキャンしてComicStudioに貼り付けて、それを下描きにしてペン入れをしていきます。背景の素材や、メカでもアナログで描いたほうが早いパーツなどは、アナログで描いたものを取り込んで、素材を貼り付けて絵を作っていきます。カラー原稿を描いたり、写真を加工する場合はAdobe Photoshopも使いますが、漫画の制作にはComicStudioが扱いやすいので、そちらがメインになっています。




――3DCGをComicStudioに読み込んだときにはどのような感じで表示されるんですか?






ComicStudioの3Dワークスペースにモデルを読み込んで、好きな画角にします。ここでパースをつけたり、影もある程度は制御できます。ただ、レンダリングでできる影はちょっとガタガタで正確なものではないので、あくまでガイドとして使って、最終的には手でトーンを貼っています。
画角が決まったら、3DLTレンダリングで線幅と検出精度を決めてレンダリングすると輪郭線ができます。この状態では、余分な線も出ていますし、ポリゴンの割れや歪みも出ているので、スタッフに手描きで修正してもらって、パーティングラインやメカのディティール、陰影などを含めてここから描き足していきます。ここまでは機械でできるんですけれど、これをリアルな漫画の絵に仕上げられるかどうかが、漫画家のスタジオの技の見せ所ですね。




――レンダリングの段階で、影の濃さにあわせたトーン処理がされるんですね。実際の原稿ではこのトーンはアタリとして使われるんですね。






光源によっては、パーツの下に落ちる影ができたりするはずなんですけれど、そこまでは計算してくれないんですよ。3DCGツールのレンダリング機能で制御すれば表現できるでしょうけど、さすがにComicStudioにはそこまでの機能はないので。




――光源や影の処理でも、宇宙らしい表現となるとまた普通のライティングとは違ってきますよね。






違いますね。Lightwave3Dだと、こっちにレフ版を置いて、こっち側に噴射の光がほしいとか、そういう反射光みたいなのは難しいんですけれど、漫画の原稿は白黒ですからね、そこまでは必要ないです。




――演出的なものは手作業でガンガン入れていく、と。






そのほうが速いですし、やりだすとキリがないので。最終的に漫画の画面は白黒でしか表現できないから、そのへんを頑張っても最終的にカラーの絵には負けちゃうんですよね。やっぱり漫画独自の画面の作り方をしないと、アニメーションや映画の画面には対抗できないので、3DCGを使うからといって、アニメーションや映画と同じことをやろうという意識はまったくありません。












デジタルとアナログを融合させるスタジオワーク






――ComicStudioでは、紙の様に1枚の原稿をコマ毎に切り分けてスタッフが並行作業するようなことはできませんよね。原稿ファイルはスタジオのサーバー上で共有されているんですか?






サーバーは単純にファイルの保管庫みたいな感覚です。うちは、ComicStudioでもコマ毎にファイルを管理しているので、ひとコマずつ渡して最後に組み立てる感じで作業できますね。





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――実際に原稿を拝見しても、デジタルとアナログの境目はわかりません。






この原稿はムサイの3Dモデルを使って、そこに線を描き足しています。どれがレンダリングした線で、どれが描き足した線かわかりませんよね。あえて雑な線を入れているんです。もっと綺麗に線をなじませることもできるし、綺麗な抜き線で描くこともできますけれど、それをしてしまうと「手描き感」が薄れてしまうので、『サンダーボルト』からはわざと雑な線を入れるようにしています。




――確かに、デジタルで補正のかかった線には特徴が無くなりがちという話は耳にします。雑な線というのは、ブラシをわざとブレる設定にしたりするんですか?






補正を切って、全部自分のペンタッチでつけています。長年、Gペンや筆ペンを使ってきた漫画家の手のほうが、機械でつけるタッチよりよほど自由度が高いので、そこは自分の手で制御しています。




――つけペンとペンタブレットでは、感覚が違ったりしませんか。






ペンと紙だと下を向いて描くじゃないですか。僕は板のタブレットを使って描いているので、手元は下、目線はモニターというのに最初は戸惑ったんですけれど、いまはこっちのほうがいいんです。自分の手で絵が隠れることがないので、全体を見ながら作業ができるというのが、意外とよかったんですよね。あと、姿勢がよくなったので肩こりがなくなりました(笑)原稿にぎゅっと眼を近づけなくなったので、視力も回復したんです。一時期は眼鏡をかけないとぼやけてダメだったんですけれど、PCで描くようになってかえって体の負担は減りましたね。




――コマの中で、手描きの絵と3Dのモデルを組み合わせるときは、どちらを先に描かれるんですか?






3Dのモデルを先に置くほうが多いですね。CGのほうがパース感が正確なので、それをガイドにしたほうが描きやすいかなと。




――ネームにあわせてレイアウトを取って、3Dモデルを配置して、そのパースを拾って周りを作画していくという形ですね。






そうですね。私のネームは、割と精密な下描きに近いものなので、レイアウトは取りやすいと思います。











――機体のマーキングなどは、素材として作ってあるものをコミスタ上でパースを合わせて張り込んでいくんですか?






マーキングの素材はスタッフに作ってもらって、パースに合わせて貼り込むのが意外と難しいので、貼る作業は自分でやっています。第33話の見開きのスパルタン(ペガサス級強襲揚陸艦)はパーティングライン以外は、ほぼデジタル処理で描いているんですけれど、変形シーンなどは全部アナログで描いています。
取り込んでからComicStudio上でグレーや処理線を入れているんですけれど、3DCGをレンダリングした絵だと、まっすぐなラインにしかならないんですけれど、巨大感を出すために、ちょっと揺らぎが欲しくて。そういうのは機械ではできないので、手描きでやっていますね。ただ、そういうのも下描きをするときにデッサンをとらなくて済むというのが3DCGを使うメリットですね。




――表現したい内容と、効率に合わせて手描きと3DCGを使い分けているんですね。






些細なことなんですけれど、こういうところのパーツなんかも、1個だけ3Dモデルを作って、レンダリングしています。円のデッサンをとるのもめんどくさいんですよ。それを機械がやってくれて、あとは処理線を入れるだけにしておくとひと手間省けるので。これを手描きでやるのと3DCGの技術を駆使してやるのと、どちらが早いかで常に判断しています。30分から1時間早いとなれば、そちらを選んでいます。




――メカや戦艦よりも、背景に近いもの、たとえば格納庫などは3DCGでセットを組んだりされているんですか?






そういうものもあります。ブリッジの中とか、パーツ毎に細かく分けて作ってあるんですけれど、漫画の中で背景全部が描かれることって少なくて、ここにキャラクターが乗って、その後ろに背景があってというような時がほとんどなんです。3DCGのレンダリングはやはりPCの処理を食うので、無駄なところは省いて、あとで床のほうが欲しいなとおもったら、そこだけまたレンダリングして使ったりしています。











――モビルスーツは完全に手で作画されているんですよね。






モビルスーツは、顔の修正だけ私がやって、体はスタッフが描いています。今回はレベルの高いスタッフが集まってくれているので、なんとか『サンダーボルト』に対応できるかなと期待しています。(スタッフに向けて)みんな、頭抱えるんじゃないよ!(笑)





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連邦軍のミデア輸送機のモデリング用デザインを作成するスタッフ


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機体マーキングはスタッフがデザイン、作画したものをデータ化して原稿に貼り込む


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擬音などよく使われる描き文字もデータ化して素材としてストックされている
(データは原稿に貼り込んだ際に絵と混じらない様に手作業で縁取りしてある)







――「新章」からは隔週連載で、展開が待ち遠しかった読者としても楽しみです。






なにせ隔週連載になってしまってさらにスピードアップしないといけないので、うまくできるかどうか不安ですけど、自分の修行時代から学んできたアナログの技術と、最近覚えたデジタルの技術をフル動員して描いています。たまに頭が茹っちゃいますけれど、今のところはなんとかやっていますね。





◆  ◆  ◆







最後に、太田垣康男先生から『機動戦士ガンダムサンダーボルト』新章にあたって、コミスン読者の皆さんにむけたメッセージ動画をご覧ください。












『機動戦士ガンダムサンダーボルト』は、「ビックコミックスペリオール」(第2・第4金曜日発売)で毎号連載中!!





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新章が収録された単行本最新巻(第4集)は11月28日(金)ごろ発売予定!!








◆このインタビューの前編はこちら
 【動画】3DCG×漫画家の技!『機動戦士ガンダムサンダーボルト』の作画システムとは?
 太田垣康男インタビュー(前編)



◆『サンダーボルト』執筆の経緯などを伺ったインタビュー(2014年1月掲載)はこちら
 新春企画『機動戦士ガンダム サンダーボルト』太田垣康男先生インタビュー(1/3)






(コミスン編集チーム 平岩真輔)

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機動戦士ガンダム サンダーボルト 1 太田垣康男/矢立肇/富野由悠季
機動戦士ガンダム サンダーボルト 2 太田垣康男/矢立肇/富野由悠季
機動戦士ガンダム サンダーボルト 3 太田垣康男/矢立肇/富野由悠季
MOONLIGHT MILE 新装版 1 太田垣康男

関連リンク
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』特設ページ
スペリオール公式


【初出:コミスン 2014.11.13】

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