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ビッグスペリオール

2026.01.29

第2回 スペリオール 新人作家 大賞 審査後インタビュー 稲垣理一郎氏

ビッグスペリオール

――まずは、今回の投稿作品全体についての印象をお聞かせください。

僕は『M-1グランプリ』で、遠慮して高得点の狭い範囲で採点するみたいなひよった空気を見ると「いや、それダサくない?」って思っちゃうタイプなんですよ(笑)。だから今回の審査でも、低い点から高い点までしっかり振れ幅をつけるつもりで臨んだんです。でも実際は、どの作品にも低い点をつけられなかった。ひと言でいうと、全体のレベルが本当に高かったんです。
もちろん、粗を探そうと思えばどんな作品にも指摘できる部分はある。でも、大事なのは欠点を探すことではなく、「どこがすごいのか」「どんな武器があるのか」を見つけること。それが審査の意味だと思って改めて向き合ったとき、今回の10作品全てに光るものがありました。つまり、評価すべき点がないと感じた作品は一つもなかった。みんな必ず強みを持っていて、原石としてワンチャンあると感じましたね。

 

――第2回新人作家大賞の募集時インタビューで、色々な評価軸で見るけれど「基本的にはキャラで見ます」と仰っていたのが印象的でした。

それ、僕よく言うんですけど、正直、最初からキャラクターを描ける人なんてほとんどいません。もし本当に最初から描けている人がいたら、その人はとっくにデビューしているはずです。つまり、新人作家さんがキャラクターを描けないのは当然なんですよ。
だから、審査の際に「キャラが描けていないからダメ」と切り捨ててしまうと、ほぼ全員が落選してしまうことになる。なので、まずはキャラが完璧じゃなくて当たり前という前提に立つことが大事なんです。そのうえで、今回はそれ以外にどんな良いところがあるのかに注目しました。ただ、そんな中でもキャラを立てようとしている姿勢が感じられる人、あるいは未完成でもキャラとしての片鱗がにじむ人は、やっぱり目を引きますし、好感度が高かったです。

 

――今回、最高得点をつけられていた『いきものきらい』(丈夫大)は、キャラを立てようとしている姿勢がひと際強かったということでしょうか?


そうですね。キャラで勝負しようという理屈が、作品全体にしっかりと通っていたのはこの作品でした。まず、絵と演出がすごくうまい。絵もキャラクターです。主人公の女の子も可愛いですし、絵の取捨選択もいいし、演出にもきちんと狙いがある。
一方で、この作品の一番の弱点は、全体的にストーリーが分かりにくいこと。もちろん、あえて読者を突き放す描き方はカッコいいし、説明しすぎると作品の魅力が薄れることもある。でも、すべてを謎めいたまま読者に委ねてしまうと、何も伝わりきらないまま終わってしまう可能性があるんですよね。なので、自分が思っている3倍説明してようやく伝わる……という意識は持っておいたほうがいいと思います。

 

 

――具体的には、どのようにしたら良いでしょうか?

この点に関しては、編集者と壁打ちしながら調整していくしかありません。それができるのが商業誌の良さでもあって、ひとりよがりにならないための仕組みでもある。そういう意味でも、この作品は伸びしろ含め期待できる作品だと思いました。

 

――次に高評価されていた『ケルベロスクラブ』(師子角青石)はいかがですか?

絵もすごく上手いですし、「びっくりする絵を入れてやろう!」みたいな、キャラクター描写への気概もすごく感じました。ただ、その一方で、読者がどの視点に入って読めばいいのかがまだ整理されていない印象です。せっかく魅力的なキャラをたくさん配置しているのに勿体無いと感じました。でも、これは技術を知っているかどうかの話なので、慣れで改善できる部分。ここが掴めれば一気に読みやすくなると思います。

 

 

――先ほど、「最初からキャラクターを描ける人なんてほとんどいません」と仰っていましたが、稲垣先生ご自身はどのようにして描けるようになったのでしょうか?

まず第一段階として、「キャラを立てる」ことができなければいけないんです。そこに気づけるかどうかも含めて。ここが本当に難しい障壁で、逆にこれを越えられたらデビューは一気に現実味を帯びてくる。でも、再現性のある理論で説明できることでもなく、非常に難しいのですが……。そのうえで、あくまで僕が新人時代に理解した方法をお話しします。
当時、カフェを舞台にした漫画を考えていました。そこに「イケメン」「ワイルド」「酔っ払い」という3人のキャラクターが登場する設定だったんです。例えば、まずイケメンが店に入ってくると、店内の女性たちが一斉にザワザワして「え、誰あの人!?」と色めき立つ。次に、奥の席ではワイルドな男が足をテーブルに投げ出し、タバコを山積みにしてふんぞり返っている。最後に、酔っ払いの男はカフェなのにベロベロで、奥で潰れて寝ている……。当時の僕は「これはキャラ立ってる!」と思ったんですよ。

 

――どんなタイプのキャラクターなのかは伝わりますね。

なんですが、当時すでにデビューしていた作家の友人に見せたら「それじゃ全然足りない」と一刀両断されました。友人の案では、まずイケメンは顔を映さないまま街を歩く。背後からカメラが追うと、すれ違うOLたちがバタバタと見惚れて倒れていき、まるでモーゼが海を割るみたいに道ができる。次に、ワイルドな男がガラス窓を突き破り、バイクのままカフェに入ってくる。そして、酔っ払いの男は店の中ではなく、外のゴミ箱に突き刺さっている。
それを聞いた瞬間、「俺、覚悟が足らなすぎる!」って衝撃を受けたんですよ。「キャラを立てる」というのは、個性をちょっと見せていくことではなく、キャラクターがどういうやつなのか見せるところから出発してシナリオを作っていくことなのだと。初めてその覚悟というか、見せる規模。シナリオ全体に対しての「キャラの扱い方の規模」を理解しました。

 

――振り切ることがどれだけ大事か痛感されたんですね。

友人が示した案は、言うなれば規模が100だった。もう、キャラを見せることが全てというレベルだったんですよ。一方で僕は、全体の流れの中でキャラをチラ見せしていただけにすぎなかった。その差を突きつけられてからキャラの描き方が変わりました。

 

――新人作家さんが「キャラの立て方」を身に付けるための方法はありますか?

僕もよくやるのですが、作品分析がおすすめです。特に新人作家さんなら、最初はまず自分が面白いと思った作品で、なおかつ世の中でも面白いと評価されているもの。つまり、自分と読者の感覚が一致している作品を例として持ってくるのがいい。
そのうえで、「この作品のどこを面白いと感じたんだろう?」と自問自答するんです。例えば、キャラがどう動いたときに面白いと感じたのか。特に印象に残ったエピソードでは、どういったキャラの出し方をしていたのか。どんな心情表現があったから面白く感じたのか……。そうやって、ひとつひとつ仮説を立てて拾っていくんです。

 

――あくまでもキャラクターに焦点をあてて研究していくんですね。

ただ、これも「キャラ立て」が微塵もわからない状態だと、分析自体ができないんですよね……。本当に難しいんです。でも、一つだけ明らかなのは、基本的にアクションとリアクションで構成されているということ。そのキャラが何をするのか(アクション)と、何かの出来事に対してどう反応するのか(リアクション)。この二つでどれだけ物語を動かせていけるのか、そして端役キャラと差をつけられるか、それが重要なんです。

 

――投稿作の読み切りは連載と違い1話完結で読者を掴む必要があります。この難しさをどう乗り越えるべきでしょうか?

読み切りと連載は、やっぱり全然違います。読み切りは、正直キャラを出している暇がないんですよ。キャラをしっかり描こうとすると、それだけで読み切り一本終わってしまう。また、キャラよりも大きなどんでん返しや意外性のある仕掛け、ワンアイデアで綺麗にまとまっている作品が評価されやすい傾向にあると感じます。 でも、それって連載になった途端あまり意味をなさなくなると思うんです。短編としてまとめる腕はあるけれど「じゃあそれが毎週続くのか?」と聞かれると難しい……。連載はやっぱりキャラクターの魅力で引っ張らなきゃいけないんです。 だから僕としては、賞に出すのであれば将来性を見せることが大事だと思っています。1話としてめちゃくちゃ面白い作品よりも、「こいつ連載になったら化けるな」と思わせる作品。これは僕が審査員だからなのではなく、どこの賞でも最終的にはそこが見られると思います。だって、最終目的は「作品を連載してヒットさせる」ことですから!

 

――最後に、もし稲垣先生が今の時代に新人として商業誌に挑むとしたら、どんな方法で勝負すると思いますか?

僕は、SNSで発信するよりもまず漫画賞に出すと思います。理由はシンプルで、賞金がもらえるから(笑)。賞金がもらえるというのは、自分の作品に価値があると証明されることなんですよね。賞を取ると、周りの見る目が一気に変わる。これはSNSではなかなか得られない形の信用で、すごく大きい。 新人作家さんの中には10代〜20代の若い子もいれば、30代〜40代で生活を背負いながら挑戦する方もいるでしょう。そういう環境で作品を描き続けるには、周囲の理解と応援がとても重要だと思います。そういう意味でも、今回受賞された皆さんは大きな一歩を掴んだと思います。おめでとうございます!

 

稲垣理一郎氏 PROFILE

1976年6月20日、東京都生まれ。漫画原作者。2001年、「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて読切デビュー。代表作に『アイシールド21』『Dr.STONE』『トリリオンゲーム』。

 


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