2023.03.03
ビッグコミック&ビッグコミックオリジナル 第9回合同新作賞結果発表
第9回合同新作賞は大賞のほか入選1作、佳作2作の結果となった。大いなる可能性を秘めた受賞作と、編集部による寸評をご紹介する。
大賞 賞金100万円
[迫田幹雄の受難は続く。] 新海つかさ(40)
ストーリー
受難の毎日を送る迫田幹雄。通勤中痴漢に間違われるが、傍にいた女子高生、伊藤美和の証言で濡れぎぬを免れる。ある日、美和への興味から高校を訪ねた迫田の前に不審者の姿が!
編集部寸評
「過去の応募作を含めてもトップクラスの内容」「即掲載可能では」と高い評価が集まった。全体が読みやすく纏まり、読後感の良さも好印象。この手の主人公を扱いながらも過剰に「キモく」感じさせない工夫があり、気持ちのいいオチに繋がっている。前半はもっと極端に主人公を貶めて落差を作ったり、ヒロインへの感謝の念を掘り下げるなど、物語に更なる練り込みを求める声、作者独自の強みを身につけて欲しいといった意見もあった。
入選+ビッグ編集長賞 賞金70万円
[トゥモローゲート] 六畳半(21)
ストーリー
突如、日本中に出現した謎の扉。0時から6時の間に扉を渡らなかった者は死んでしまう世界で、扉の誘導員として働く天津祥吉は無口な少女と出会う。
編集部寸評
設定に魅力はあるものの、やや説明不足か。なぜ少女が誘導員に憧れていたのかなど、もう少し掘り下げが欲しい。普遍的なテーマである「生と死とは?」を読者に考えさせるだけでなく、主人公が発見する瞬間を描けている点は高評価。作者の若さに期待する声も多数あった。
佳作 賞金10万円
[Palette] あんず(26)
ストーリー
美大に通う杉野かおるは、幼少時に両親が離婚し、母と2人暮らし。ふと目にしたアニメ制作会社の求人広告に心惹かれるが、母とのある約束を優先し応募を躊躇う。
編集部寸評
画力、構図ともレベルが高く表現力を評価する声多数。一方で素直すぎるストーリー展開には物足りなさを感じるとの意見が集まった。良い点と悪い点に対する編集者たちの指摘がほぼ一致しており、今後への期待も高い。
[うんちぶりぶり] 六畳半(21)
ストーリー
小学2年生の旺太郎は、擬音を見つける課題で「うんちがぶりぶり〜」と答えクラス中を笑わせた。しかし担任から理不尽に否定され、次第にクラスで孤立していく。
編集部寸評
引き込まれる意欲的な作品ではあるが、作中の誰の視点に立って読めば良いかがわかり辛い。ストーリー全体を整理して、読者に伝わりやすくしたい。何かを伝えようとする意志、作画の頑張りは期待できるので、今後も伸ばしてほしい。
奨励賞
[Beautiful10] 勝見ふうたろー(24)
[胸懐] 小熊奈津(26)
ビッグコミックオリジナル編集長 総評
新人賞では特に、「どこかで見たオモシロ」ではなく「見たこともないオモシロ」を読みたいです。また「広く浅く受け入れられるオモシロ」より「たった1人の読者の心に深く突き刺さるオモシロ」をこそ、読みたいと思います。それさえあれば、どれだけ絵が下手だったり構成が破綻していても、傑作になりえると考えます。そして、多くの場合そういったオモシロは、論理や意味を超えたところに存在します。理由は分からないけどなぜかオモシロい(例えば「ジョジョ立ち」のような)。ですから、漫画を描く際に信じるべきものは論理や意味やセオリーや、世間や周囲の反応ではなく、自分の中の「これは絶対にオモシロいはずだ」という直観と確信です。読みたいのはそういったあなたの、あなただけのオモシロです。次回も沢山の応募をお待ちしています。
ビッグコミック編集長 総評
この賞も回を重ね、応募作品数が増えるだけでなく、作品の質も上昇。今回はそれを改めて実感する審査結果になったかと思います。大賞受賞『迫田幹雄の受難は続く。』は、絶望感を抱える冴えない中年営業マンをコミカルに表現したキャラクター力、そのうえで彼の勘違いから生まれた「ちょっとした希望」までを一気に読ませる語り力を買います。入選『トゥモローゲート』も、ともすれば観念的になりそうな題材ながら、“独りよがり”に陥らず読み手に語りかけてくる作品でした。また六畳半さんは佳作の『うんちぶりぶり』(おそらく前作)も入賞、この2作品の間の伸びしろを評価して、ビッグコミック誌の編集長賞にも選出しました。さらなる才能との出会いを期待し、リニューアルを図るビッグとビッグオリジナルの新人賞、あなただけの漫画を語ってください!