2022.10.31
さいとう・たかを氏 お別れの会
劇画家 さいとう・たかを お別れの会 オンライン レポート
昨年の2021年9月24日、劇画家のさいとう・たかを氏が逝去されました(享年84歳)。その功績を称え、お見送りする式典が1年の時を経て、2022年9月29日、東京千代田区の帝国ホテルにて『劇画家 さいとう・たかを お別れの会』として開催されました。ここでは、多くの方が訪れ、さいとう氏との名残りを惜しんだこのお別れの会の模様をレポートします!
会場にはさいとう氏の軌跡を辿れる特別展示フロアが用意され、氏に関連した展示物が並んでいました。メイン会場には、さいとう氏が好きだった野の花をイメージした祭壇があり、遺影を前に献花ができるようになっていました。また、祭壇の左右にはさいとう氏のキャラクターを散りばめた巨大なモニュメントが。この日は、漫画家、出版関係者、ファンを含む約1000人もの人が訪れて、さいとう氏との別れを惜しんでいました。
友人代表として弔辞を読み上げた3人。左から秋本治氏(69)、ちばてつや氏(83)、里中満智子氏(74)
ちばてつや氏の弔辞より
ちば氏は遺影を前にして「たかをちゃん」と優しく語りかけ、ゴルフ場でのエピソードを中心に昔の思い出話を披露されました。
ちば「すでに半世紀以上も前から、漫画は子どもが読むものという時代だったのに、いずれ大人がコミックを楽しむ時代が来るんだということを予見して、成人誌、青年コミック誌の必要性を強く訴え続けていましたね。“劇画”という漫画のいちジャンルを創生し、日本の漫画劇画文化をここまで大きく育んできたのは疑う余地なく、あなたの功績大です」(抜粋)
里中満智子氏の弔辞より
里中氏は分業制の構築という偉大な功績を賞賛し、さいとう氏と奥様の仲睦まじい姿も女性の目線で語っておられました。
里中「輝子夫人(さいとう氏夫人)とお付き合いが始まった頃から、先生から少しずつおのろけを聞くようになりました。おのろけを聞くのは気分のいいものです。その人が幸せな気分でいる、そのお裾分けをしてもらっているみたいで、こちらまであたたかい気持ちになります。輝子さまと一緒になられて3年ぐらいたったころでしょうか。(先生は)“自分はもともと一人でいるのが一番落ち着く。だから結婚には向いていない。しかし、今の妻と出会って、もし仮にこの人が男であっても一緒に暮らしたいと思った。人生の奇跡だ”とおっしゃったのです。ああ、よかった。先生は本当にお幸せなんだ、と感動しました」(抜粋)
秋本治氏の弔辞より
秋本氏は、単行本200巻の数字で競い合った頃の話から始まり、現在もビッグコミックで連載が続く作品の魅力にまで言及されていました。
秋本「今、やっぱりビッグコミックで面白いのは『銃器職人・デイブ』。これはゴルゴの銃のドクターみたいなものなんですね。ゴルゴがまたデイブの所に来てむちゃを言うわけです。デイブはそれから徹夜で作るわけですね。そのデイブのシリーズが僕は大好き。さらに『Gの遺伝子 少女ファネット』、これもすごく楽しみにしてます。先生の育てた有能なさいとう・プロのスタッフ、そして優秀な編集者。ぜひ『ゴルゴ13』を夢の300巻に向けて続けて読みたいと思います。頑張ってください」(抜粋)
先生の軌跡を辿る展示物
ゴルゴ13の等身大フィギュア。会場中央の一段高いところに設置されて来場者をお出迎え
ワインレッドの統一感がある会場。フロアには展示物が設置されている
ゴルゴ13が表紙を飾ったビッグコミック増刊号が壁一面に並ぶ
「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」にてギネス記録を達成した時の賞状と、単行本SPコミックス。最新刊は206巻
「京都国際マンガミュージアム」で制作された、さいとう氏の手の像
さいとう・プロダクションにあった精巧な資料用モデルガン
かつてさいとう氏に贈られた、様々な作家がゴルゴ13を競作した色紙も飾られていた。左上から時計回りに高井研一郎氏、ちばてつや氏、水木しげる氏、松本零士氏の色紙
さいとう先生の略歴と400話達成記念の写真。等身大フィギュアはこの時に制作された。このパネルの隣には、幼少期からの先生の写真が飾られているフォトコーナーがあった
来場者に配布された返礼品。ゴルゴ13の色紙と様々な作家からのお別れの言葉が書かれたパンフレットが入っていた
遺影の前にはさいとう氏が関わった様々なコミックが並ぶ
ご来場された方々
永井豪氏(漫画家)
北見けんいち氏(漫画家)
浦沢直樹氏、黒鉄ヒロシ氏(漫画家)
麻生太郎氏(衆議院議員)
小池百合子氏(東京都知事)
舘ひろし氏(俳優・タレント)
安治川親方(元関脇・安美錦)
【読者のコメント】
さいとう氏へのメッセージを書く特別コーナー。訪れたファンはここで氏への想いを言葉にしていた
漫画家の女性(30代)
「私は漫画家なんですが、さいとう先生とは前にイベントでご一緒させて頂きました。漫画家のひとりとして、先生の功績は偉大過ぎてよく分からないレベル。自分が死んでも作品が続くという状況は、本当に凄いことなんだなと思います。お別れをするつもりで会場に来ましたが、展示物を見て逆にワクワクして、笑顔になれた。なんて前向きな集まりなんだろうって驚きました」
ファンの男性(30代)
「『ゴルゴ13』は子どもの頃に読んで、必ずしもハッピーエンドにならない所に大人の作品の味があるんだな、と。読み終わって世界が広がった経験をしましたね。自分は未だにさいとう先生がなくなった気がしないんですよね。それは悲しいとかではなくて、僕にとって先生は、もう概念の存在になっているので。個人として生命は終わられても、概念とか、哲学として生き続けているんだなって思いますね」
ファンの男性(50代)
「先生が亡くなった時は、私の中で“また親父が死んでしまった”と悲しくなりました。でもビッグコミックの公式サイトを見たら“だが、物語は続く”と書いてあって、驚きのあまり涙が吹っ飛んだ。作家が死んだのに続くってどういうこと、って。それを見た時『ゴルゴ13』のエピソードで『1億人の蠢き』を思いだしたんです。あれは宗教指導者を暗殺するんですが、死によって神格化されて信仰がさらに強まる話でした。それと同じだなって。先生の死によって『ゴルゴ13』は違う次元に進んだ気がしたんです。手塚治虫先生で言えば『火の鳥』。まさに『ゴルゴ13』が永遠の命を得たんだなって。あと今日の展示物を見ていて初めて知ったんですが、さいとう先生って手塚治虫先生と同じ11月3日生まれなんですね。だからさいとう先生は手塚先生の話をするのか、ってなんだか少し納得しました」
最後に
ファンの方々が抱いた感想の通り、さいとう・たかを氏は他界されましたが、作りだした作品はいまだに生き続けています。氏の遺志を引き継いださいとう・プロダクション、編集、脚本スタッフが一丸となって作り出す作品の応援を、これからもよろしくお願い致します!