トップ  >  【ドラマ完結】祝『黄昏流星群』ドラマ化・この熟女(ひと)を見よ!第6回「全てを失った女・安藤ひとみ」【最終回】#黄昏流星群 ( 2018/12/14 )
ビッグオリジナル

2018.12.14

【ドラマ完結】祝『黄昏流星群』ドラマ化・この熟女(ひと)を見よ!第6回「全てを失った女・安藤ひとみ」【最終回】#黄昏流星群

ビッグオリジナル
「熟女」とは、単に肉体的に熟した妙齢の女性を意味するのではない。さまざまな人生経験によって、精神的に「熟した女性」を「熟女」と呼ぶ――!


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多少いびつで、偏っていたり、悩みを抱えていたりしても、様々な苦労や経験を経て、厚みがあり、味わい深い豊穣な「熟」し方をした女性。
そんな熟した女性と、同じように人生の荒波を超えてきた男。人生の半ばを過ぎた40代以上の男女の恋愛を、リアリティをもって描いてきた弘兼憲史氏の名作『黄昏流星群』が、佐々木蔵之介さん、中山美穂さん・黒木瞳さん他、豪華なキャストでテレビドラマ化され、大団円のうち最終回を迎えました!









コミスンではドラマ化を記念して、ビッグコミックオリジナルで連載23年を迎える漫画『黄昏流星群』に登場する魅力的な《熟女》にスポットライトを当てていきます。


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第6回の熟女は、『黄昏流星群』第9集「貴男と星と潮騒と」のヒロイン、安藤ひとみさんをご紹介します!


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いきなりしかめっ面で登場するひとみ。
部下から「それ老眼っスよ」とツッコまれますが、妙齢の女性に対して「《老》眼」だなんて、ずいぶん失礼ですよねぇ。


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「大きなお世話よ! こう見えても、まだ40歳なのよ!」と怒り心頭です。
プンスカしているひとみに、お迎えが......それも、テレビ局から!?


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実はひとみ、本業の経済アナリストの他に、テレビのコメンテーターとしても活躍中なんです。
40歳、独身。仕事は充実、絶好調!
そんな彼女を見守る番組プロデューサーの奥山の目線......どこか、あやしい!?


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なんと、ひとみは番組プロデューサーと不倫をしていたんですね。
しかも、プロデューサー氏は、テレビ局の楽屋で行為を迫ってきました。
仕事場でそんなことをして、大丈夫なんでしょうか!?


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......大丈夫なわけがありません!
なんと、部屋を訪ねてきたスタッフに、行為に及んでいるところを見られてしまい、さらに大勢のスタッフが集まってきました!
それにしてもなんとも気まずい場面! いたたまれなさ、恥ずかしさが伝わってきて、胃が痛くなるような弘兼憲史氏の演出が際立っていますね。
不倫関係が現場に知れ渡り......ひとみは一体どうなってしまうのでしょうか。


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不倫が露見し、ひとみは番組を降ろされてしまいます。
しかも、ひとみは「美人経済アナリスト」、雑誌「週刊ホスト」に大々的に報道されてしまいます。
男の奥山が無理やり行為を迫ってきたにも拘わらず、彼は記事ではイニシアルだけで、クビにもなりません。テレビに顔を出しているひとみだけが、番組を降ろされ、実名で報道されてしまいました。
さらに、ひとみに不公平なことが続きます。


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ひとみは、奥山との子を身籠もっていたのです。
それを奥山に告げると、「妻と離婚して君と一緒になる」とずっと言っていた奥山からは「おろしてくれ!」の一言。
アナリストとしての仕事も、テレビ出演も、そしてプライベートも好調だと思っていたのが、どんどん崩壊していく人生。
もう、泣きっ面に蜂どころではありませんが、そんな彼女に、さらに不幸が......。


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家に戻ったひとみを待っていたのは、「夫を盗られた」と逆上して包丁を持った女!!
ひとみを恨んだ奥山の妻でした!
あわや殺されそうになるひとみですが、なんとかケガをしただけで切り抜けます。
なんだか、昔のホラー漫画や、ジョージ秋山先生の『アシュラ』を思わせるような演出や画! かつての「刺さる」表現の文法を、現代的シチュエーションにアレンジして使用することで、恐怖感とともに微妙にコミカルな効果を生み出していますね。


奥山は妻と別れるつもりはなかった......騙されていたことに気づいたひとみでしたが、さらに、追い討ちをかけるように不幸は続きます。


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経済アナリストとして務めている本業の勤務先の上司から「クビだ」と告げられてしまいます。
子どもまで身ごもった恋人に裏切られ、テレビの仕事を失い、スキャンダルによって信用を失い、さらに本業であるアナリストの仕事も失ってしまったひとみ。
全てを失ってしまいました。踏んだり蹴ったりです。
キャリアウーマンとしてバリバリ活躍していたころの輝きは薄れ、その表情には哀愁と疲労感が漂っています。
テレビに出演していた頃の描き方と比べて、微妙に歳をとっているようにも見えます。ドラマや映画とは違って、場面によって若さの違いを出せる漫画の特性をうまく使った演出ですね。


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それに対して、ひとみを騙して不倫をさせ、妊娠までさせた奥山は、部署を異動させられたものの、テレビ局には残りました。家庭も仕事も失っていないのです。
......損をするのは女ばかり。
札束を差し出し、子どもを降ろしてくれという奥山。
完全にブチ切れたひとみは、奥山の顔に唾を吹きかけ、金を投げ返します。
「あんな男の子どもは産みたくない」と思ったひとみですが、産まれてくる命は自分の子どもでもあると気づきます。
すべてを失ったけれど、この子だけは残ったと、あらためて産むことを決意。
母親へとなる一歩を踏み出し、長く暮らした東京を後にします。


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子どもを産み育てるために故郷の漁村に戻ったひとみ。
しかし、地元の人々も、ひとみを暖かく迎えてはくれませんでした。
世間が狭く、噂が伝わりやすい港町です。
経済アナリストとしてテレビに出ていたころはチヤホヤしていた地元の人々も、あの一件以来、冷たい視線でひとみを見るようになります。


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それでも何とか耐え抜くひとみでしたが、顔見知りの徳元から「子供でもできたんか?」という無神経な一言を投げかけられ、悔し涙を流します。
徳元は、かつてお見合いをすすめられたことがある漁師ですが、話を聞いてみると、意外なことがわかります。
キャリアウーマンとして東京で背負っていた社会的な重荷をおろして、子どもを産むために地元に戻り、一人の女性として家族の元で暮らしている彼女の顔は、なんだか若返ったようにも見えます。なんだか、好きな男の子にからかわれる少女のようでもあります。
ここでも、場面によって、年齢が変化してゆくような漫画の特性を効果的に使っていますね。
ひとみにとどまらず、『黄昏流星群』に登場する「熟女」たちは、時には少女のように、時には老婆のように、その時の心境によって、その表情をくるくると変化させますが、これは「『老い』というのは、あくまで『心』のありようから始まるのだ」という作者からのメッセージなのかもしれませんね。


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徳元は、一連の不倫事件のことを何も知らなかったのです。
これまでのことを洗いざらい話し、「何かもう......行きてゆくのが嫌になっちゃった」と涙を流すひとみを、徳元はある場所につれていきます。


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それは、自作の「星見台」でした。
家の裏の崖に、ベッドのように作りつけられた「星見台」を見て、思わず笑ってしまうひとみ。
見かけによらず、ロマンチストなようです。


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「星見台」に寝転がり、潮騒の中で星空を見ながら語り合う二人。
それは、辛すぎることが続いた彼女に久々に訪れた、束の間のやすらぎでもありました。
徳元もまた、自らの過去をひとみに話しはじめます。
若い頃、彼もまた、不倫していた女性が妊娠させてしまったことによりトラブルが起こり、結果として妻と不倫相手、子どもの3人の命を亡くしてしまったというのです。
どこかで聞いたことのある話ですが、その話よりもさらに壮絶な結果です。


生まれてくる子どもに愛情をそそぐことができるか不安だというひとみに、徳元は意外な言葉を投げかけます。


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「自信がなかったら、いつでもワシが引きとってやるぞ。子どもは大好きだから」
その一言に驚くひとみですが......その瞬間、東京から新たな仕事の依頼が......。


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果たして、ひとみはどう答えたのか。
その結末は、ぜひその目でお確かめてください。






《熟女プロファイル⑥》



何もかも失い、最後に星を見つけたキャリアウーマン・安藤ひとみ


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バリバリのキャリアウーマンとして順調に活躍していた安藤ひとみ。
そのトゲトゲしい言動もあって、第一印象では感情移入できない人もいるかもしれません。
ところが、物語が進めば進むほどに、自分が積み重ねてきたものを、次から次へと失ってしまいます。
スキャンダルの原因を作り、子どもを堕ろせと迫り、結婚する約束を反故にした男の方は、まだテレビ局をクビにならずに働いているのです。
なぜ、同じ不倫をしても、女性の方がここまで苦しまなければならないのか。
人生とはかくも辛く厳しいものなのか......と、ひとみは苦悩します。
しかし、郷里に戻り、自分と似た、それを上回る凄絶な経験を持つ男・徳元と出会うことで、自分には、まだ失っていないものがあるんだということに気付かされるのです。


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「広大な宇宙をジーッと見つめていると、人間なんて本当にちっぽけな存在だということがようわかる。」
「そう思えば、小さな地球の小さな日本の小さな都市で起きた、小さないざこざなぞ何ぼのもんじゃということになる。」


自分と同様につらい経験を乗り越えてきた徳元の口から発せられた言葉が身にしみるひとみ。
誰しも歳を重ねるごとに心の傷や、つらい過去。失っていく大切なもの。それらを乗り越え、人生のさまざまな局面を、ひたむきに生きていく人々。
それを描き出す弘兼憲史氏の人間に対する温かく真摯な眼差しが光っています。


ひとみは、自分が持っていたキラキラしたものをほとんど失いましたが、それでも心の中に光を失わずに輝き続ける大事なものを見つけました。
「希望」、「夢」、「未来」、「愛」、「決意」、「尊厳」......。
その「輝き」をなんと呼ぶかは、人それぞれだと思いますが、宇宙に比べたらちっぽけな存在である人間の一人一人の心の中にも、輝く「星」のようなものがある、ということなのでしょうか。
それが『黄昏流星群』の全エピソードに「星」に関するタイトルがついている理由なのかもしれませんね。


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『黄昏流星群』第9集
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最終回を迎えたテレビドラマでは、不倫という愛の形態を描いていましたが、漫画『黄昏流星群』で描かれる愛の形はもちろん、それだけではありません。


今回ご紹介した魅力的な6人の「熟女」たちの他にも、たくさんの熟女、そして「熟男」たちが登場する『黄昏流星群』を今後もぜひお楽しみください!


(文・加藤真大)






【初出:コミスン 2018.12.14】

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