ビッグオリジナル
2018.10.11
【本日放送開始】祝『黄昏流星群』ドラマ化・この熟女(ひと)を見よ! 第1回「大女優・渚エリカ」【22時よりフジテレビ系】
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多少いびつで、偏っていたり、悩みを抱えていたりしても、様々な苦労や経験を経て、厚みがあり、味わい深い豊穣な「熟」し方をした女性。
そんな熟した女性と、同じように人生の荒波を超えてきた男。人生の半ばを過ぎた40代以上の男女の恋愛を、リアリティをもって描いてきた弘兼憲史氏の名作『黄昏流星群』が、佐々木蔵之介さん、中山美穂さん・黒木瞳さん他、豪華なキャストでテレビドラマ化され、2018年10月11日よる22時よりフジテレビ系で放送開始になります。
TVドラマ『黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~』番組公式サイト
コミスンでは、ドラマ化を記念して、今年で連載23年を迎える漫画『黄昏流星群』に登場する魅力的な《熟女》にスポットライトを当て、毎回ひとりずつ紹介していきます!
第一回目の熟女は、『黄昏流星群』第3集「星より秘かに」のヒロイン、渚エリカさんをご紹介!
ラーメン屋を営む孤独な男・徳田和夫。閉店準備をする彼の店に現れた美女は......
大女優、渚エリカ――!
実は、徳田は、彼女のアイドル時代のポスターを店内に張るほどの大ファン。
大女優・渚エリカ本人の後ろに、若い頃のはつらつとした彼女のポスター、そして、それを見つめる場末のラーメン屋の店主という一枚の画は、グッときますね。
一コマの中に、時の流れや慕情、社会格差といった、いろんな《人生》の喜怒哀楽が収まっているのを感じさせてくれます。
いくつもの異なる人生が、ある一瞬交錯することで生まれてくる「人生と人生のドラマ」......彼らが歩いてきた道程を想像させるようなリアリティをもって描く弘兼憲史氏の手腕は、他の追随を許さないものだと思います。
「また来るわね」
ドキッとするセリフと表情ですね。
その後も、たびたび閉店間際に、徳田のラーメン店を訪れるようになったエリカ。
ときには、プロデューサーと一緒に来ることもありました。本心はともかく、
徳田はあくまでファンとして、店主としての態度を貫きます。
ある雨の夜、ひどく泥酔したエリカがやってきて、カウンターで眠り込んでしまいます。
ポスターの中のアイドル・渚エリカと、ひとりの人間としてのエリカの対比が効いている一コマ。
自暴自棄になった彼女が、徳田の部屋に行きたいと言い出して......ラーメン屋と大女優、交わるはずのなかった2つの人生が、交錯しはじめます。
稲光に照らされたエリカの体......年齢を経て変わっていく体の線。若い頃だけでなく、どの世代でも持っている人間の存在として美しさを魅力的に描きだす弘兼氏のペンの力!
一度だけ、エリカと関係を持ってしまう徳田。それは少年時代から望み続けた、まさに夢のような一瞬でした。
「ねえ......私のためなら、人殺しでも出来る?」
冗談を言い、笑うエリカ。
その後も、彼女はたびたび店を訪れますが、二人の関係は元通り。「ラーメン屋のの常連客とカウンター越しの店主」を越えることはありませんでした。
ラーメンの新商品を考案するエリカ。それは「渚ラーメン」として、徳田の店の看板商品となります。
ところが......ある時、
「お願い!! すぐ来て! 私を助けて!」
急いで彼女のマンションに駆けつけると、そこにはプロデューサーの死体が......。
別れ話がもつれて、彼を殺してしまったと泣き崩れるエリカを前に、徳田はある決意を固めます。
――ついに私が この人の役に立てる時が来た。
徳田は渚エリカの「身代わり」となって、警察に出頭します。
強い意思と、一途な想いの込もった言葉。
「私が出て来たら、また、今まで通りラーメンを食べに来てくれますか?」
「あなたが出て来たら 私......あなたと結婚する!」
強い思いが伝わるリアリティのある表情に、読者の心も揺さぶられます。
あの夜、あの一瞬を、いつでも夢に見て、徳田は7年の刑務所生活に耐え続けるのでした。
しかし、最初はまめに手紙をくれたエリカが、やがて音信不通に......。接見に訪れた弁護士から、エリカが別の男(35歳・実業家)と結婚したことを伝えられます。
7年の刑期を終え、ようやく出所した徳田。
老境にさしかかった彼を出迎えたのはエリカではなく、担当弁護士でした。
徳田は、エリカが実業家と離婚後、アルコール依存症になり行方不明になっていることを知らされます。
再び、あのラーメン屋を始める徳田。
約束通り、再びラーメンを食べてもらうために、エリカを待ち続けます。
果たして、エリカは再び、徳田の前に現れるのか? それとも......!?
半世紀にも及ぶ、純愛の物語のエンディングは、ぜひご自身の目でお確かめください!
《熟女プロファイル①》
★大女優・渚エリカは「悪女」なのか?
この「星より秘かに」というエピソード、読む人によっては「エリカというのは、なんて悪い女なんだ」という感想を抱かれるかもしれません。
殺人の罪を肩代わりしてもらった徳田に「出所したら結婚する」と言いながら、結局は金持ちの男と結婚してしまったのですから、「悪女」といってもよいでしょう。
しかし、このエピソードを何度も、それも時を経て読むと、「あれ?」と気づかされることがあります。 そんな単純な読み方でいいのか? と。
そう、徳田が刑務所に入った後、エリカについては弁護士を通じて断片的な情報が語られるのみで、彼女自身が直面した状況や、その思いなどは直接的には描かれていません。
エリカのその後の物語を描かないことで、いろいろな読み方ができるような構成になっているんですね。その「描かれざる物語」は、読者に自由に想像させ、物語に深みをもたらします。
このエピソードに限らず、『黄昏流星群』という作品群が、何年後かに再読すると新たな発見があったり、全く違う印象を持ったりするのには、そういう「語られざる物語」の存在が大きいのかもしれません。
今夜から始まるテレビドラマでは、原作漫画とは異なる、新たな解釈によって《もう一つの『黄昏流星群』》を楽しむことができるとか。漫画を読んでドラマと見比べてみると、さらなる発見があるかもしれません!!
第2回でも魅力的な「熟女」をご紹介します! お楽しみに!!
(文・山科清春)
【初出:コミスン 2018.10.11】
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