ビッグコミック
2018.07.09
祝『ゴルゴ13』連載50周年!【毎週一冊『ゴルゴ13』】このゴルゴがすごい!【第9回】第9巻「ラオスのけし」
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連載50年、単行本180巻以上と聞くと、「読みたいけど、今から読むのは大変そうだなあ」と思う方もいるかもしれません。
しかし、心配はご無用です。『ゴルゴ13』は基本的に一話完結。どの巻、どのエピソードから読み始めても楽しめます。このスタイルこそが、『ゴルゴ13』が50年にもわたって愛され続ける理由の一つでるといえるでしょう。
そんな『ゴルゴ13』の魅力をお伝えする、この「このゴルゴがすごい!」、第9回目は『ゴルゴ13』第9巻「ラオスのけし」よりお送りします!
この第9巻は、東南アジア・ラオスの麻薬組織の利権をめぐって米ソの諜報員が暗躍する表題作「ラオスのけし」のほか、アメリカ先住民が隠し持つ黄金を巡る謎「デス・バレイ」、南米ボリビアでチェ・ゲバラの遺志を受け継ぐゲリラのリーダーの暗殺を依頼される「内陸地帯」、黒人解放運動家マルコムXの誕生日にNYで起きた警官銃撃事件の真犯人を狙撃する「誕生日(バースデー)に白豚(クラッカー)を殺せ!!」など、バリエーション豊かなエピソード揃い! いずれも「この話だけで映画が何本も作れるんじゃないか」と思えるようなアイデアが短編1編に惜しげもなく投入されており、世界各地を舞台に繰り広げられる物語のスケール感も満点です。
その中から、今回ご紹介したいエピソードは「暗い街灯の下で」。
なんと、ゴルゴの愛銃アーマーライトM16が、何者かに奪われてしまうという超・非常事態が発生するお話です!
舞台は、イギリスのロンドン。
冒頭に無軌道な若者の衝動を描いたロマン・ポランスキー監督の映画『水の中のナイフ』の中のセリフが引用されていますが――。
このエピソードに出てくるのは、まさにそんな無軌道な衝動に突き動かされる若者たち、「スカル アンド クロスボーンズ」。
若者たちは、郵便配達の車を襲撃、荷物を強奪します。
その荷物の中に......
なんと、複数の荷物に分割し、機械部品の商品サンプルなどにカモフラージュして、ゴルゴがホテルに送っていたアーマーライトM16が!
最高の技術によってカスタマイズされた、最強の狙撃兵器が!
麻薬中毒のヒッピーの若者たちの手に渡ってしまったのです。
アーマーライトが届かず、ホテルで立ち尽くしているゴルゴ。無表情ですが、どことなく、途方に暮れているように見えるのは気のせいでしょうか.........。
そして、恐れていた最悪の事態が!
少女ばかりを狙った連続射殺事件が、ロンドンの街を恐怖に陥れるのです。
しかも、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)は、殺害に使われた弾丸の旋条痕から、容疑者の特定に成功します。
少女連続射殺事件の犯人が、過去の資料(第7巻『Dr.V・ワルター』での狙撃)から、この弾丸が「ゴルゴ・サーティーン」という殺し屋の手によるものであると断定されてしまうのです。
ロンドン警察の刑事たちは、殺し屋・ゴルゴ13と、今回の少女連続殺人事件の犯人を同一人物と断定。捜査の手がゴルゴに迫りますが......。
一方、ゴルゴの愛銃を奪ったジェフは、麻薬に溺れて、幻覚を見ています。
麻薬が引き起こす幻覚症状によって、母親から受けたトラウマが蘇り、衝動的に少女たちを狙撃していたジェフ。
しかし、こんな不用意な殺人が、スコットランドヤードに露見しないわけはありません。
そして、ゴルゴ本人にも......。
自らの愛銃が、ゴルゴ自身を狙います。
ゴルゴは、自らの愛銃を奪い、ロンドンを恐怖に陥れた若者に対して、どのような落とし前をつけるのか。
そして、ゴルゴを追うスコットランドヤードの思惑は!?
そして、ゴルゴの愛銃は、どうなるのか...!?
ぜひお読みください!
【今回のプロ&ダンディーな名言】
「うっ! 大蟻食い!?」(『内陸地帯』より)
ゴルゴは中南米ボリビア政府軍の依頼で、反政府ゲリラのスパイを突き止め、狙撃する依頼を受けます。
ジャングルで夜営の際、同行者の青年ラモンが怪しいと見たゴルゴは、酒で彼を眠らせて、彼が毛布代わりに貸してくれた上着を彼に返します。
次の瞬間、眠るラモンに襲いかかったのは、巨大な「吸血オオアリクイ」!
この誰もが想定不可能な事態に際しては、さすがのプロフェッショナルのゴルゴも「うっ! 大蟻食い!?」と疑問符付きの驚きの声を漏らしてしまいます。
しかし、さすがはゴルゴ。次の瞬間には、冷静さを取り戻し、吸血オオアリクイの情報を分析し、オオアリクイを射殺しています。
さすがはゴルゴ、どんなに想定外の状況にも、臨機応変に対応するプロ中のプロですね。
(それでも、さすがに珍しく「汗」をかいていますが......)。
ラモンはやはり黒幕に指示されて「蟻酸」を含ませた上着をゴルゴに着せて、吸血オオアリクイにゴルゴを殺させるつもりだったのです。
ちなみに、この「吸血オオアリクイ」、突飛な説のように思えるかもしれませんが、当時、「チュパカブラ」という南米に伝わる吸血怪物の正体がオオアリクイではないかという説が根強くあったそうで、このエピソードの描写はそれに依ったものになっています。過去に流行した都市伝説を垣間見ることができるのも、連載50年の歴史をもつこの作品ならではかもしれませんね。
次回は、第10巻「ラ・カルナバル」より、お届けします!
(文・山科清春)
【初出:コミスン 2018.07.09】
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