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文化庁メディア芸術祭 優秀賞受賞!特別寄稿・『機械仕掛けの愛』業田良家氏の哲学!トークショーも!

ビッグコミック

2016.02.01

『機械仕掛けの愛』で第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 優秀賞を受賞した業田良家氏。2月3日~14日の受賞作品展開催にあわせ、氏の哲学を垣間見られる小論と、それに対応する短編コミックの試し読みを特別掲載!!





行為(運動)は無くならない  業田良家






 私は死んだらどうなるのだろう。
 肉体は消えて無くなる。「私」という自意識も無くなる。脳が働かなくなるのだから熟睡している状態のように「無」になると考えられる。死んだ後に魂となって天国や地獄へ行くこともないだろう。現代の物理学や生物学、特に脳の研究等を見ているとそう思われてくる。科学的・論理的に考えるとそういう結論にならざるを得ない。
 死んだら私の人生すべてが無くなる。なんと空しいことだろう。懸命に生きて努力しても、善いことをしても悪いことをしても、なにごとか大きな事業を成し遂げてもすべて無くなる。私のことを覚えている人もいずれは全員いなくなる。 




 若い頃からなんとなくそう考えていた私は心の奥でうっすらと空しさを感じていました。そう感じている現代人は多いのではないでしょうか。
 しかし!(と感嘆符を付けてみる)しかし、若い頃からずっと考えてきて、違う考え方もできると気づいたのでここに述べたいと思います。
 結論を先に書きます。
 「私という存在は消えるが私の行為は永遠に残る」




 この考えに驚く人もいるだろうが、唐突で意味がわからない人のほうが多いだろう。詳しく述べることにします。
 まず、ひとつの思考実験にお付き合いを願います。私は馬齢を重ねて57歳。そこでちょうど57光年離れた恒星Aがあるとする。今まさに星空の下に立ち恒星Aを見たとします。そのとき私の目に飛び込んで来た光子はちょうど57年前に恒星Aから放たれた光子です。その光子は秒速30万キロメートルという速さで宇宙空間を57年間絶え間なく進んで私の目に飛び込んできました。物理的に考えてみると、この57年間の光子の運動の一部を一分一秒たりとも無くすことはできないことがわかります。光子の行程上どの地点であれ、どの瞬間であれ、この運動を消したり、無かったことにすることはできません。そうでないと私の目にその光子は届かない。このことには同意して頂けると思います。
 さらに思考実験を続けます。例えば今から50年前、私が7歳、小学一年生で9月1日、2学期の始業式が終わった後、午前10時半、友達と喧嘩をして手元にあったガラスのコップを私が投げつけたとします。もちろん大人しくて慎重な私はそんなことをしたことがないし、この事例は他のことでも構わない。喧嘩して悔しくて泣いたでもいいし、先生に言いつけたでもいい。わかりやすいので、コップを投げつけて友達には当たらず床で砕け散ったとします。割れたコップを頭のなかにイメージしてください。さて、それから50年後の現在、私が友達にコップを投げつけたという行為は消えて無くなったのでしょうか。時間が経てば、または自分も含めて皆が忘れてしまえば、さらにいつか私が死んで存在しなくなれば、その行為は無くなるのでしょうか。




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 「無くならない」と考えるのが論理的です。そうでないと割れる前のコップと割れた状態のコップが繋がりません。運動エネルギーの流れが途切れてしまうし、時間の流れも繋がらなくなります。物理的に不可能なのです。もしその瞬間の出来事が無くなると時間が分断されてしまい「今現在」も崩壊してしまいます。これにも首肯して頂けたでしょうか。
 私たちが存在するこの宇宙は138億年前にビッグバンで誕生したと考えられています。インフレーションにより宇宙空間は拡大され、素粒子が誕生し、水素とヘリウムが生成され、重力により水素とヘリウムが集まり恒星ができ、恒星の核融合により各種の原子が形成され、地球や私たち人類が誕生した。この138億年間、光子や電子やすべての素粒子が絶え間なく運動してきました。そのあらゆる運動のどの瞬間の振る舞いも無くすことはできません(先ほどの恒星Aや割れたコップの思考実験のように)。私たちの体を組織する細胞。細胞を構成するタンパク質。タンパク質の原料になる炭素。そして炭素原子の中の電子。それぞれが動き回り、くっついたり離れたりしています。これらの出来事(運動)を過去だからと言ってどれも無にすることはできません。素粒子の基本的な性質から見ても、この宇宙は「存在している」というより「運動している」と認識したほうが本質に近づけると思います。つまり私自身も「存在している」というより「運動している」のです。
 私たちの行為ももちろん物理的な運動であります。行為、そして行為による人生の出来事もこの宇宙が存在している限り(運動し続けている限り)永遠に消えないと私は考えます。十分に論理的だと思われます。同意して頂けるでしょうか。
 例えば愛する人と初めて手を繋いだ瞬間が、愛する家族や友人と楽しく過ごした時間や出来事が、なにか大切なことを成し遂げた事実が、私たちの死んだ後も永遠にこの宇宙に刻まれて残るのです。そう考えるのはなんと素晴らしいことでしょう。ありふれた日常の何気ない瞬間でさえ意義深く感じられてきます。悲しい出来事や辛いことにも深く思いを馳せることができるのではないでしょうか。
 「私の行為や人生で起きた出来事すべてが永遠に無くならない」。このシンプルで論理的な考えが実はすごく大きなパワーをもっていると信じています。漫画にも描いてきたけれど、文章で伝わることも多いのでこの機会に述べてみました。この行為もきっと残るでしょう。




初出:『アンジャリ』第30号(親鸞仏教センター発行)






......この静かな哲学、文章で読みつつマンガでも読むことで、より伝わるのではないでしょうか。というわけで、こちらの短編をどうぞ!






業田良家『機械仕掛けの愛』第②集収録「ロムニーのコップ」



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『機械仕掛けの愛』は第3集まで発売中。ビッグコミック増刊号にて大好評連載中です。




また、業田良家氏は2月6日(土)に、同じく第19回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞に輝いた長谷川愛さんとのトークイベントを行います! アートとマンガ、遺伝子とSF、現在と未来......さまざまなジャンルを扱うメディア芸術祭でも非常に珍しい、部門をこえたクロストークにご期待ください!




 日時 2016年2月6日(土)14:30~15:30
 会場 国立新美術館(東京都港区)
 観覧申し込み(無料)はこちらから。





こちらの記事もあわせてどうぞ!




「24ページあればどんな物語でも描ける」――『機械仕掛けの愛』業田良家氏インタビュー!





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(ビッグコミック編集部)

今すぐ無料で試し読み!
機械仕掛けの愛 1 業田良家
機械仕掛けの愛 2 業田良家
機械仕掛けの愛 3 業田良家

関連リンク
ビッグコミック公式
『機械仕掛けの愛』作品紹介ページ


【初出:コミスン 2016.02.01】

ビッグコミック,手塚治虫文化賞,文化庁メディア芸術祭,業田良家,機械仕掛けの愛
ABJ 10401002

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