ビッグコミック
2014.07.11
加藤登紀子さん「表向きの社会の裏側に自分たちのリアリティがある/そのスタンスに通じるマンガが大事なメディアになった」◆屋根の上のマンガ読み
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第55回 加藤登紀子
《プロフィール》1943年生まれ、シンガーソングライター。「知床旅情」「百万本のバラ」などで知られる。中沢啓治氏の詩によるシングル「広島 愛の川」が発売中。7月12日、Bunkamuraオーチャードホールにてコンサート「愛を耕すものたちよ」開催。
《プロフィール》1943年生まれ、シンガーソングライター。「知床旅情」「百万本のバラ」などで知られる。中沢啓治氏の詩によるシングル「広島 愛の川」が発売中。7月12日、Bunkamuraオーチャードホールにてコンサート「愛を耕すものたちよ」開催。
「現実をちゃんと見るというところから始めていきたいなって思うんです」
[はだしのゲン]は、描かれてることが緻密で驚きました。6歳の少年は、とにかく走り回って目に焼き付けてきたんですね。奥さんにうかがったんだけど、もし6歳より幼かったら覚えてなかったかもしれないし、もう少し大きかったら違うものになったかもしれない。6歳の目で見たことがよかった、と本人が言ってらしたそうです。
著者の中沢啓治さんとは生前お付き合いがなかったんですけど、彼が唯一遺した「広島 愛の川」という詩にメロディーをつけて歌うお話に声をかけてもらえました。すごくよくできた詩で、少しの言葉の変化で引っ張り込んでいく力があるんですよね。CDには、[はだしのゲン]を描いた彼の心に渦巻くものをもうちょっとリアルに伝えたくて、作中のナレーションを朗読した語りを入れました。
[土佐の一本釣り]の青柳裕介さんとは同い年なんです。初めて高知で「ほろ酔いコンサート」をやるときに、飛び込みでポスターのイラストをお願いしたら快く引き受けてくれて。それで本番の前日、ご挨拶に行ったんだけど、その頃の青柳さんはつっぱり屋だからさ、勝負かけてくるわけよね。「俺の前で歌え」みたいな話になって、歌ったのよ。そしたら気に入ってもらえてね。それから大の仲良しになって、亡くなるまで高知へ行くたんびにご自宅へ遊びに行って。
しゃべり方も姿勢も視線の送り方も全部、青柳さんのマンガから出てきたみたいな人でしたね。自画像なのか、マンガに自分を似せているのかわからないけれど。奥さんもほんとに綺麗でね、[土佐の一本釣り]に出てくる八千代にそっくりなんですよ。
[はだしのゲン]©中沢啓治/中公文庫コミック版
現実の姿
[美味しんぼ]の福島編、スピリッツで読みましたよ。一番最後の特集記事がよかったです。もっと当たり前のように議論されてこなきゃいけなかったことが、改めて提起できてよかったですね。一番大事なことは福島の人たちを孤立させないこと。福島の問題は福島だけの問題じゃない。人類の問題だし、日本を超えていくほどの問題だから、きちんと共有していくという意識でね。
今、[いちえふ]を読んでますよ。あれはすごいですね。自分たちはどういう現実と一緒にいるかということだけ描かれていて、そこから後の判断はあんたたちがしてくれりゃあいいよっていう。この先ずっと読んでいこうと思っています。
私のところには農業をやる若者が集まってくるんですけど、[絶望に効くクスリ]を読んだって人が結構いますよ。夫の藤本敏夫と私のことをずいぶん取材して描いてくれて、面白かったです。
先端を行くメディア
1960年代より前の学生運動は、すごく思想的なものだったんですよね。だけど60年代からはポップというか、ロックなんです。社会というシステムに対しての反発ではなく、もっと身近な、着るものとか、聴く音楽とか、使ってる言葉とか、生活全部にまつわることに関して古いものから脱皮しよう、自分たちのものでありたいという。政治活動だけではなかったんですね。その時代にマンガがマッチして、先端を行くメディアになったわけです。
難しい言葉でいうと、「反世界」っていう言い方をしたんです。今、現実に見えてるものの反対側にある世界、それが本当の世界だ、みたいなね。世界に反発してるんじゃなくて、表向きの社会の裏側に自分たちのリアリティがあると。そのスタンスにも通じるマンガというものが、今になって大事なメディアになったという気がしますね。いろんな意味で、現実をちゃんと見るというところから始めていきたいなって思うんです。マンガの世界は、それをがんばって伝えてると思いますね。
《加藤登紀子さんのおすすめ作品》
[はだしのゲン]中沢啓治
[土佐の一本釣り]青柳裕介
[美味しんぼ]雁屋哲、花咲アキラ
[いちえふ 福島第一原子力発電所労働記]竜田一人
[絶望に効くクスリ ONE ON ONE]山田玲司
《こんな作品もおすすめしていました!》
[銀河鉄道999]松本零士
[宇宙海賊キャプテンハーロック]松本零士
■次回予告:第56回 宮崎哲弥(評論家)
マンガは趣味だから仕事として切り売りしたくはない...
という宮崎さんに語っていただきました!!
村上かつら[ラッキー Are you LUCKY?]、
猫十字社[小さなお茶会]、森秀樹作品など!!
<7/25(金)更新予定>
【「屋根の上のマンガ読み」バックナンバーはこちら!】
(取材構成:ビッグコミック編集部・根本和佳(DAN)、撮影:松原康之)
関連リンク
ビッグコミック公式
【初出:コミスン 2014.07.11】
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