ビッグオリジナル
2014.03.18
【連載コラム】『テツぼん』原作者、高橋遠州先生のテツオタ話。第3回は連載100回記念にかこつけて、東京駅100周年を祝う!?
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第3回【祝100回&祝100周年】
おかげさまをもちまして私が原作を担当する『テツぼん』が連載100回を迎えることができました! 永松潔先生や担当編集者の方々、そして何より読者の皆様方にはただもう感謝の一言です。今後ともよろしくお願いいたします。
しかし掲載誌のオリジナル6号をひもといてみますと『浮浪雲』956話、『三丁目の夕日』929話、『釣りバカ日誌』828話、『風の大地』566話、『黄昏流星群』436話といった桁外れな数字が並んでいます。先月、40年を越す連載を終了したばかりの『あぶさん』に至っては最終話が976話でした。そうした気の遠くなるような数字を見るにつけ、100話くらいで達成感に浸っている場合ではないな、と改めて気を引き締め直したしだいでありました。
同じ100つながりで言えば、今年は東京駅開業100周年の年でもあります。今を去ること100年前の1914年、年号で云えば大正三年の12月に東京駅は開業しています。この年は欧州で第一次世界大戦が勃発した年でもありますが、遠く離れた極東の日本には戦火の影響も少なく、当時の日本国民は帝都東京にふさわしい威容に満ちた東京駅の誕生をお祭り気分で祝っています。
しかしあれだけ巨大な建造物が首都のど真ん中に建っている訳ですから、100年の間には様々な危機がありました。最初の危機は1923年の関東大震災。その時は何とか持ちこたえましたが、戦争末期の1945年に空襲でドーム部分が焼失。仕方なく応急措置で三角屋根としましたが、それが意外と出来がよくて戦後もそのまま使われ続けます。そして東京駅の本当の危機は戦後になって訪れます。赤レンガ駅舎を取り壊して高層ビルに建て替えようという計画が何度も持ち上がったのです。しかし保存を求める根強い声に支えられて、ついに2003年、国の重要文化財に指定されることでようやく危機を脱しました。そして2012年になって67年ぶりに創建当時の姿を取り戻したのでした。
現在の東京駅
創建当時の東京駅の写真を見ますと周囲に高い建物は何もありません。まさしく東京駅だけが威風堂々とそびえ立っていて見事な景観です。それに比べて今の東京駅の周りは高層ビルだらけで、景観的にはかなり埋没してしまっています。これにはちょっとやむを得ない事情もありまして、一昨年に東京駅を復元した時にその費用500億円をJRは空中権を売却することでまかないました。空中権というのは高いビルを建てることのできる権利みたいなものですが、東京駅自体は高くする必要がないのでその権利を周辺のビルに売却し、周辺のビルはそれで本来認められているよりも高いビルを建てることができたという訳です。まさに空からお金が降ってきたみたいな話ではありますが、景観という代償を支払った感はあります。
ところであの震災から三年がたちました。実は東京駅には被災地の職人さんたちの熱い思いが込められた場所があります。みなさんは復元された東京駅の黒いドーム屋根に注目されたことはありますか。壁面の赤いレンガとよく調和した上品な漆黒の屋根は粘板岩から作られた天然スレート、つまり薄板状に加工した天然石を屋根材として葺(ふ)いたものです。宮城県石巻市雄勝(おがつ)町はそうした天然スレートの産地として知られていて、創建当時から東京駅の屋根材を提供してきました。
しかし震災による津波はこの町をも襲いました。東京駅の屋根材として出荷するはずだった天然スレートは津波に押し流されて散乱し、多くが泥やがれきに埋まってしまいました。しかし地元の職人さんたちは自らも被災したにもかかわらず必死になって散乱するスレートを回収し、更に一枚一枚ていねいに洗い直しました。一度海水に浸るとたとえ石材でもきちんと除塩処理をしないと建築資材としては使えないのです。そうやって約四万枚ものスレートを回収してJRに納品したのです。一時は雄勝産スレートをあきらめて海外に発注しようとしていたJRもこれを受けて、当初の予定どおり東京駅の屋根には雄勝産スレートが使われることになりました。これこそまさに東京駅を復元しようという職人さんたちの心意気というべきでしょう。東京駅の黒い屋根を見たら、ぜひそうした秘められたドラマがあったことを思い起こしてみてください。
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(執筆:高橋遠州 担当:ビッグコミックオリジナル編集部)
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テツぼん 8 永松潔/高橋遠州
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【初出:コミスン 2014.03.18】
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