ビッグオリジナル
2014.03.02
【連載コラム】『テツぼん』原作者、高橋遠州先生のテツオタ話が、早くも話題集中!? 第2回は大井川鐵道のDEEP話。
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第2回【SLだけじゃないぞ、大井川鐵道】
現在『テツぼん』では大井川鐵道を舞台にしたお話を展開していますので、今回は大井川鐵道を取り上げてみることにします。大井川鐵道と聞いて一般の(鉄道マニアではない、という意味ですが)方々が連想されるのはやはりSLでしょう。SLは今でこそ日本全国を走っていてどこでも観光客に大人気ですが、そのさきがけとなったのが大井川鐵道でした。旧国鉄がSLの営業運転を停止した昭和50年の翌年からSLを走らせていて、この大井川鐵道でのSL復活の成功が今日の全国的なSLブームの火付け役となった訳です。
大井川鐵道のSL
更に大井川鐵道で注目すべきはSLだけではありません。大井川鐵道は実は二つの路線からなっています。JR東海道線と接続した金谷(かなや)駅から千頭(せんず)駅までがSLの走る本線で、そこから先は井川線といってそもそもは終点の先にある井川ダム建設のために敷設された資材運搬鉄道でした。そのため井川線の車窓からは今でも南アルプスの大自然の光景を見ることができます。そればかりか途中の急勾配区間にはアプト式鉄道まであります。アプト式鉄道とは歯車で急勾配を進む方式の鉄道のことで、日本ではかつて信越線の軽井沢・横川間で半世紀前まで使われていました。それを平成になって大井川鐵道が復活したもので現在、日本ではここでしか見ることはできません。そのため井川線には"南アルプスあぷとライン"という愛称がつけられています。
......とまあ、ここまでは素人衆(鉄道マニアではない、という意味ですが)相手のお話でありまして、ここから先は玄人筋(鉄道マニア、という意味ですが)相手のお話になりますが、実は今、大井川鐵道に関してその筋の間で(あくまでも鉄道マニアの間で、という意味ですが)話題になっていることがあります。何と近い将来、大井川鐵道で全国初の女性のSL運転士が誕生するかもしれないというのです!今日び列車の女性運転士そのものはとりたてて珍しくはありません。東海道新幹線の運転士だって約一割は女性です。でもさすがにSLの運転士となるとまだ一人もいません。彼女は既に電車運転免許は取得していて現在は大井川鐵道本線の電車を運転しているそうですが、このままいけば数年先くらいにはSLの運転士免許を取得して日本初の女性SL運転士誕生ということになりそうです。SLの運転席で灼熱のボイラーの前で大粒の汗をしたたらせながらせっせと石炭をくべる彼女の勇姿を今から楽しみにしている鉄道マニアも(たぶん)いることでしょう。
更に言えば井川線の方にも将来の運転士目指してがんばっている女性車掌さんがいます。彼女はもし実現すればこちらは日本初のアプト式鉄道女性運転士ということになります。これはどういうことかと言いますと、井川線は本線と違って電車ではなくディーゼル車が走ってますので内燃車運転免許が必要なんですが、アプト区間だけは電気で走るために全線を運転するためには電車運転免許も必要になるんですね。SLの運転士になるのとは又別の意味でたいへんな訳です。こちらも鉄道マニアは大いに注目しています。
まあ鉄道マニアでない人たちにしてみれば運転士が男だろうが女だろうがどっちでもかまわないんでしょうけど、伝統的に"漢"(と書いて"おとこ"と読みます)社会であった鉄道の現場にこうしてどんどん女性が進出して来るというのは決して悪いことではありませんよね。大井川鐵道には観光鉄道としての側面もありますから、こうした女性たちの活躍によって鉄道現場の華やかさが増せば観光面にもプラスとなるでしょう。大井川鐵道にはぜひともSLだけでなく女性が活躍する鉄道としても有名になってもらいたいものです。
最後にちょっとまじめな話をします。『テツぼん』で大井川鐵道を採りあげた直後に「大井川鐵道大幅減便」という報道を目にしました。東日本大震災の影響による観光の落ち込みや関越道事故を受けた高速ツアーバスの廃止などによって経営環境が悪化したことによるものだそうです。大井川鐵道には観光鉄道としての側面もあると言いましたが、あくまでも沿線で生活している方々にとっては貴重な生活の足でもある訳です。決して観光客や鉄道マニアを楽しませるためだけに存在している訳ではありません。地域公共交通機関と観光鉄道の両立をどう実現するのか、今後の推移を見守っていきたいと思います。
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(執筆:高橋遠州 担当:ビッグコミックオリジナル編集部)
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【初出:コミスン 2014.03.02】
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