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ビッグコミック

2022.03.10

ビッグコミック&ビッグコミックオリジナル 第8回合同新作賞結果発表

ビッグコミック

8回目を迎えた合同新作賞は入選2作、佳作2作の結果となった。今回、審査に参加いただいた、こざき亜衣氏による講評も全文掲載!

 

審査員賞+入選 賞金70万円

[マッドアンドワンダー] やすじ(22)/東京都

 

「ビッグコミックオリジナル」5月増刊号に掲載決定!!

 

ストーリー

UFOに憧れを抱く少年ワンダーは、偶然、宇宙人マッドの宇宙船に乗り込む。
不時着した惑星で、宇宙征服を企む軍団に命を狙われることになった二人は…

 

 

こざき亜衣氏講評

審査でこんな雑な言い方したくないのですが、やばいです。それ以外の言葉が見つかりません。暗黒卿登場シーンは腹を抱えて笑いました。世界観もキャラクターも掛け合いもすごく独特で面白いし、展開も読めない。ネームのセンスも唯一無二。絵も上手くはないんですがなんか異様な説得力があります。面白かった〜。
吹き出しは楕円より円に近く、字に対して余白が大きいほうが読みやすいよ、くらいしか私からアドバイスはありません。今のやすじさんに必要なものはそういう下らない豆知識みたいな技術だけです。たくさんの人が楽しめるように、疲れてる人が疲れた頭でも読みやすいように配慮してあげてください(実際私は初読みの時疲れてて途中で一回やめました)。そしてこれの続きを読ませてください。お待ちしております。
でもこれは「ビッグ」と「オリジナル」なのかな…? いやむしろだからこそなのかな…?

 

入選 賞金20万円

[ワンバン] 宮崎宵依(33)/東京都

 

ストーリー

女子ジュニアテニス界の「女王」朝倉咲茉。脊髄損傷により車椅子テニスを始めた彼女は、ボールを「ワンバウンド」で打ち返すことに拘っていた。

 

 

 絵も構図も素晴らしかったです。コマ運びも上手く、動きを感じさせたりドラマチックな演出をしたり、作者の意図が狙い通りにこちらに響き、読んでいて気持ちがよかったです。熱を帯びた瞬間が美しく切り取られていて、ハッとするような表現がいくつもありました。車椅子テニスのかっこよさも伝わってきました。最後に自分の殻を破っていく主人公はとても素敵です。
 一方キャラクターにはもう一歩突き抜けた個性が欲しいところです。主人公はもっともっと悪いやつでもいいし、病院で出会った少女はステレオタイプ過ぎる気がします。このキャラクターたちを楽しんで描けているでしょうか? 物語のための装置になっていませんか? どうしたら人が目をとめてくれるか? どうしたら続きを読んでくれるか?どうしたら好きになってくれるか? 漫画の表現はもう十分できているので、もう一段上の「娯楽」としての漫画を意識したものを読んでみたいです。

 

佳作 賞金10万円

[秋刀魚] 山田はまち(34)/埼玉県

 

ストーリー

 上司のパワハラにより鬱病と診断された広瀬はるか。休職したある日立ち寄ったスーパーの鮮魚売り場で、1尾の秋刀魚と目があってしまう。

 

 

 食べることは生きること、シンプルで力強いメッセージですね。セリフは最小限で、人物の生き生きとした表情が物語をリードしてくれています。感情の起伏も自然と伝わってきて、絵がとてもお上手だなと思いました。空間の広がりを感じさせる構図も素晴らしいです。
 一方で気になってしまうのは読み応えのなさです。ひねるとか展開を増やすとか、そういうことではありません。なぜ秋刀魚と目が合ったのか? 鬱病と診断された彼女が包丁を持つ気力はどこから沸いたのか?ご飯が美味しかったから会社を辞める。シンプルな物語だからこそ、細部まで誠実に向き合って描いて欲しいです。14ページだから描けることが少ないわけではありません。この物語のベストは本当に14ページでしょうか?

佳作 賞金10万円

[梅に佩玉] 向井沙子(28)/愛知県

 

ストーリー

 三国時代の中国。父、劉備から蜀漢を引き継いだ劉禅は宦官である黄皓を重用する。王宮の穏やかな日常、その一方で魏軍は蜀の都へ迫り…

 

 

こざき亜衣氏講評

 読み切りで歴史物、難しい題材を選びましたね。物語からも絵からも描き手のこの舞台への造詣の深さ、愛着を感じました。選ばれたテーマも抒情的で色気があり好きです。しかし一方でそれ故の欠点もあるなと思いました。
 私も今まさに描いているのでその難しさはよくわかるのですが、歴史物は物語と同時に溜め込んだ知識の中から、読者に「今」必要な情報だけを選んでさり気なく伝えていかなければなりません。史実と物語のバランスを整えながらエンタメに昇華させるには、より一層の「客観視」が大事になっていくのですが、対象への愛着が大きいほどそれは難易度が上がっていきます。その点においてこの作品はまだまだ、情報の剪定が的確にできているとは言えません。すべてを描こうとしてモノローグに頼りがちになり、絵もコマも小さくなり、本当に伝えたいことが埋没している印象を受けました。読者は歴史のすべてを知る必要はありませんし、望んでもいません。物語を味わうのに必要な知識「だけ」を慎重に選んでください。タイトルはなるべく馴染みのある漢字で、難なく読めたほうがいいかな…と思います。

 

 

こざき亜衣氏総評

「オリジナル」にて『セシルの女王』連載中!

作家の視点、読者の視点両方から何度も読み返し、完成度よりもいかに「他者」に向けられているかを重視して審査させていただきました。私自身曲がりなりにも審査員などを任せていただける程のキャリアを築きながら、講評が自分への特大ブーメランだなと思う場面も多々ありました。一作品、一話、一ページ、一コマごとに延々と試行錯誤を繰り返していくことこそが、人に向けて漫画を描くということなんだなぁと改めて思い知らされました。またそれは、人と関わり続けようという意志そのものであるような気がします。しかしまたその一方で、ここにあるすべてが一人の人から生まれてきた非常に個人的な心の断片なのかと思うと、とても愛おしい文化だなぁとも感じました。
 漫画は自分と他者を繋ぐ境界線なのですね。私もまだまだ頑張っていきたいです。

第9回 合同新作賞募集開始!

詳しくは今後の「ビッグコミック」「ビッグコミックオリジナル」誌面または特設ページ http://bigcomicbros.net/71024/ まで!