2018.12.20
週刊スピリッツ

鳥飼茜×あっこゴリラ! 『前略、前進の君』刊行記念トークイベントを、野中モモがレポート!

少女誌に青年誌、情報誌に総合週刊誌と、さまざまなフィールドでユニークな色を放つマンガ作品を発表してきた鳥飼茜。今年の秋には浅野いにお氏と再婚、大型漫画家カップルの誕生がニュースになったのも記憶に新しい。

そんな彼女の新刊『前略、前進の君』は、年2回刊のファッション&カルチャーマガジン「maybe!」での連載をまとめたもの。ある高校を舞台にした短編連作のスタイルで、女の子たちの衝動や感情があざやかに切り取られる。全編鉛筆描きのアナログ作画にハードカバーの造本も体温を感じさせる一冊だ。

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鳥飼茜『前略、前進の君』試し読みはこちら

さる11月25日、東京・日比谷のHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて本書の刊行記念トークイベント&サイン会が開催された。ゲストに迎えたのはファーストフルアルバム『GRRRLISM』のリリースを10日後に控えたラッパーのあっこゴリラ。漫画家とラッパー、ジャンルは違えど自分の名前で発信する女性クリエイターふたりの対話を、司会を務めたライター・翻訳家の野中モモが振り返る。

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あっこゴリラ氏(左)と鳥飼茜氏(右)

鳥飼とあっこはこの日が初対面ではない。最初にふたりを引き合わせたのは、共通の知人である評論家でラジオパーソナリティとしても活躍中の荻上チキ。鳥飼はもともとあっこの曲を聴いており、飲み会の席で初めて顔を合わせたそうだ。あっこも鳥飼の作品におおいに刺激を受けたようで、『前略、前進の君』は「帰りの電車で速攻読んで『やばい!』みたいな」と語る。

本作中で印象的だった箇所として彼女が真っ先にあげたのが、第2話「それが恋。」より、「私だってそんな風に自分の気持ちが1ミリも間違ってないって目で世界を見てみたいよ」という台詞。女子Aが片想いする男子Aが片想いする女子B、という三角関係のうえで、女子Bから女子Aにぶつけられる気持ちに、なにかと不安定で自分に確信の持てなかった青春時代の感覚が思い出されたそうだ。また、ここで描かれる女性どうしの関係は、鳥飼がこだわり続けている主題でもある。「男の子があいだに挟まることで、なんか余計に女どうしの連帯が深まったり亀裂が走ったり、すごい強い波が起こるじゃないですか。その時って男の子はもはやどうでもいいみたいな。その男が蚊帳の外になった時の女どうしの感じっていうのが、嫌だったり逆に心強かったり」と鳥飼。

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次にあっこゴリラが「これもすごく身に覚えがある」と語ったのが、第3話「普通」より、なんとなく周りに流されて体を売ってしまう女の子のモノローグ「よかったこれでまたひとつフツーに手が届く」。周りから浮きたくないと願うのは、まだ人生経験の浅い思春期特有のことでは決してなく、今でも「普通」が気になると鳥飼は語る。「こういう仕事してると周りのみんなの個性が強すぎて何が普通なのかよくわからなくなっていくんだけど、でも同時に結婚したり子どもを産んだりとかすると、やっぱりまた『普通』の地平線が近づいてくるんですよ。『あ、これじゃなくてそれじゃないといけなかったのかな?』みたいなのがいっつも横にある感じっていうのが、中学の時とほんと同じで。終わったと思ってたらまた来た! みたいな」

キャリアを重ね恋愛が成就しても決して「めでたしめでたし」にはならない現実と向き合っている鳥飼だが、カラーページの入った第4話「虹の彼方に」は、恋を知った少女の喜びがあふれ出す特例的にキラキラした一篇。あっこゴリラも「ここだけ違いますよね!?」と反応する。この作品は浅野氏とつきあいはじめた頃に描かれたものだったそうで、担当編集者の小学館・金城小百合は、「そこで鳥飼さんの純粋さを知ったっていうか、ときめきを感じてるんだなって」と証言。鳥飼は「(それはマンガの登場人物であって)私がときめきを感じたわけじゃないから……」と、作品内容と作者の同一視を警戒しつつ、「影響されやすいんでそういうのあるかもしれないです」と、私生活のテンションが反映されていることを認めた。

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金城によれば、読者からの反響が特に大きかったのは、前述の第2話と、やんちゃで楽しそうな男の子の集団を見つめる女の子の視点で描かれた第5話「BOYS」だそうだ。

「男の子どうしで盛り上がってるところに自分は絶対に入れないなっていうのが、未だにすごくひっかかってるんですよ。男の子どうしの連帯が嫌な風に出ると、女の人を疎外してしまいますよね。男どうしの絆を深めるための単なるダシみたいに女を使ってる感じとか、ホモソーシャルって言うんですかね。でも、男の子いいなあ、楽しそう、尊い、とか思うのもそういうのと同じところでつながってるんですよね。そこが紙一重というのを描きたかったんだと思います。どうすればいいのこの気持ち、みたいな感じで。男女の差があるから良く見えるところって絶対あるでしょ」と語る鳥飼に、あっこゴリラも共感する。

「わかる! わたしラッパーだから、男の子のクルーわいわいやっててカワイイ! いいな! 入りたい! って思うの。楽しそうだから。でも自分が入ったら色が変わっちゃうし。それは中学の頃から思ってた。なんかキラキラして見えますよね」

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第5話より

あっこゴリラが軸足を置くヒップホップは、歴史的に男の子集団の良い部分も悪い部分も極端に現れているジャンルだ。フリースタイルバトルでは、単純に女性だということについて罵倒を浴びせられることもしばしば。そこで彼女は性差別や年齢差別、容貌差別などの問題に斬り込み、個性の尊重を呼びかける自らの活動を、90年代初頭に生まれたフェミニスト・パンク・ムーブメント「ライオット・ガール(RIOT GRRRL)」へのオマージュとして「GRRRLISM」と命名。そうした楽曲を発表するのに加え、SNSでハッシュタグを使って自らの経験や意見をシェアするようファンに促してもいる。

「『やべ~ブスにブスって言ってる~』とかで笑いが起きるっていうことがまじダサいっていう感じになればいい。そういうので盛り上がる空気、価値観が一番の問題なんですよ。そこで笑えない空気になるのがいちばん大事だと思う。『えっ全然面白くないよ大丈夫?』みたいな。価値観を変えるにはユーモアとポジティブさだってわたしは信じてるんです。だから、そういうことに関して正しい正しくないじゃなくて、いけてるとかいけてないとか、そういう風に価値観を変えていきたい。それはヒップホップ業界だけに限らず、音楽シーンにも言えると思うし、日本の、社会全体の問題。強いほうに刃向かうんじゃなくて女の悪口言ってるのって、中指を立てる方向間違ってない? って思うんすよ。だからわくわくしないし、刺激にならないっていうか」

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鳥飼もあっこゴリラの試みに共感を示す。「あっこちゃんがGRRRLISMをやってて、私もその意見とか主張とかすごくいいと思って。でも、フェミニズムみたいなことって、どうしても周りから『そういう人だよね』みたいな風に扱われて発信の方向性が定まってしまうというか、関心がある人だけに全部集約されていっちゃうのが私はひっかかっていて。『みんな当事者だよ』っていうのをどうやってわかってもらえばいいんだろうとか、嫌なこと言われるのを『その発言すべってるよ』みたいな感じにしていくにはどうすればいいんだろうね、って話を最初に会った時にしたんです。そうしたらあっこちゃんが、『うちらは作品を作る人だから、それがかっこいいとか、いけてるって思わせることでしか人を動かせない』って言ってたのがすごい印象に残っていて。他のインタビューでも何回か流用させてもらってます。かっこいいもの、面白いものを出して、それに賛同してもらうこと、それを選んでもらうことで人って動くんだなっていうのは私もすごい思ってるから。そういう熱い飲みを経て今日があります(笑)」

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漫画家やミュージシャンは作品を通じて、学者や政治家や実業家とは別のやりかたで世の中に働きかける。トークもまとめに入り、『前略、前進の君』の終わりに綴られた「私はあなたを救えない。だから私は私を救う。私たちは、私たちを救える。」という一節が司会に読み上げられると、あっこはすかさず「そこ、めっちゃパンチライン!」。さらに、「わたしこれがすごい好き。『でもその傷は、あなた一人だけのものにしなくていい。それはあなただけの物語とは全然違う文脈で、意味なんかなく無秩序に投げつけられた石によるものだから』。好きだし、わたしがGRRRLISMでやりたいことと一緒、って勝手に思ってます!」と、鳥飼へのリスペクトを伝える。

対して鳥飼は、「いや、そう思います。同じだと思います、そこのところは。なんか個であることとは全然無関係なところで傷つけられてる人っていうのがいっぱいいて。自分がそういう目に遭ったこともあるし。自分であることと女であることは別に分ける必要ないんだけど、女であることによって投げられた石みたいなものっていうのは、私個人に向かってきたものではない。それだったら『私たちに向かって投げないでください』って言うのは何も悪いことじゃないから、そこのところは『私たち』っていう風に言っちゃっても全然いいのかなと思って。それがフェミニズムだというのなら、あ、そうですね、って」と語った。

この後、「以前つき合った男性が女子高生の痴漢もののAVが好きだった」という金城編集のエピソードをめぐって、なぜ支配・被支配の関係に欲情してしまうのか、これからのエロはどうなっていくのかにも話は及び、およそ2時間にわたるトークは終了。「個を尊重しつつ手を取り合っていくにはどうしたらいいのか」という問題意識を持ち、「女性をモノのように扱う世の中に傷つけられても、あなたは決して悪くない」というメッセージをエンタテインメントとして発信すべく奮闘しているふたりは、すがすがしいエネルギーを放っていた。

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鳥飼茜『前略、前進の君』試し読みはこちら

そして鳥飼茜氏、スピリッツ新年8号(2019年1月21日発売)より新連載『サターンリターン』スタート! ご期待ください!

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スピリッツ1号に掲載された、新連載予告

(取材・文/野中モモ

関連リンク
スピリッツ公式

【初出:コミスン 2018.12.20】

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