トップ  >  【インタビュー】漫画原作者に聞く! 第4回『ジャガーン』金城宗幸氏(その2) ( 2018/11/02 )
週刊スピリッツ

2018.11.02

【インタビュー】漫画原作者に聞く! 第4回『ジャガーン』金城宗幸氏(その2)

週刊スピリッツ
漫画原作者インタビュー第4回は、ビッグコミックスピリッツで『ジャガーン』(画・にしだけんすけ)を連載中の金城宗幸氏! 映像化された『僕たちがやりました』『神さまの言うとおり』などをはじめ、多くのヒット作を手がける金城氏に、漫画原作者になるまでと、漫画原作者とはどういう仕事なのかについてなど、お話を伺ってきました。(インタビューその1から読む)




漫画原作者に聞く! 金城宗幸氏インタビュー [その1][その2]






原作者もネームは切れた方がいい






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――現在、漫画家や原作者になるための勉強をしている人は、どういう修練とか、心構えをしておけばいいと思われますか?






これから原作者になりたいという人は、漫画を描く経験をして、ネームまで切れるようになったほうがいいと思います。僕はネームこそが「漫画」だと思うので。
僕は少年誌出身なのですが、少年誌系の漫画家さんの中には、10代や20代で、ずっと漫画だけを描いてきた人もいる。
原作者は一般の社会経験的なものを持ってたほうがいいと思うんですが、原作者と組む漫画家さんについては、別にそういうものは持っていなくてもいいのかなと。
かえって、漫画のことしか考えていない、人生のエネルギーのほとんどを漫画に注ぎ込む漫画の怪物のような人。原作者は、そんな人と組むほうがいいんじゃないかと思います。




生身の自分の「感情」を大事にしています






――アイデア、知識を得るために、心がけていることはありますか?






一応、本やネットで調べたり、足を運んだりはしますが、ノリやセンス重視で、あまり専門的な取材をするタイプではないので、『ナニワ金融道』みたいな作品は描けないと思います。
生身の自分が得た「感情」のほうを大事にしているので、「これは頭がおかしい!」とか「めっちゃ楽しかった」と思ったことを寝かせておくと、書いているときに頭の片隅にあるものが出てくるんですね。
そう考えると、人と会ったり、喋ったりするのが好きなことが、結果的に取材になっているので、広くいろんな人と会えたらいいなと思います。





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――人に会ったり話したりすることが、どういうふうにネームの役に立つのでしょうか?






人と会っていろんなエピソードを聞くと、その人の「人となり」を知ることができますよね。
以前、「心理学」とはどういうものなのかというお話を専門家に聞きに行ったのですが、途中から「この人がなぜ、それをやっているのか」というのが凄く気になりだして。心理学とかそっちのけで、その人自身のことを聞きたくなる。その時に、自分はそういう性格なんだなと思いました。
本を読んでわかることは、結局誰にでもわかるということじゃないですか。
だったら僕は、自分が生で感じている、その人の言葉とか、顔の使い方とか、「ここで少し黙ったな」とか「ここで笑った」とか。そういったことを感じるように心がけていますね。




――それが、キャラクターのリアリティになってきているんでしょうね。






リアリティがあるかどうかわかりませんが、一旦僕の中を通して出てきたものを、漫画家さんに伝えると、そこでまた漫画家さんのフィルターがかかって、全く知らないキャラクターになって出てくる。それが面白いですね。




――キャラクターを創る時に、大事にされていることは?






「キャラクターから創る」ということは、あまりなくて、「シーンから創る」ことが多かったりします。
「こういうシーンで、こういうことをする奴」とか、「こういうシーンになってしまう奴」というのは、どういうバックボーンなんだろうっていう。たぶん人をそういうふうに見ているんだと思います。
すると「きっとこういうこともあるだろう」と考えていくと、また新しいシーンがポーンと生まれてくる。
だから、シーンを「絵」で考えて、創っているんだと思います。




――原作者によって「キャラ先」の方と「ストーリー先」の方がいらっしゃいますね。






僕はキャラ先ではないですね。わけがわからないです。だって難しくないですか。
人生を「1」から考えていくよりも、ハイライトの「100」くらいのところから逆算するほうが楽ですよね。




――いつでも楽しまれているようにお見受けしますが、そういう性格は原作者に向いているのでしょうか?






僕はどんな状況でも、楽しむような性格ですね。楽しまないと損じゃないですか。
でも、それが、原作者に向いているかどうかはわからないですね。
「こうしなさい」という人がいて、それに従う「犬」みたいなタイプの作家さんもいるかもしれないですが、僕は「ネコ」で、常に楽しむタイプなので





『ジャガーン』ハッピーエンドではなく、過酷な運命を描く






――金城さんの作品は『ジャガーン』を含め、キャラクターをどんどん過酷な境遇に落としていくような物語が多いと思いますが、キャラクターを追い込むのはご自身が辛くなったりはしませんか?






むしろ楽しいですね(笑)。
「不条理なこと」に対する思いは、子どもの頃から、すごくありまして、それとどう折り合いをつけ、どう諦め、それを腹に抱えたままどう生きるか、というのがその人のポイントであるような気がするので。
まあ、僕も『ジャガーン』を描き出して途中ぐらいで、「俺、こんなんばっかり描いているな」と思いました(笑)。全体的に「自分の描きたいのはこういう作品なんだな」と。
だって、綺麗な「ハッピーエンド」のお話っていうのは、完全に「嘘」じゃないですか。
でも、世間の人々の中には、それを「嘘」だと思わず、いつか自分の人生にも、何かそういうキラキラが待っているだろうと信じてしまっている人もいる。
これは辛辣かもしれないのですが、たとえば、誰かと付き合う時にも、そういうキラキラした未来をゴールに設定して付き合っているけれど、「そんなものは嘘だ」と。(笑)。





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『ジャガーン』第6話「ウェディング・ハイ」より







――それが、『ジャガーン』の1巻の結婚式のシーンですね。結婚式で新婦が「壊人」、バケモノになって、来賓を惨殺しまくるという......。






人生が「作られた幸せ」や「刷り込まれた幸せ」の集合体のようなものだとしたら、人生には「確かなもの」が何もないのかということになりますが、もしそうだとしたら、それはやっぱり、しんどいですよね。
じゃあ、「確かなもの」ってなんだろうと考えた時に、僕はこれまでの作品の中で瞬間的な快楽や気持ちよさ、面白さ、幸せといったものしか、描いていない気がするんです。
だから、永遠に続くグルグルしていくハッピーエンドな漫画は好きではないし、得意じゃない。
漫画って、2時間で終わらなきゃいけない映画やドラマとは違って、読者はその週、その回ごとに「来週どうなるんだろう!?」「ここが面白かった」「面白くなくなった」って感じる。それって最高だし、それこそが漫画じゃないですか。
逆に、最初から全部考えて、先が決まっている漫画っていうのは、僕にはよくわからないですね。




――大切なものを失ってしまって戻らない、不可逆な悲しみや虚しさがどの作品にも描かれていますね。






そうですね。「しゃーない」というのが、僕の座右の銘なんです。「仕方がない」。
「しゃーない」というのは、ネガティブにとらえていると人もいると思いますが、僕はポジティブな言葉だと思っているんです。
「しゃーないから楽しもう」とか、「しゃーないから次に行こう」というふうに持っていけたらいいのかなと。
『ジャガーン』の中でも、落ちて終わったり、こじれてわけがわからなくなってしまったりした人を「壊人」という形で描いているんです。
 基準としての「しゃーない」という自分がいれば、波が起きた時に「しゃーないな」と思って、立ち返れるじゃないですか。




――どの話もつらいことがいっぱいなのに、なぜか読後感はわりと爽やかというか。あっけらかんとしていますね。






爽快と感じていただきたいとは思っていなかったんですが、それは嬉しいです。




――登場人物は何かイタイところを引きずってきたような人たちが多いなか、主人公の蛇ヶ崎が救いだったりしますね。






そうですね、僕は、クレイジーな人が好きなんですよ。その「癖になる感じ」を出せればいいなと思っています。
主人公は、今のところ、「意外といいヤツ」で描いているんですが、僕自身はもう少し「イヤなヤツ」にしようと何度もしているんです。編集部からは「やめてくれ」と(笑)。




――そのあたりが、チームで作り上げているバランスですね。






まさに、そうです。
僕一人だと気づかないことも、編集さんに指摘されると「なるほど、そうか」と。「確かに、僕にもその要素があるので、ちょっとこうしようとか」「いやいやそれは甘えすぎじゃないか」「もうちょっと、こういうヤツも要るんじゃない」とか。




――基本的には、全体の大きな流れは頭の中にあるんですか?




だいぶ大きめにあるくらいですね。
毎週毎週もそうですし、この巻でこうしようとか、このシリーズではこうしようというのは、なんとなく決めてありますが。

――人間の心の奥深くにある恐れや欲望などを描く、ハードなしんどい展開が多いですね。






それ、妹にも言われました。1巻を読んで、「これ、お兄ちゃんのシンドイバージョンのやつや」と(笑)。
でも、僕自身はそんなに深刻に考えていなくて、イヤな気持ちも、僕にとっては「いい」んですよ。
「気持ちいい」「さわやか」というのと、「イヤだ」「ストレスだ」というのは、両方同じなんじゃないかと思っていて、ちゃんとストレスを感じられている自分がいて、これだけ凹んでいる自分がいるからこそ、幸せな時の振れ幅も大きくなる。
そこが、本当に面白いところだと思います。
僕は「面白いかどうか」で、人生を生きているので、「嫌なこと」も、「良くはないけれど面白い」と思えればいいかな、と。
もっと爽やかに作ることができればいいんですが。僕はそういうのが得意ではないので、爽やかなものというより、自分が「いい」と思っているもの、自分が読みたい漫画を描きたいですね。





『ジャガーン』は自分でも変な漫画だと思います






――『ジャガーン』の構想はどのようにして出来上がったのでしょうか?






『ジャガーン』は最初、家族の物語だったんです。
お父さんとお母さん、お姉ちゃん、弟という4人家族のところに『ドラえもん』みたいなキャラクターがやって来て、それぞれの欲望を叶えてくれるという感じの物語で。
ところが僕には、その中のお母さんの気持ちだけどうしてもわからなくて、「これは無理だな」と諦めまして、「ヒーローになりたい」という願望を持つ弟のキャラクターを主人公にした「ヒーロー漫画」にしようという話になったんです。
最初の話に登場していたのがフクロウ型ロボットだったんですが、その名残は今のフクロウのドクちゃんとして残っています。
最初はメカっぽい、スチームパンクっぽい感じで、にしださんに描いていただいてたんですが、もう少しオドロオドロした感じの方が、にしださんはハマるんじゃないかということで、現在のような形になりました。
自分でも『ジャガーン』は変な漫画だと思いますが、でも「今っぽい」感じというのは、意識しています。「今っぽい」という言い方は今っぽくないけど(笑)





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主人公・蛇ヶ崎の相棒(?)ドクちゃん(『ジャガーン』第2話より)







――金城さんの作品は、どれも現代社会の一面を描いていると思うのですが。






まさに、そうですね。僕は「残る漫画」を描こうという発想はゼロなんです。漫画って、残るものじゃないと思っていますから。
連載体系からしても、読み捨てられて、「青春の一つ」であるべきものだと僕は思っているので、「残るものを創ろう」と思ったら、絶対にダメだろうと思う。
手塚治虫先生だって「後世に残る作品を創ろう」なんて、絶対に思っていなかったと思うんですよ。「結果として残る」だけで。
だから、「残るものを創ろう」という行為は、僕はしたくないんです。
最近は、賢い読み方をされたり、「文化」になったりしていますが、漫画はそういうものではなくて、もっとジャンクでなものだと僕は思っていますから。




――ラーメン屋に置いてあったりするような。






それでいいんです。生活の一部にさらっとある。まさにそういうの、最高じゃないですか。それが漫画のあるべき姿かなと。
僕は「構想を練り続ける」というタイプではなく、「その日の自分が創れるものを創ろう」という意識で描いています。ネタをずっと温めていても意味がないし、じきに「腐る」と思っているので。
自分がこれまで経験してきたこと、今描けることを、自分より若い人に向けて描くだけですね。





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――金城さんの作品は何作も映像化されていますが、脚本などには目を通されるのでしょうか?






内容については、一ミリも口を出したことがないです。
基本的には見開き単位で読む「漫画」と、2時間で終わる「映画」や、1時間単位で切る「ドラマ」は全く別の種類の媒体だと思っているので。
リスペクトを持ってメディア化していただけるのを嬉しく思って、質問などがあった時は協力させていただいています。




――『ジャガーン』も映画化するとヒットしそうな気がしますが。






過去には『神さまの言うとおり』が映画化されたのですが、あれも映像を意識して、キャラクターの動きがわかりやすいようなコマ割りを心がけたりしていました。映像化される時は園子温さんや三池崇史に監督していただけるといいなあと思っていたら、三池崇史さんが監督してくださって、嬉しかったですね。
『僕たちがやりました』も、『池袋ウエストゲートパーク』とか『トレインスポッティング』を意識して、ドラマっぽいセリフ回しにしようと心がけていたのですが、それがドラマのスタッフの方にしっかりキャッチしていただけたと思って、ありがたく思っています。
『ジャガーン』は、どちらかというと、アニメっぽいセンスが多いし、にしださんの才能もアニメっぽい感性で創ってらっしゃる方なので、アニメを意識した演出とか、セリフとか、キャラクターで創っているつもりです。
あと、欲を言えばアニメ化とパチンコ化されるといいなあと思いますが(笑)。




――ご自身のお好きな映画、影響を受けた映画は?






タランティーノが好きですね。ルールなんか関係ないというブッ壊れたノリとか、「これがエンターテイメントだ」っていう感じとか、あのジャンク感は大好きです。邦画だと『ゆれる』とか好きですね。




――海外の読者は意識されていますか?






海外向けに翻訳されてもいますし、反響もありますが、海外に向けての特別に意識していることはないですね。
「映画」は金銭的にも人材的にもハリウッドがトップだとしても、「漫画」は日本こそが「ハリウッド」じゃないですか。
だから、漫画に関しては、日本で一番面白いものを創れば、それが世界のトップなんだという意識でやっています。少なくとも、僕が死ぬまでは、日本は漫画のハリウッドでありつづけると思っていますから。




――10月末には『ジャガーン』の第6集が発売されますね。






第6集は新展開、それも大きな新展開の序章といった感じなのですが、アツいのとエロいの、人間の業や進化、成長といったものが、ギュッと詰まっていて、これまでとは少し読み味が変わるかなと思っています。
それと、「半壊人」という概念が出てきます。バトルも、能力も、キャラクターも、さらに面白くなっていると思いますので、乞うご期待ということで、よろしくお願いいたします。




――どうもありがとうございました。






(平成30年10月1日 編集部にて)




漫画原作者に聞く! 金城宗幸氏インタビュー [その1][その2]







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『ジャガーン』最新刊第6集は10月30日より好評発売中!(電子版は11月2日発売)






金城宗幸(かねしろ・むねゆき)
1987年、大阪府生まれ。京都精華大学マンガ学部卒。在学中に「第80回新人漫画賞特別奨励賞」を受賞。現在、ビッグコミックスピリッツに『ジャガーン』(画・にしだけんすけ)、週刊少年マガジンに『ブルーロック』(画・ノ村優介)を連載中。代表作として、映画化された『神さまの言うとおり』『神さまの言うとおり弐』(画・藤村緋二)、テレビドラマ化された『僕たちがやりました』(画・荒木光)のほか、『インビジブル・ジョー』(画・芥瀬良せら)、『ビリオンドッグズ』(画・芹沢直樹)、『グラシュロス』(画・藤村緋二)などがある。




(取材・構成:山科清春)





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【初出:コミスン 2018.11.02】

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