トップ  >  「ジャケ萌え!」2冊目『わたしの宇宙』【後編】 ( 2014/12/12 )

2014.12.12

「ジャケ萌え!」2冊目『わたしの宇宙』【後編】

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読むだけじゃない、見て触って嬉しい単行本。なんだかカッコイイ! 可愛い、きれい、オシャレ!そんなグッとくる「マンガの装丁」の魅力をお届けする連載企画が「ジャケ萌え!」です。
装丁を見るだけで内容が気になってしまう、そんなたまらない"見た目"をしたおススメ単行本をピックアップし、見どころや舞台裏などを紹介していきます!

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第2回目は野田彩子さんの『わたしの宇宙』。話題を呼んだメタマンガの装丁について、前編に続いて、後編ではデザインを担当したchutteさんにインタビューを敢行しました!

>>「ジャケ萌え!」2冊目『わたしの宇宙』【前編】はこちら

デザイナーchutteさんインタビュー


――『わたしの宇宙』の装丁を作った時の苦労したことや、ポイントとなる部分を教えてください。


野田さんには、装丁で生身の人間を表現することに抵抗があり、第1集の制作過程でそれはわかっていたのですが、第2集のラフで手の写真を入れてシレ~ッと提案してみたところ、「手そのものの存在はもちろん「写真」という点が物語で描いている範囲を超えてしまっている。読者の実体に踏み込みたくない」と、当然のごとく反対されました。
私としては「手がないと雑誌を開いてる状況が伝わりづらいし、単純に異物感があって面白いんじゃないの」という理由からだったのですが、それではデザインの大義とは言えないので「P.169の主人公のセリフ、これは読者を描いてもいいのではないか」「一見コンセプチュアルなマンガだが物語の帰結としては体温を感じるものにしたい」「第2集は内面的で難解に感じる描写が多いのでエンターテインメントとしてわかりやすい仕掛けが欲しい」などと屁理屈を並べて、どうやって野田さんに納得していただけるかに腐心しました。結局は「どうしてもやりたいからやらせてもらえませんか?」みたいな泣き落としになってしまいましたが......。

※「ぼくらが生きているのを、見つけてくれた人がいる。だからぼくは生き続ける」


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――この手はchutteさんの手ですか?


この手が誰のものであるかは、明かさないことにしておきます。ただ、実際にこの手をどのようにすればよいかには悩みました。女性的であれば作者を連想させてしまうし、(大人の)男性的であれば第1集の重要な登場人物である「鮫島先生」を連想させてしまうかも知れない......。手を登場させたいと泣き落としておきながら自分では解決できず、豊田さんにアドバイスをいただいて現状のような手になっています。

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――第1集のカバーを外した時の、キャラだけが描かれていないマンガもchutteさんのアイデアでしょうか?


作中では登場人物にフキダシが見えていたり、触れることができることになっています。第1集後半で主人公が不在になるプロットをヒントにしたのですが、本体表紙からキャラを消すことで、読者にもコマ・フキダシ・セリフ・スクリーントーンをモノとして見る/触る体験をしてもらおうと考えました。

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――『わたしの宇宙』のオススメコメントをお願いします!


"マンガはマンガ家とともに生き、マンガ家はマンガとともに生きている"。
すべてのマンガ作品がそうだと思いますが、『わたしの宇宙』はメタ構造をとった事で改めてそれを浮き彫りにします。物語の展開にもいろいろな仕掛けがあって、登場人物同様に読者も翻弄されますが、読後にはジワジワと清々しさが伝わってくる良作です。

――chutteさんの、ユニークな発想で作品の個性を際立たせるデザインワークが印象的です。chutteさんご自身について教えてください。 ちょっと無茶振りかもしれませんが、好きなマンガ装丁を3つを挙げるとしたら?


ごめんなさい、すぐに選ぶことができません。ですが、マンガ装丁としてだけでなく、ブックデザインとしても成立しているものが好みです。
ここで断りもなしにお名前を出すのは失礼かと思いますが、例えばセキネシンイチさんのお仕事ぶりにはそれを感じます。プロレスも上手いけどガチでも強いんだろうなぁと勝手に想像しています。

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扉ページのタイトルロゴは毎回違うデザイン。文字が踊っています!


――趣味や好きなもの(食べ物、映画、なんでも!)も教えてください。


約2年半前、ある仕事のネタさがしでアイドル動画を検索していたところ不覚にもハマってしまい、そのまま動画漁りで2週間ほど廃人同然になってしまいました。
現在は、48グループ・スタダ軍・ハロプロの三大メジャーと地下以外の中堅アイドル全般の在宅KSDDとなっており、そんな自分がキモイです。
なので、好きなマンガ装丁を3つ挙げるのなんかはやめて、好きなアイドルを3人(2014年11月現在)を挙げる事にします!

・遠藤舞さん[元アイドリング!!!]
(すでにグループを卒業しており、キャリア的にもアイドルとはいえませんが)
絶対音感を持つ音楽的センスだけでなく、番組で磨かれたシュールなギャグや下ネタへの華麗な去なしなど笑いのセンスも卓越している。しかもそれらの才能が一部のファン以外には日の目をみていないもったいなさ加減。すべてにおいてすばらしい!

・志田友美さん[夢見るアドレセンス]
身体能力の高さを感じさせるパフォーマンスとバカっぷりが弾けている。
人柄ゆえか媚びるような所作にも厭味がなく、見ていて楽しい。

・田口華さん[さくら学院]
お父さんの影響からご自身もプロレスファンであり、「ガチンコとヤラセの2つでしか物事を語る人間にはなるな」との教えを受けているとの事。お父さんありがとう!

『ジャケ萌え!』がアイドル話で終わってしまうのもいかがなものかと思うので付け加えておくと
重用されるひな壇芸人/量産されるアイドル/持ち上げられるマンガデザイン...
私にはこれらが同じ地平にあると感じており、その動向を今後もじっくり観察していこうと思います。

※KSDD
「KS(クソまたはカス)」「DD(誰でも大好き)」の意。アイドルファンの間で使われており、どのアイドルのことも見境なく節操なくこよなく博愛する人のこと。


単行本データ


『わたしの宇宙』 野田彩子
[判型]B6判(128×182mm)
[カバー]ミルトGAスピリット スーパーホワイト 四六判110kg 4C+マットニス
[編集]豊田夢太郎
[デザイナー] chutte
★ジャケ萌えMEMO★
カバーのイラストがIKKIの原稿用紙に描かれていたり、両端を誰かが手で持っているというメタ構造のデザインは、買ってからよく見たら......と気づきました。目立つように演出されているわけではなく、購入して開いてみてから気づく演出。
その後ろにはデザイナーはもちろん、作者や編集者、ひいては書店関係者など多くの人に支えられたアイデアが隠れているのです。そして、chutteさん。多忙な中、一体どうやってアイデアを膨らませているの!? ものすごく謎! と持っていたら、原動力はアイドルだったようです。アイドルすげえ!

■ジャケ萌えバックナンバー
【新連載】「ジャケ萌え!」1冊目『SEIKI -土田世紀 43年、18,000枚の生涯-』【前編】
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「ジャケ萌え!」3冊目【Design Work of 関善之】『白暮のクロニクル』『重版出来!』『機動戦士ガンダムサンダーボルト』

(ライター:川俣綾加)

フリーライター、福岡出身。デザイン・グラフィック/マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブ、『マンガナイト』などで活動中。著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』 http://ayamata.jugem.jp/



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わたしの宇宙 1 野田彩子
わたしの宇宙 2 野田彩子

【初出:コミスン 2014.12.12】

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