17歳の女子高生・あきら。片想いの相手は冴えないおじさん。眉月じゅん『恋は雨上がりのように』／アニメ評論家・藤津亮太のアニメな？漫画【第７回】

週刊スピリッツ

原作の映像化や、その逆のコミカライズなど、近年とても密な関係にある漫画と映像作品。でも、メディアが違えば表現方法やその内容も変わってくるもの。アニメ評論家・藤津亮太氏ならではの切り口で、アニメやドラマ、映画と関りの深い作品を紹介する漫画レビュー。観てから読むか？読んでから観るか！？第７回のレビュー作品はこちら......！

『恋は雨上がりのように』眉月じゅん

　17歳の女子高生が、45歳の冴えない中年男性を一途に恋する物語だ。

　橘あきらは17歳の女子高生。ファミレス『cafeレストランガーデン』でアルバイトをしている彼女は、店長の近藤正己に密かな思いを寄せていた。ただ感情表現が不器用なあきらの気持ちはなかなか近藤には伝わらない。
　店長の近藤は、ぱっとしない45歳。お客にスタッフに気を使い、いつもヘコヘコと頭を下げて働いている。おまけにバツイチで子持ち、加齢臭もする。ある事件をきっかけに、あきらと近藤の距離はちょっとずつ詰まっていくことになる。
　あきらの恋心を縦軸にした本作だが、そこで浮かび上がってくるのは「青春の挫折」だ。

　あきらは、実は元陸上部のエース。怪我をしたことをきっかけに陸上部から離れ、それによって友達との間にも微妙に距離が生まれてしまっている。
　自分の中で一番大切だったものがふいになくなって生まれた、ぽかんと空いてしまった時間。そこに入ってきたのが、近藤という存在であり、ガーデンでのアルバイトだったのだ。そしてあきらはまだ自分が怪我をしてしまったことと正面から向き合うことができていない。

　一方、あきらの一途な姿を見た近藤の中には、10代のころの自分の姿がふいに蘇る。「もし、自分が今、10代だったら......」。それそのものは、平凡な日常に訪れる感傷的な一瞬に過ぎない。むしろ近藤を逡巡させるのは、あきらの"若さ"に触れることが、自分の抱えた"青春の挫折"を思いださせるからだ。
　近藤はかつて小説家を志したことがあり、今もまだ密かに小説を書こうとしている。彼もまた、決着のついていない"青春の挫折"を抱えているのだ。この近藤の屈折のありかたが、本作に奥行きを作っている。

　本作は、あきらの真っ直ぐな恋心を入り口に、2人が「青春の挫折」とどう向かい合うかを描いた作品ともいえる。これは決して、挫折を克服したり、青春を卒業したりすることだけが正解ではない。「青春とは人生のある時期ではなく、心の持ち方を言う」というのは詩人サミュエル・ウルマンの有名な言葉。本作はその「心の持ち方」のきらめきそのものを描き出そうとしているのではないだろうか。

2018年１月からはＴＶアニメもスタート。こちらはあきらの心情にぐっと寄り添った演出で、その中でも、あきらの一途な瞳がとても魅力的に描かれている。

『恋は雨上がりのように』第1～9集、絶賛発売中！

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『恋は雨上がりのように』（眉月じゅん／週刊ビッグコミックスピリッツにて好評連載中）

17歳。高校２年生。感情表現が少ないクールな彼女が、胸に秘めし恋。その相手はバイト先のファミレス店長。ちょっと寝ぐせがついてて、たまにチャックが開いてて、後頭部には10円ハゲのある冴えないおじさん。青春の交差点で立ち止まったままの彼女と人生の折り返し地点にさしかかった彼が織りなす恋のものがたり。
『マンガ大賞 2016』第７位、『このマンガがすごい!2016』(宝島社)オトコ編第４位、年齢・性別を超え、圧倒的な支持を受ける眩いほどに純粋な正統派ラブストーリー、待望のアニメ化！ 2018年1月11日（木）24:55よりフジテレビ"ノイタミナ"ほかにて放送開始!!
[アニメ公式サイト]

（文：藤津亮太）

1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメゼロ年代アニメ時評』、『声優語』など。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」でアニメの楽しみ方を紹介するネット番組を行っている。（twitter：@fujitsuryota)