トップ  >  【連載インタビュー】脚本家・辻真先さん/アニメ界のレジェンドが語る、マンガならではの演出の妙とは? 『魍魎の揺りかご』『僕だけがいない街』などの三部けい作品を絶賛!! ( 2014/01/25 )
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2014.01.25

【連載インタビュー】脚本家・辻真先さん/アニメ界のレジェンドが語る、マンガならではの演出の妙とは? 『魍魎の揺りかご』『僕だけがいない街』などの三部けい作品を絶賛!!

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第44回 辻 真先

《プロフィール》
1932年生まれ、脚本家・推理作家。アニメ脚本では1960年代の黎明期から2013年『名探偵コナン』まで、推理作家としては2009年に第9回本格ミステリ大賞を受賞するなど、長きに渡り精力的に活動を続けている。





「『よくわかって面白くない』より、『わからないけど面白い』がいい」


 

 ずっとアニメやドラマを作ってきたので、どうしても演出の観点から読んじゃうんですよ。そういう見方をするのはお描きになっている方にも失敬だし、まずいなあと思うんですけどね。


 単純に面白がって読んでるのが、三部けいさんの作品です。非常にうまいんですよ。感心したのは、[魍魎の揺りかご]の終盤、船が沈没していくなかで、主人公の少年がみんなを助けるために潜って、装置を動かしに行こうとする。でもそこへ行ってしまったら、二度と戻ってこられない。みんなそれをわかっているのであえて止めない。そしてページをめくると主人公の男の子だけいなくなってて、奥にぽちゃんと小さな水煙だけ残っていて、ほかの連中はそのまま。黙って主人公を見送ったんだという場面が、悲哀感あるんです。ああいうすごい"めくり"の効果、久々に見ました。これは残念ながらテレビとか映画でも、小説でもできない効果なんですよね。めくって進んで、戻って両方を見比べる。双方向での余韻、それも絵だけで勝負ですからね。仲間たちのポーズがほんの少し変わっているところが、また素晴らしいですね。
 連載中の[僕だけがいない街]にしても、現在と昭和60年頃を行ったりきたりして謎に迫るという、これはうまいですね。あの方の場合はどんどん風呂敷が広がって収拾がつかなくなることがないもんですから、安心して読んでるわけです(笑)。


 

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[魍魎の揺りかご] 三部けい (C)Kei Sanbe/SQUARE ENIX


(ヤングガンガンコミックス全6巻/スクウェア・エニックス)


 
 

ひとつの裁判を両側から


 

 本編が完結したのでこの前まとめて読んだ、清水玲子さんの[秘密-トップ・シークレット-]、これはすごいですね。後半の怒濤の展開というか、伏線の回収というか、話の作り方がうまい。あの方は綺麗な絵を描きますからね、だから両方得ですね。よく行くマンガ喫茶で10冊以上読むのもきついなと思って、全部買っちゃった。頭から終わりまでよくできてますね。
 それから加藤元浩さんの[Q.E.D.証明終了]と[C.M.B.森羅博物館の事件目録]。どちらも面白いですけど、ひとつの裁判を両作品で同時に描くということやったんですね。片方の主人公が判事役に、もう片方の主人公が検事役になる。これはどうする気だろうと思いましたね。でもちゃんと面白く描ききったのは驚きましたよ。


 

情愛と理屈の両方


 

 ミステリーのセンスを見事に入れてるのが、最近だと[絶園のテンペスト]ですね。無人島に幽閉された女の子が、魔女なもんだから魔力で日本と交信してるんだけど、すでに無人島ではその女の子の骨が発見されてんですよ。さあ、わけわかんないですよね。骨は向こうにあるけれど、ご本人は魔法でこっちに来てるわけですよ。でもちゃんとそれに理屈がついてるんですよね。いまだに僕よくわからない。なんか騙された気がするけど、なるほどそういう考え方があるかと納得しちゃいました。わからなくても面白けりゃいいんです。「よくわかって面白くない」のはくだらないんですよね。「わからないけど面白い」ならいいんです。これはなるほどミステリーの手だな、ロジックの面白さだなと思ったんですけども。少年マンガは理屈の面白さを喜びますからね。少女のほうはやっぱり情愛のほうですから。
 さきほどの三部けいさんの[僕だけがいない街]は、うまくすると情と理、つまり情愛の情・理屈の理、その両方をうまく表現してくれそうなので期待してます。母親が殺されちゃうんですけど、なぜ殺されたのか探るために過去へさかのぼるんです。そうすると、生きてるお母さんがいるじゃないですか。どうってことない場面にきゅーんとくるんですよね。ぎゃあぎゃあ言いつつ一緒に飯食うのは幸せだなぁって心から男の子が言うんですけど、お母さんはよくわからないんですよ。読者にはちゃんとわかるけど。マンガはやっぱり、筋書きだけ面白いけれど読むと骨ばっててカサカサしてるっていうより、血もあり肉もあり涙もありというほうを読みたいですね。



  tsuji 

《辻真先さんのおすすめ作品》

[魍魎の揺りかご]三部けい

[Q.E.D. 証明終了][C.M.B.森羅博物館の事件目録]加藤元浩

[秘密-トップ・シークレット- ]清水玲子 ※スピンオフの新シリーズ[秘密 season 0]もあり。

[絶園のテンペスト]城平京・左有秀・彩崎廉[僕だけがいない街]三部けい


 

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[パズルゲーム☆はいすくーる]野間美由紀


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■次回予告:第45回 清水ミチコ(タレント)
土田よしこ『つる姫じゃ~っ!』に始まり、いがらしみきお、おおひなたごう作品まで。
"笑い"を表現するポイントとは...?
<2/10(月)更新予定>







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(取材構成:ビッグコミック編集部・根本和佳(DAN)、撮影:松原康之)






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【初出:コミスン 2014.01.25】

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